藤本教授のものづくり考(12)

デジタルものづくりと“三層分析”(1)

IoT、AI、ディープラーニング、ビッグデータなど、ICTやデジタル化に関する言葉がちまたをにぎわす中、一部では、幾何級数的に進化するデジタルの世界で日本はすっかり後れをとっているとも言われます。グーグル、アマゾン、アップルといったICT界を席巻する一部の企業はほとんど米国勢であり、ここでは日本企業の出る幕はなさそうに見えます。

しかし、社会・経済・産業のデジタル化は、そうした一部の米国企業が圧倒する、電子と論理で動く重さのないICTの世界ばかりがすべてではありません。私たちは、結局は物理法則が働く重さのある世界、生身の人間が人生を送る世界に住んでいるのであり、そうした「重さのある世界」が持つ課題と、「重さのない世界」で大発展するICT層の潜在力をどうやって健全に結びつけていくかが21世紀的な課題だと考えます。

アメリカはインターネット、スマートフォン、情報サービスといった「重さのない世界」を席巻しているため、使う言葉がどうしてもインターネット寄りに偏っています。そうした言葉を鵜呑みにすると、ここ数年と同様に過剰反応を繰り返して時間を浪費することになりかねません。

例えば「IoT」ですが、確かにセンサー等を介して生活空間や工場や乗り物から大量のデータを採取し、高速処理してそれら現場現物の操作に役立てるというのは、現代の産業現場の多くで再重要課題となってきていますが、それらはすべてがインターネットに直接つながるというわけではありません。「IoT(Internet of Things)」という言い方も、やはり米国的バイアスがかかった不正確な言葉に思えます。私はその本質はIfT(Information from Things)、つまり「現物から良い情報を取れ」だと考えています。トヨタやコマツなど日本の先進企業が進めているのもこのIfTではないでしょうか。

また、やみくもにデータを取っても仕方がないのは言うまでもなく、ビッグデータも「大量の良いデータ」つまりBig and Good Dataでなければ意味がありません。またそのデータの利用も、多くは人の改善組織による活用、AIがそれを補助する自働化、自動化するがその進化に人が関わるなど、目的に合わせていろいろであり、全てが無人化・完全自動化ではないでしょう。

要は、重さのある世界とない世界、情報空間(サイバー)と現物空間(フィジカル)、ICT層とFA層、これらをバランスよくつなぎ、全体最適と全体進化を図るのが、企業に求められるデジタルものづくりのあるべき形であり、どちらか一方に偏った思考は判断を誤らせると思います。

以上を踏まえ、私は、ものづくりやサービスの世界の「デジタル化」を考える時、以下のような三層のアナロジーで考えるようにしています。すなわち、
①「上空」のICT(情報通信技術)層
②「地上」のFA層(現場)
③以上の①と②をつなぐ「低空」のICT-FAインターフェイス層

次回は、これら三層のおのおのの層をみていきましょう。

 

◆藤本隆宏(ふじもと たかひろ)
一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事、東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長。1979年東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社、89年ハーバード大学研究員、90年東京大学経済学部助教授、96年リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員、ハーバード大学ビジネススクール客員教授、97年同大学上級研究員、98年東京大学大学院経済学研究科教授、2002年日本学士院賞/恩賜賞受賞、04年ものづくり経営研究センターセンター長、13年一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事。「生産マネジメント入門〈1〉」(日本経済新聞社)ほか著書多数

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