
ミスミグループ本社 代表取締役社長 清水 新 氏
いまや日本全国どこの工場に行っても見かける「MISUMI」のロゴが入った段ボール。ちょっとした金型部品や機械部品、最近では電気制御部品などを調達するのに便利で、日頃からお世話になっている人も多いはず。
ミスミは、製造業における設計や調達、製造にかかる時間を1秒でも短縮し、お客さまがより付加価値の高い業務に取り組めるよう「時間価値」を高める「顧客時間価値」をモットーとしてきた。各種部品の標準化とEC化にはじまり、カスタム図面部品の調達サービスの「meviy」、アルミフレーム設計から調達効率化の「FRAMES」、量産に向けた大量発注にも対応する「D-JIT」、現場消耗品の現場在庫サービス「MISUMI floow」などの革新的なデジタルサービスを展開し、日本のみならず世界の製造業のものづくりプロセスの変革を推進している。
そんなミスミの今後の戦略について、2026年4月に新たな代表取締役社長に就任した清水 新 氏に話を聞いた。
「テクノロジーでビジネスを変える」日本の製造業への思い
――はじめに、これまでの経歴をお聞かせください
大学の工学部で学んでいた時、その頃はインターネットが出始めたころでしたが、ある航空会社が予約システムを最新のコンピュータ技術のものに刷新し、それがきっかけとなって大きく業績を伸ばし、業界ナンバーワンに上り詰めたということがありました。その時、テクノロジーによって競争優位が逆転したというのを目の当たりにし、テクノロジー、特にインターネット技術で既存のビジネスを大きく変えることができるということに強い関心を持ちました。
新卒ではコンサルティング会社に入り、20年の在籍期間中は主にモバイル・通信業界とハイテク業界、メディア業界を担当しました。その後、新たな挑戦としてコンサルティング会社を離れ、スタートアップや上場企業の社外取締役等を務め、2020年からミスミにも社外取締役として関わってきました。それからしばらくしてお声がけをいただき、2024年に入社して執行役員となり、このほど社長に就任したという流れになります。
――これまで日本の製造業をどう見ていましたか?
コンサルティング会社で担当していたハイテク業界というのは、いわゆる半導体を利用するエレクトロニクス関連が中心で、日本の大手電機メーカーなども担当していました。当時2000年代の日本の電機業界は、台湾や韓国、中国メーカーが急速に成長してきて、Japan as No.1だったところから低迷し始めた時期にあたります。グローバル市場で厳しい戦いを強いられる姿を見るなかで「日本のものづくりメーカーに頑張ってほしい」という思いをずっと抱いていました。
ミスミを支える製造のマスカスタマイズと強靭なサプライチェーン
――足元の業績状況について
2026年度は、おかげさまで第1四半期から好調で、売上高・利益ともに過去最高を更新し、通期業績予想も上方修正を行い、非常に良い状況で推移しています。デジタルモデルへのシフトが進んだことでサービスの利用率が高まり、一定の売上水準を超えると大きく利益が出る構造まで進んできました。
――ミスミの強みとはどんなところにあるのでしょう?ご自身ではどう分析していますか?
ミスミの強みは、お客様にとってのカスタム品(特注品)を、ミスミ側では標準品として捉えて提供できる点にあります。サービスの裏側では、製造分野における「マスカスタマイゼーション」が確立できており、MTO(メイク・トゥ・オーダー)と呼ばれる少量多品種のオーダーに対して一個流しで生産しています。そのため当社の工場には一般的な意味での「生産計画」が存在しないというユニークな運営を行っています。
さらに、日本や中国を中心とした約4,000社のサプライヤーネットワークも大きな強みです。カスタム品であれカタログ掲載の標準品であれ、同じ箱に綺麗にまとめて世界中に同一のクオリティでお客様にお届けするサプライチェーン全体のディスパッチ力とケーパビリティを有しています。
また社内を見れば、社員一人ひとりが「ビジネスモデルを進化させること」をミッションとして掲げ、個人の挑戦と会社の成長を合致させる経営が行えている点も強みだと考えています。
中国事業も順調 中国国内で開発から納品まで完結できる仕組み
――国内市場だけでなく、グローバル市場でも強さが発揮できているのは特長的です
ありがとうございます。
特に市場規模が大きく、成長が著しい中国事業においては、ローカライズが非常にうまくいっています。当社の中国事業は、中国人マネジメントのもと、現地顧客が9割を占めており、ローカルで商品開発・製造・納品を行う完結型のブロック型経済モデルを構築できています。2026年度通期では、中国事業の売上高は1000億円を超える見込みで、日本を除くと最も大きな市場となっています。中国でのコスト構造を社内に取り込めたことは、大きな強みになっています。
懸念点は、確実短納期のコモディティ化や主要な市場の停滞
――逆に、弱みや課題、市場の環境変化についてはどのように感じていらっしゃいますか。
課題として感じているのは、これまで強みとしてきた「確実短納期」という顧客時間価値がコモディティ化してきている点です。ECの世界では「明日届く」ことが当たり前になりつつあります。海外、特に中国などでは当社のビジネスモデルを模倣する企業も登場しています。
また、当社にとって最大のお客様であり、市場でもある自動車産業が厳しい状況にあることも懸念点のひとつです。自動車産業は、日本の労働人口や製造装置需要において占める割合が非常に大きく、当社でも最も大きなお客様です。ここ数年は、自動車関連需要の動向を注視しながら、勢いのある半導体分野やエレクトロニクス分野の需要を取り込むことで成長を維持していきたいと考えています。
米国の関税問題やロシア・ウクライナ情勢、中東情勢など、サプライチェーンを取り巻く環境の変動も注視しています。
アメリカにおけるフィジカルAIやロボティクスなど新産業への挑戦
――とは言え、全体としてマイナス要因は少なく、現在の継続で成長が見込めそうですが、これからの戦略や計画について教えてください
今後の展開において最も重要なのは「お客様の洞察」、お客様をもっとよく見て、分析することです。
現在、私たちが明確に戦略国として位置づけているのがアメリカです。その背景にあるのが「AI」の存在です。AIは国同士の覇権や競争の源泉であり、AIの普及に伴って莫大な半導体とエネルギー需要が発生しています。データセンターの電力消費量は急増しており、将来的には光電融合技術やフュージョンエネルギーなど、発電やエネルギー効率化の技術革新によって新たな産業が立ち上がっていきます。
同時に、AIはハードウェアの進化を劇的に加速させています。それが自動化、ロボティクス、そしてヒューマノイドに代表される「フィジカルAI」の世界です。ソフトウェア・ディファインドによって新しいハードウェアプロダクト(NPD:ニュープロダクトディベロップメント)が次々と生まれる時代に入っています。用途としても、データセンターだけでなく、エアロスペース(宇宙開発)や防衛(デュアルユース)といった領域にも広がっており、新しい産業、新しい市場がそこには生まれています。
――かつて御社は、勢いのあった自動車産業を中心にお客様を開拓し、いまでは広く製造業の誰もが使うサービスになりました。それを今度はアメリカを中心に、ロボティクスや宇宙などの新しい産業、新しいスタートアップでものづくりをする技術者を支援し、再現するということですね
その通りです。
アメリカでは、自国の中で新しいプロダクト開発やヒューマノイド開発を進めるスタートアップやベンチャー企業が西海岸や東海岸を中心に多数生まれています。当社がこれまで培ってきた少量多品種の生産体制とサプライチェーンを、これらの新しいハードウェアスタートアップに提供し、「便利でたまらないミスミ」として彼らにとって不可欠な存在になっていくことが次の大きなチャレンジです。
デジタルで注文を受け、フィジカルで届ける より簡単で手軽な仕組みへ
――現在のデジタルサービスのアップデートや新たなサービスの予定は?
これまで当社は、「meviy(メビー)」をはじめ、メカニカル部品の3Dデータライブラリの「Rapid Design(ラピッドデザイン)」、アルミフレーム設計の「FRAMES(フレームズ)」など、お客様の製造工程に合わせた様々なデジタルサービスを展開してきました。しかしお客様から見れば「欲しいものを簡単に早く調達したい・設計したい」のであって、個別のツールを使いたいわけではありません。
そこで今後は、これらバラバラに存在しているサービスを、AIという単一の窓口を介してシームレスに呼び出せるものへと進化させていきます。
例えば、お客様が図面やデータを「ミスミAI」のような総合窓口に入れていただければ、自動的に最適なサービスが立ち上がり、設計変更に対しても部品の調達品番が自動更新されるような世界を目指します。
またロボットが中心となって現場でものづくりをする時代においては、製品の情報も、これまでの形状や寸法、定格といった定番のデータだけでなく、ハンドで掴むのに最適な位置といった、これまでとは違う切り口の情報データも重要になります。それに対しても、当社が手作業も含めて積み上げてきたデータ資産を拡充し、AIを通じて提供していきます。
デジタルで注文を受け、フィジカルな世界でお届けする「デジタルマニファクチャリング」を世界でリードしていくことが当社の目指す方向性です。
――最後に今後に向けたメッセージをお願いいたします。
ミスミがどんな会社かと問われれば、私たちは「ものづくりを作り変える会社」でありたいと考えています。お客様のものづくりプロセスを転換し、デジタル化を推進していくことが使命です。
当社のサプライチェーンやサービスは、既存の大手企業だけでなく、これから新しい産業やプロダクトを起こそうとしているスタートアップやエンジニアの方々にとっても非常に便利なインフラとなり得ます。私たちはすべての製造業に関わる企業や人々にとって提携・協力できるパートナーです。お困りごとやご相談があれば、ぜひ当社にお申し付けいただき、一緒にものづくりを作り変えていければと思っています。




