令和の販売員心得 黒川想介

少子高齢化という言葉が使われ始めたのは、1980年代後半のことである。今では販売店営業に若い人材が入社してこないという苦慮の声が方々から聞かれる。もともと業職として募集しても応募が少ないので、営業事務や一般事務で募集して入社後に営業に回す販売店も多い。それでも応募は応募は極端に少なく、入社してもすぐに辞めてしまうという嘆きをよく聞く。
このすぐに辞めてしまう現象を昔と比較する人は、とかく時代のせいにしたがる。確かに時代のせいでもあるかもしれないが、辞める率が高いことは時代のせいばかりとは言えない。
営業職のイメージが悪いのは「赤の他人に物を売ることには大変な苦労がある」ということを、日頃の生活の中で垣間見ているからである。しかしどんな職種であっても、分からないうちは大変な苦労があるものだ。だから、分かるまでの辛抱と理解してきたときに、どんな感想を持つのかが大事なのだ。
現在、販売店営業で活躍している中堅販売員のなかにも入社後に営業に回されたという人は多い。彼らに現在の心境を聞いてみると、大半が「営業は面白い」と言う。その感想は大雑把には二通りあるようだ。1つ目は、顧客に慣れ、難しい商品に慣れ、多くの商品群に慣れ、営業と言う職務に慣れて、日々つつがなく営業活動をしていることを面白いと表現しているもの。2つ目は、営業と言う職務に慣れて、それまでの経験を土台にして、新しさを求めて次のチャレンジをしたくなるので営業は面白いというものだ。
後者のように感じている人をそばで見ている新人は、辞めたくなることはないだろう。辞める人がいるにしても少ないはずだ。どんな職種でも新しいことにチャレンジしている姿は生き生きとして見えるものだ。営業は行動が見える職種であるから、後者のように考えている人は生き生きとして楽しんでいるように見えるものである。だからその姿をそばで見ている新人は巻き込まれてしまう。新人が辞める/辞めないは先輩の営業に取り組む姿勢も大きく関係するのだ。
元来、販売員は商人である。商人は対人関係業を営む人であり、新しい人を求めて行動する人である。そして、新しい対人関係を生み出すために、情報の重要性、特に情報収集の大切さを知っている。営業は商人であり、セールスマンではないのだ。
令和期は、平成期にはひとくくりにしていたFAマーケットの分化が始まっている。だからそれらのマーケットの客層や担当者は平成期と同じではない。商人であるならビジネスを求めてそれらの人たちにアプローチしなくてはならない。そのためには、対人関係を作り出すための情報の準備がいる。
平成期に商品売りをしていて、商品に関係のある情報にしか接してこなかった販売員は、改めて情報収集力について考えなければならない。情報収集するためには相手にしゃべってもらうコミュニケーション力が必要になる。情報収集力とコミュニケーション力は一対であり、机上の学習では身に付くものではないのだ。
FA販売員の多くは、新規見込み客に初めてアプローチをする時、前もって興味を持ってもらえそうな商品情報を用意してから会いに行く。これでは会話の中心が準備された商品になり、他の話題が相手から出ない限り、それに頼り切りになってしまう。このような営業を繰り返すから情報収集とコミュニケーション力は遅々として上がらないのだ。だから新規の見込み客と対人関係を作ることをいつまでも苦手にしてしまう。
新規見込み客と話す情報は、日頃訪問している顧客の中にある。日ごろから生産現場に関係する情報を収集していれば、その情報が意外に同社の見込み客の関心を誘うのだ。だから顧客訪問の際に商品紹介、自己確認、雑談だけで過ごさず、工場内のちょっとした動きに目を配り質問してみることだ。さすれば情報量は格段に増えていくだろう。

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