先回、日本の製造業のデジタル化で生産の現場への展開の例として、技能継承を上手に進めるためにスマホで動画を撮って指導に使うととてもうまくいくというお話をしました。あまりに普通すぎる提案なので驚かれたと思いますが、実際に現場での活用はまだまだ不十分だと感じています。まだ少しハードルがあるのかもしれません。あと少しのカイゼンで簡単に使えるようになるので、是非とも頑張って自在に使って戴きたいと思います。
私がまだ学生で動作分析をしていた時(50年前)、まだビデオは研究室にはありませんでしたので、動画は8ミリフィルムを使った撮影機で撮りました。高価なフィルムを買って、カメラにセットして、撮ったフィルムを現像に出して、現像されたフィルムを映写機にセットして周りを暗くして見るという、今考えるととんでもなく時間とお金がかかるそして不便な作業でした。
私が社会人になり配属された職場にはビデオはありましたが、当時のデッキはとても大きく20㎏超と重く、オープンリールのテープのセットも複雑で気軽に扱えるものではありませんでした。その後、VHSのようなカセットテープが登場して便利になりましたが、それでもまだカメラやデッキは高価で重かったのと、現場が暗いとうまく写らなかったり、見るのもデッキがあるテレビの前に行く必要があったりしたので、気楽に現場カイゼンには使えませんでした。またアナログのテープなので管理が困難であり、紙の標準書を使わざるを得ない状況でした。
今はスマホなどでデジタル動画が簡単にきれいに撮れるし、すぐにどこでも見ることができる上に管理も簡単になっているので、現場カイゼンに最適な条件が整っていると思うのですが、しかしまだあと少し乗り越えるべきハードルがあるようです。
ハードルのひとつは、スマホは仕事であっても個人が所有しているものを使うことが多いのですが、これは会社で用意するべきことだと思います。パケット料金や個人のプライバシーの問題があるからです。加えて、同じスマホを使っていて仕事をしているのか、ゲームで遊んでいるのかが分からないような状態になるのは仕事の能率低下を招く可能性もあります。
動画撮影のためだけならばデジタルカメラを買った方が、安く簡単につかえるし…となると思います。しかし会社での作業カイゼン目的で使うのでしたら、私は会社でタブレットを購入することをお勧めします。iPad はブランド品なので高額ですが Android のタブレットですと比較的安価で購入できます。主にビデオ撮影とその後の指導に使うのでスマホより少し大きい方が便利かと思いますし、実際のところ機器そのものは超小型パソコンなので、会社のモノとして仕事に使うととても便利なものです。動画、カメラ、録音機、などスマホにある機能を一つですべてこなします。回線契約の必要はないのでパソコンなどと同じで使用料の発生しない備品になりますね。
そして工場にWi-Fi環境があれば、メールもチャットもインターネット電話も使えます。もしまだその環境がない場合は、これから徐々にデジタル化を進めてカイゼンのレベルを上げていく第一歩として、この際Wi-Fi環境を整えてはいかがでしょうか。会社のパソコンがネットにつながれていれば、後はルーターを購入しネット回線に接続すればいいだけです。皆でやってしまいましょう!
それと動画撮影はやはり緊張してしまうという方もいらっしゃると思います。YouTubeのように皆で気楽に撮って楽しく見るような感じでいいと思います。私の経験では、その仕事をいつもやっている方に、説明をしながら作業をしてくださいとお願いすると、たいてい一発で良い作業動画が撮れます。
日本の古い建築で、藁ぶき屋根や釘を使わない柱の組み立てなどは、今となってはできる人が本当に少なくなっているそうです。もしほんの少しでも映像が残っていたら技術継承なども簡単に各地でできるはずですが、残念ながらできません。
動画の活用は大きな成果が上がる身近なデジタル化です。できるところからスタートして大きな成果に向かいましょう!
■プロフィール
柿内幸夫
1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。
経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所所長改善コンサルタント、工学博士技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授
著書「カイゼン4.0-スタンフォード発企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所<101項>」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。
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