
8月4日にEPLANのユーザーイベント「EPLAN NETWORK 2026」が開催された。「制御盤DX 電気設計から制御盤製造のバリューチェーン」をテーマに各種講演やユーザー事例が実施されるなか、パネルディスカッションとして「設計データはどこまでつながるのか― 設計から製造までのデータ活用を考える ―」が行われた。
パネリストに、アルファコンパス代表CEO 福本 勲 氏、PLCopen Japan 事務局長松隈 隆志 氏、三共電機 代表取締役 三橋 進 氏、EPLAN 井形 哲三 氏を迎え、業界全体を俯瞰的に見る立場から、実際に制御盤を製造している制御盤メーカーまで、各レイヤーの最前線にいる方々に、データ活用をキーワードとして日本の制御盤業界の現状とこれから、その課題と解決策について話を聞いた(モデレータはオートメーション新聞 編集長 剱持 知久)。




制御盤に関わる各レイヤーの主要プレイヤーが登壇
剱持:まずは皆様、自己紹介からお願いいたします
福本氏:製造業全般の動向やデータ活用の視点からお話しさせていただきます。
松隈氏:主な役割は、PLCの国際規格(IEC 61131-3およびパート10)の普及促進です。特にパート10は、PLCプログラミング言語の標準化(パート3をXML形式で記述)により、ベンダーに依存しないデータエクスチェンジを実現するフォーマットであり、現在セカンドエディションの検討を進めております。複数メーカーのPLC間におけるデータやプログラムの互換性問題を解決するため、XMLへの変換やAutomationMLを通じた電気CADとの機器構成情報の共有、バーチャルPLCとの連携などを推進しています。
井形氏:ドイツ企業に身を置く立場として、欧州における標準規格の強さを実感する一方で、データの「品質や深さ」という点では日本も決して負けていません。欧州のシステム構築の巧みさと日本の高いデータ品質のギャップを認識し、今後現場でどのようなアクションを起こすべきか、皆様に気づきを得ていただける場にしたいと考えています。
三橋氏:当社は最先端の技術を取り入れながら盤製造を行っている盤メーカーであり、EPLANのユーザーでもあります。ユーザーに近いエンジニアの立場から、設計データを製造連携へどのようにつなげていくか、いろいろなチャレンンジについてお話しできればと思います。今年5月には「Eplan Next26」のグローバルイベントにも日本の盤メーカーとして登壇いたしました。
テーマ1:なぜ今、制御盤業界でデータ連携・活用が必要なのか
剱持:あえてお伺いしますが、なぜ今、制御盤を作るためにデータをつなげ、連携・活用しなければならないのでしょうか?
福本氏:つながらないデータは、工程、サプライチェーン、エンジニアリングチェーンを部門や企業を超えてつなごうとした際に、正しい判断の材料として使えません。つながらないデータはそれ単体では判断に使えない断片的な情報に過ぎず、マスターデータやトランザクションデータが統一されていないと、かえって誤った判断を引き起こすリスクすらあります。だからこそデータがつながることが必要なのです。
松隈氏:いわゆるIT(情報系)とOT(現場・運用系)が分断されている現状があります。ここがつながらないと、経営層が現場の状況を正しく把握できず、適切な経営指針や判断を下すことができません。現場のデータを上位に上げる・つなげることが経営の観点からも不可欠です。
井形氏:設計は設計、製造は製造で独立し、間を紙やPDFと熟練のノウハウで埋めて何とか現場を回してきた歴史があります。しかし、現在は圧倒的な「人手不足」に直面しています。パート社員が配線図を見ながら組み立てるような属人化されたやり方では限界があります。生産性を上げるためには、作成した回路図データや3Dデータをそのまま盤メーカーや製造現場へ引き継ぎ、データで処理できる環境を整える必要があります。
三橋氏:中小製造業の現場では、部品リストに記載漏れがあっても「このリレーにはこのソケットとフィンガープロテクトが必要」といった俗人的なノウハウで品質を担保してきました。しかし、人が減っている現在、それでは成り立ちません。設計者が定義したデータをそのまま手配や製造指示につなげることで正確な物配と製造が実現できます。
テーマ2:海外のデータ活用事情と日本の現在地
剱持:海外ではデータ連携や活用の取り組みはどうなっていて、日本と違いはあるのでしょうか?
福本氏:海外ではDevOps(開発と運用の連携)の考え方をOT領域にも適用し、「IT化されたOT」への変化が進んでいます。単に「OTとITを分離してセキュリティを守る」という段階を超え、「いかに連携させながら全体のサイバーセキュリティやルールメイキングを構築するか」という前向きな議論とガバナンスが構築されつつあります。自分の仕事の範囲を固定化せず、柔軟に捉え直している点に違いを感じます。
松隈氏:PLCの国際標準言語に関して、日本ではユーザーの約8割がラダー言語を使用している一方、グローバルで調査すると、ST(ストラクチャードテキスト)言語とラダー言語がそれぞれ約4割ずつ利用されています。日本ではラダーが主流であるため、現場にテキスト言語やITプログラミング(Python等)のスキルを持つ人材が少なく、上位へデータをスムーズに吸い上げる際の課題となっています。
井形氏:欧米企業は標準規格を作るのが非常に上手であり、標準の上でデジタル化や自動化を回しています。ただし、現場のデータの中身や品質そのものは日本企業も非常に高いものを持っています。今後、標準化とAIなどの技術をうまく掛け合わせることで、日本が巻き返すチャンスは十分にあると見ています。
三橋氏:当社の事例ですが、自社でアプリ開発を行い、注文から生産、品質管理、出荷後のトレーサビリティまで構造化データとしてクラウドに蓄積する仕組みを構築したところ、海外の方々から驚かれました。
また、盤内の3Dレイアウト設計支援ソフト「Eplan Pro Panel」の座標データを活用し、ロボットの経路生成を自動で行うPOCを進めており、EPLANドイツの本社からも高い評価をいただきました。
日本全体が遅れているわけではなく、現場の真面目さとデジタル化を掛け合わせることで大きな強みになると実感しています。
テーマ3:データがつながらない日本の課題と壁
剱持:データ連携を進める上での具体的な課題や阻害要因についてお聞かせください
福本氏:日本では、社内でのデータ定義や「意味(コンテキスト)」が揃っていないこと、そして「言わなくても分かるだろう」という「ハイコンテキスト文化」が裏目に出ています。デジタル技術やAIは、ローコンテキストで明確に言語化・定義されたデータでなければ正しく解釈・処理できません。業界用語や曖昧な指示に頼る体質を変えていく必要があります。
松隈氏:日本は、企業が「データを外部に出したがらない」姿勢も壁となっています。PLCベンダー側も、自社のお客様のデータを競合他社に取られたくないという思惑から、互換性のあるXMLデータ等のエクスポート機能を十分にサポートしてこなかった歴史があります。顧客起点でのデータ連携へ意識を転換していく必要があります。
井形氏:日本の製造業はメカ(機械設計)への投資には手厚い一方で、電気制御に関しては「下請けや盤メーカーに任せておけばいい」というマインドセットが根強く残っています。電気や制御データを後回しにせず、エコシステム全体で高品質なデータを作成・活用していく視点が不足しています。
三橋氏:欧州などでは、EPLANなどの設計データを電線加工機やダクトカッターなどの自動加工機に流すことは「当たり前」の前提になっています。日本はその手前のデータ連携や設備の導入が進んでおらず、結果として手作業や不要な外部委託が発生している点が課題です。
テーマ4:データを繋ぎ、生産性を高めるための今後のアクション
剱持:こうした課題を克服し、データ連携を推し進めるためには、どのようなアクションが必要でしょうか?
福本氏:セマンティクス(意味論)やコンテキストを整え、エンジニアリングチェーン全体で誰が見ても「主語・述語・何をいつすべきか」が明確に理解できるデータを揃えていくことが重要です。正しいデータを整えること自体が、今後の企業にとって最も重要な資源となります。
松隈氏:日本人は「ルールや法規制」を守ることに対して非常に真面目です。国際規格への準拠や標準化の推進を業界や政府主導で推し進めることが、データ連携を加速させる一つのきっかけになると期待しています。
井形氏:まずは志を同じくするユーザーやパートナーとともに、成功事例(ロールモデル)を一つでも多く作ることです。「あのやり方で生産性が上がった」という実績を見せることで、業界全体への普及を図っていきたいと考えています。
三橋氏:当社では「データをつなぐ」ことをテーマに、営業のDXやデジタルツインの構築にも取り組んでいます。営業がヒアリングした内容から自動で図面や見積(eBuild等)を作成する仕組みを進めていますが、そのためには上流から下流までデータが途切れずにつながっている必要があります。
同時に重要なのが「ラストワンマイルは人」という考え方です。全体の8〜9割はAIや自動化、データ連携で構築し、残りの1〜2割の最終調整は人間が担う。100%完璧なデータ連携を最初から求めすぎず、最後の1マイルを人がカバーする前提で組むことで導入のハードルが下がり、個社ごとの付加価値を生み出すことにつながります。
まとめ パネルディスカッションを終えて
新たな制御盤の設計・製造プロセスを作る気概と勇気を持とう
現状、制御盤業界は、品質・納期ともに契約通りに作り、納められていて問題なさそうに見える。しかしその実情は、制御盤メーカーの人手不足や廃業による業界全体の生産キャパの減少と発注先の集中、発注元である機械や装置メーカーの海外事業の強化にともなう制御盤の仕様変更や海外発注など、環境が大きく変化している。綱渡り状態で緊張感に溢れており、長期的に見ても、緩やかに厳しい状況に向かいつつある。
そのため制御盤の作り方も変えていく必要があり、その鍵を握っているのが「データの連携と活用」である。
なぜ制御盤を作るのにデータ連携と活用が必要かについては、経営、マネジメント、現場の各層が、これから先のことを考えるための判断材料をするためにも、人手不足が深刻化するなかで現場負担を下げ、作業効率を上げるためにも、データは不可欠だ。その基礎となる設計データは別の工程でも役に立つため、製造や保全など後工程や、上下の層ともデータをつなぎ、あらゆる場面で活用していくことが重要だ。実際にデータ活用で制御盤の設計・製造効率を高めている例はたくさん出てきている。
また世界との比較については、日本が世界に対して遅れている/進んでいるということはあまり意味がなく、それぞれ文化的背景があり、やり方が異なっていて、一長一短がある。そのなかで日本は現場力の高さや技術者の真面目さが特長で、その利点をうまくデジタル技術と組み合わせると、より生産性を高めることができる。
とは言え、データ活用はすぐに始められる訳ではない。多くの場合は作業内容やデータの標準化ができていないため、まずはルールや基礎づくりから始める必要がある。それ以外にもさまざまな課題はあるが、総じて最も重要なのは、日本の制御盤に関わるすべての人々が、既存の枠組みやマインドセットを少し変えてみること、そして「壁を少し越えてみる勇気」を持って行動すること。制御盤は機械の頭脳であり、心臓部。それが日本国内、身近なところで作れなくなるリスクは年々高まっており、それを回避し、改善するためにも一歩踏みだす必要がある。






