日本の製造業再起動(92)【提言】劣化列島日本/希望と勇気【その10】沈下する(日本の) 完成品メーカー「ピラミッド崩壊」

3万人のための情報誌と称する「選択10月号」に興味ある記事が掲載されている。「部材メーカー生き残りの『大転換』」「『トヨタよりテスラ』という潮流」と銘打った記事である。内容の詳細は割愛するが、日本の部材メーカーがトヨタはじめ日本の自動車メーカーに見切りをつけ、米国や中国のEVメーカーとの関係強化を報じる内容である。劣化列島日本を象徴する内容であり、今回はこれを取り上げたい。  

日本には「グローバル・ニッチ・トップ」と言うべきオンリーワン技術を持つ部品・素材メーカーが存在するが、これらの優良企業が日本の大手企業(発注元)から離れ始めた悲劇の現実を、具体的な会社名を上げて解説している。 トヨタに代表される完成品メーカーは、傘下の部品・素材メーカーの卓越した技術力によって、国際競争力を維持してきた。これは自他ともに認める事実である。「系列」と称するピラミッド構造は日本独特であり、「KEIRETU」の翻訳英語はない。この日本独特ピラミッドが静かに崩壊し始めている。 「選択10月号」の解説では、部品・素材メーカーの日本企業離れを次のように分析している。『その原因は、日本の完成品メーカーの横暴な発注姿勢である。材料コスト増、人件費増のなかでも値引き要求を恒例化。受注側に知的財産権のある設計図を平気で持ち去るは、 発注数量を直前になって変更するはで、(中略)中国企業でも珍しいえげつなさ(後略)』と断じている。ガソリン車の片手間で開発するEVでは、グローバルの激しい競争に太刀打ちできない。優れた部品・素材メーカーの経営判断は、『トヨタが続ける「半身のEV開発」と心中するつもりはない』と将来的トヨタ劣勢を予測する手厳しい指摘をしている。完成品メーカーは、突然出現した超円安の為替差益により空前の利益に沸き立っているが、系列崩壊は先々の死活問題である。グローバル・ニッチ・トップを誇る超優良な部品・ 素材メーカーが、日本の完成品メーカーの系列を離れ、米中などの成長企業への依存度を高めることが (不幸にして) 現実化している。

では、ここから中小製造業の足元で起きている現実を眺めつつ、系列崩壊の現実を浮き彫りにしていきたい。 中小製造業・町工場の代表的業界でもある「精密板金業界」においても前述を裏付ける現象が起きている。 数十年前の日本企業全盛期と比べ、国際競争力を失った完成品メーカーは枚挙にいとまがない。ところが、円安効果で競争力低下の現実は覆い隠され、好決算に湧いている。好決算の半面で出荷台数の減少に悩む完成品メーカーも少なくない。円安効果で利益は出ているものの、実際の生産量が減少しているのである。その結果、板金筐体などの外注への発注量が減少しているため、精密板金業界全体では生産量が下降気味である。半導体製造装置など一部の業界は、膨大な受注残に支えられ長期に渡る活況が続いているが、精密板金業業界は「超・忙しい企業」と「超・暇な企業」のモザイク現象が際立ってきており、俗に言う「2極化」が急速に進行している。 従来の系列に甘んじていた(力のある)優良精密板金企業は、積極的に新規事業の開拓に力を注いでいる。「選択10月号」が記事にしたトヨタの例と同じで、従来の発注元には、 成長戦略が見当たらず、横暴な値引き要求だけが強い。魅力を失った発注元に見切りをつけて、新たな発注元開拓や事業再構築を柱とした経営戦略を推進している。従来から、発注元は「JIT」を旗印に、極端な多品種少量生産・短納期を要求し、勝手な都合で発注をキャンセルしたり、即納を要求したりするため段取りやムダが多く、鋼材費の高騰も価格に転嫁できず赤字に追い込まれているところが多い。長年お世話になった発注元からの仕事を断念せざるを得ない精密板金企業が続出している。 完成品メーカーの設計部署や資材部では、(従来からの協力会社に断られ)新規の協力会社の発掘に躍起となっており、新規見積がコロナ前と比較し、倍以上に増加している事実からもこの潮流を確信することができる。  

2022年は、37年前のプラザ合意から円高基調を背景に、日本中の完成品メーカーが「グローバル化」に突き進んだ失敗を取り戻すときである。日本経済は、欧米が推奨する「グローバル化」の餌食となった。グローバル化は是正しなければならない基本戦略である。22年こそ円安を背景に、日本国内への製造回帰(リ・ショアリング)を推進し、日本に錨を下ろした「真の国際化(国境なきグローバル化ではない)」に回帰する年である。劣化列島日本の象徴は、完成品メーカーの30年以上に渡る「グローバル化への挑戦」と「敗北の結果」である。完成品メーカーは、グローバル化により多くの経営資産と国際競争力を失ったが、中堅・中小製造業は幸いにして日本に錨を下ろしており、大半の経営資源を国内に温存している。日本の希望と勇気は、「中堅・中小製造業にかかっている」と言っても過言ではない。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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