
今年から最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」と呼ぶようになりました。地球温暖化によって、夏の酷暑日は徐々に当たり前になると予想できます。もし太陽がなければ、地球表面の温度は絶対零度(-273℃)に極めて近い温度となり、太陽によって平均で290℃ほど加熱されることで地球の平均温度は14℃となります。私たちは最高気温が1℃ 2℃高くなったと騒いでいるのですが、太陽や地球にしてみれば1%未満の誤差範囲でしかなく、人間はもっと環境適応能力を高めないと生き延びていけないのが現実なのかも知れません。
人間はこの絶妙な温度バランスの中にある地球上で生きているのですが、これが火星になりますと、平均気温はおよそ-60℃と、地球の14℃と比較しても恐ろしく寒い惑星です。それに加えて、大気は極めて希薄でかつそのほとんどが二酸化炭素と、生命が生き延びる余地はほとんどありません。それでも火星への有人探査計画があり、また遠い遠い将来に地球が太陽の膨張と温暖化で住めなくなった時の移住先候補として挙げられてはいるのですが、現実的にはSF映画のように人類が他の惑星に移住するという可能性はないと言って間違いないでしょう。
人間は将来のごくごく小さな可能性の希望に対して過剰に期待するという特性を持っています。他の惑星への移住もそうですが、最近では自動車のEVシフトによって、蓄電池のブレークスルーに繋がる可能性に期待されていたのですが、元素記号に支配された電池の世界で、ブレークスルーは起きなかったのが現実です。政治が経済を誘導してブレークスルーを実現する、そういうことは確かに過去にあったのですが、同時にそれが上手くいかなかったという過去もそれ以上にあった、という都合の悪い情報は無視されてしまうのです。
オリンピックで金メダルを取る、という夢に向かって努力とトレーニングを続けてきた選手たちの中でその夢を実現できるのは、オリンピック出場選手の中に限っても3%程度であり、ましてやオリンピック出場すら叶わない選手たちも含めますと、もう2桁くらい低い確率になるでしょう。しかし、最初からその確率を知っていれば無駄な努力と諦めてしまうものですが、人間は将来のごく低い可能性の希望に対して実際よりもかなり高めに見積もるという特性があることから、その結果、(ある意味無駄な)努力をするものです。
とは言え、結果としては金メダルを取ることはできなくても、その努力の過程が将来役に立つ訳で、「確率が低いから」と最初から諦めて何もしなかった遺伝子を持つ個体よりも生き延びる確率が高かった、その歴史を経て、現在の人間が存在しているのでしょう。
それは実際には、無駄なことに努力する個体が多数存在する生き物の方が、環境変化で絶滅する確率が低いのかも知れません。周りからへそ曲がりであまのじゃくなことをやっていると白い目で見られている人のうち、ごく一部の人たちだけが大きな環境変化によってほぼ全滅かと思われた人類の中でも生き延びることができ、そしてまた子孫を繁栄してきたのでしょう。
「これからの時代はこうだ」と全社の方針を転換して集中・特化しますと、環境の変化によって全滅という可能性が高まります。もちろんそれが当たれば大躍進という可能性もあります。しかしながら現代は時代の変化が非常に速く、また政治的な力によって変動させられてしまう不安定さを有していますので、企業を長期的に維持しようと思えば、ある程度の分散は欠かせません。そして時代の変化に応じて組織も柔軟に変化させる必要があります。
「今やっているこの仕事以外はやりたくありません」というのは間違いなく時代に取り残される運命になるのです。周囲を見渡しますと、「必要とされるのであれば何でも努力してやってみます」という人たちが生き残っているのではないでしょうか。
◆湯口 翼(ゆぐち たすく)

1967年生まれ。大阪府出身。2002年に産業用センサメーカーのオプテックス・エフエーに入社。開発グループで新製品の開発に携わり、ローコストな印字検査専用の画像センサをはじめ、画像処理用LED照明コントローラやIO-Linkマスタなど画期的な新製品を多く生み出す。2008年に取締役、2024年に代表取締役社長に就任。







