藤本隆宏 の検索結果

藤本教授のものづくり考(14)

「デジタルものづくりと“三層分析”」(3) ここまで二回にわたって見てきたものづくりのデジタル化をめぐる状況の中、今後重要になってくるのが③の「低空」領域、すなわちインターフェイス層における世界規模での主導権争いでしょう。例えば、ドイツ発の「インダストリー4.0」も、ゼネラル・エレクトリック(GE)が主導する「インダストリアル・インターネット」も、まさにこのICTとFAをつなぐインターフェイス層がターゲットです。IBMも、デジタルヘルスケア等で、この低空層への参入を進めてきます。IBM、GE、シーメンスなどは、いずれも多数のソフトエンジニアを雇って会社を変えようとしていますが、彼らは、「上空」…


藤本教授のものづくり考(13)

「デジタルものづくりと“三層分析”」(2) 前回の最後に挙げた三層のうち①「上空」のICT層では、アメリカ主導で下克上的な技術革命(revolution)が繰り返されています。設計思想はオープンアーキテクチャ、したがってグローバル業界標準インターフェイスを確立し、補完財を含むエコシステムを主導して、ネットワーク外部性をてこに雪だるま式に「独り勝ち」の状況に持ち込む一部のプラットフォームリーダー企業が、金余りの資本市場の期待を受けて、異常ともいえる株式時価総額を得るという構図ができています。前述の、アップル、グーグル、アマゾンなどが割拠するのがこの「上空」の世界で、日本企業の存在感はほとんどあり…


藤本教授のものづくり考(12)

デジタルものづくりと“三層分析”(1) IoT、AI、ディープラーニング、ビッグデータなど、ICTやデジタル化に関する言葉がちまたをにぎわす中、一部では、幾何級数的に進化するデジタルの世界で日本はすっかり後れをとっているとも言われます。グーグル、アマゾン、アップルといったICT界を席巻する一部の企業はほとんど米国勢であり、ここでは日本企業の出る幕はなさそうに見えます。 しかし、社会・経済・産業のデジタル化は、そうした一部の米国企業が圧倒する、電子と論理で動く重さのないICTの世界ばかりがすべてではありません。私たちは、結局は物理法則が働く重さのある世界、生身の人間が人生を送る世界に住んでいるの…


藤本教授のものづくり考(11)

労働生産性と正味作業時間比率 例えば、組み立て作業の最中に必要な工具がなく、作業者が20メートル先の保管庫にそれを取りに歩いているとします。その間、作業(設計情報=付加価値の転写)を待っている仕掛品(媒体)が、作業場で漫然と時を過ごしています。あるいは、自分が担当する工程を終えて、次の工程へ運ぶため、彼は腰をかばいながら持ち上げ、台車に乗せて運びます。これらの動作は必要な作業です。しかし、その間に情報転写は行われていません。にもかかわらず、作業者には余計な労力さえ強いています。 真に設計情報の転写が行われている時間、組み立てを行っている時間はどれだけあるでしょうか? その時間比率はどれほどでし…


藤本教授のものづくり考(10)

何を目指すべきか 現場が「良い流れ」を作っても、「良い設計」が伴わなければ意味がありません。「良い設計」を自ら創る、あるいはそれを親企業や本社から引っ張ってこられなければ、良い価格がとれず、現場は報われません。 東大の新宅純二郎教授が、設計と生産の両方を敷地内に持つ「機能完結工場」を日本国内に増やすことを提案していますが、大いに賛成です。また、下請け企業といえども、「顧客の顧客」を視野に入れ、儲かる良い図面を自社に引き込む努力が必要です。 優良中小中堅企業に求められるのは、「現場が流れを改善し、社長が走り回って良い仕事をとってくる」であり、これは今も昔もなんら変わりがありません。 「冷戦後の苦…


藤本教授のものづくり考(9)

中小企業とは? 中小企業はすべて大企業に搾取される弱体的な存在だから、すべからく国が支援しなければならない、といった伝統的な二重構造論が、中小企業論や中小企業政策に対して、いまだに影響を与えています。 しかし、実際に地域を回ってみれば、たしかに政策金融や保護によってやっと生かされている企業もありながら、一方にはもうかっているけれど、もうかっているからこそ、それを口に出さない中小中堅企業や、今は赤字だけれど現場力と潜在力を持った企業など、その実態はさまざまです。十把ひとからげに論じるわけにはいきません。中小企業論の大家である中沢孝夫先生の「かわいそうな中小企業はいるが、中小企業はかわいそうではな…


藤本教授のものづくり考(8)

金融業界が果たす役割 当初私たちは、この運動を「産官学」の取り組みとして考えていました。ところが、せっかくインストラクターを育てても、肝心の中小企業主が消極的で、「うちは資金繰りと受注確保で手いっぱいだ。勘弁してくれ」と言って、尻込みする食わず嫌いの方が多いことがわかってきました。地域の改善活動では「出口戦略」で失敗するケースが多いのです。 試行錯誤を繰り返しました。そして結局、やや強引ではありますが、地域の金融機関に参画してもらい、その融資先の改善を行うという形が最も効果的であるという結論になりました。地域でリスペクトされている金融機関から、「お宅もぜひ力をつけてください」と言われれば、融資…


藤本教授のものづくり考(7)

ものづくりインストラクター 安倍政権による地方創生政策は、まだ準備段階であり、その実質は未知数ですが、経済産業省が進めている「ものづくりカイゼン国民運動」は、すでにその方向性が明確になっています。「流れ」全体を国が支援するという意味で、未来につながる良い取り組みであると思います。 一方、地域インストラクター構想からは、地域に「良い現場」を残し、そこが生産性向上と需要創造を同時に推進することで、地域の実質賃金率の向上や安定雇用の実現、あるいはシニアであるものづくりインストラクターの第二の人生のやりがいなど、さまざまな良い効果がもたらされると考えています。 現場で長年経験を積まれ、定年後に自分の知…


藤本教授のものづくり考(6)

ものづくり、これからの20年 今後20年のものづくりを考えるとき、過去数十年の戦後日本の現場の歴史を振り返り、長期の歴史観をもって構想を練る必要があると思います。 終戦直後に冷戦が始まり、地理的に東西間の壁に隣接するという偶然があった日本は、50年代、60年代を「移民なき高度成長期」として迎えることになりました。米国や中国のように内外から大量の移民があった国々と異なり、日本は慢性的な労働力不足に陥ったことで、結果として長期雇用・多能工・チームワークに裏付けられた調整能力の高い現場が大量に生まれることになりました。その代表例であるトヨタ生産方式が確立したのもこのころです。 その後70年代80年代…


藤本教授のものづくり考(5)

日本のビジネスモデル いわゆるガラパゴス携帯などを例に、「たしかに日本の技術力は世界一だが、それを事業化する際のビジネスモデル構想力には弱みがある」などと指摘されます。ガラパゴス携帯は、国の政策や企業経営陣の戦略的な失敗が招いた結果であり、それを持って短絡的に日本のものづくり産業現場の不振とするなら、それは一種の責任転嫁です。現代の大企業は多角的多国籍的であり、すなわち産業や国境を超えて何をどこで作ろうとも自由なのであり、したがって特定の国の産業競争力の盛衰は、各企業の失敗の言い訳になりません。 製品をアーキテクチャ(設計思想)で分類するとモジュラー型(組み合わせ型)とインテグラル型(擦り合わ…