スマート工場化の隠された課題 資源間コミュニケーションの加速

近年、Industrie4.0、IoTの流れからスマート工場化におけるシステム機器の「つながり」に焦点があたるようになった。デジタル化という手段は重要であるが、真の目的(顧客価値)はものづくり(すなわちQCD)であることに変わりない。例えば、顧客価値の先頭に位置するQuality(品質)は、企業経営において最終的にコスト(Cost)や利益(Delivery⇒事業機会)に直結する。しかし、実際の組織運営で品質マネジメントシステム(国際標準規格)に準拠すべく進めていても形骸化してしまう、といった課題が聞こえてくる。なぜ本質的なところで4M(人財、機械、材料、設計・規格など)がつながり連動できないのであろうか。ここでは品質経営および品質管理・検査において実際にどのようなつながりの課題が隠され、どのような技術革新で解決する動きがあるのか一例を記述する。

■品質経営の課題
品質経営とは広義の品質管理(品質マネジメント)でもある。国際標準である品質マネジメントシステムの改訂版が昨年の9月に発行(ISO9001:2015)された。条項番号が増える程の大きな改訂であるが、リスクに関する記述が目に付く。これは品質のPDCAを回す以前に、計画の質の向上が重要視されつつあることの表れと考えるべきであろう。PDCAの観点で品質経営としては何をチェックすべきか。

例えば品質の投資効果を測る方法として、「品質コスト」という概念がある。一般的には失敗コスト(Failure cost)が注目されるが、そのための投資である不良流出防止のための評価・検査コスト(Appraisal cost)と、不良発生防止のための予防コスト(Prevention cost)を含めた戦略的なコスト管理をすると、適正な品質の投資効果が測れる。品質経営の課題を一言でいうと何か。それは「最高の品質を最大の効率」で実現する、ということであろう。狙いの品質を定め品質目標を掲げそれを達成し続けることは失敗コスト低減だけでなく、品質におけるブランド価値の定着、ロイヤルティーの維持向上が期待できる。

ムダである失敗コストと、そのための投資である評価・検査コストと予防コスト、このトータルの「品質コストの最小化(図1)」が理想であり、そのための新たな先進技術(設備、材料、方法など)とその技術への投資効果を適切に判断する経営的なKPI管理が課題となっている。

■品質管理と検査の課題
顧客への品質保証という目的を達するための手段である品質管理(狭義)を行うには業務の標準化を行う必要がある。身近なものでは標準時間の設定や作業標準化による作業の均質化などが挙げられる。もう少し進んで規格化の観点ではどのようなものがあるだろうか。例えば標準規格化としては、製品そのものの標準化、インターフェースの標準化、評価(検査)方法の標準化などがある。また標準化のレベルは国際標準、地域標準、国家標準、業界標準、社内標準がある。近年、Industrie4.0やIoTを起点として言われているスマート工場化においては、機器間のつながり(M2M)の重要性が強調されインターフェースの国際標準化に強く焦点があたっている。しかし現実には、全てがデジタル化されていくわけではない。特に品質においては機器間でやりとりするもの(M2M)もあれば、人がシステム機器を見て判断するもの(H2M)、人と人でデータを見てジャッジが必要なもの(H2H)などさまざまである。もしもこのような情報が、組織内で共有しにくい特異なものであった場合、品質向上のための資源(人財、機械)間コミュニケーションは成立しない。またそれらの本質的な解決をしないまま標準化を推進しても実際に機能しない。真に品質管理が行える標準化や標準への準拠を効率的に行うことが課題となっている。

品質保証のための手段としては品質管理(不良発生防止)と共に検査(不良流出防止)がある。「検査」とは「品質をなんらかの方法で試験した結果、品質判定基準と比較して、個々の品物の良品・不良品の判定を下し、合格・不合格の判定を下すこと」であり、良品・不良品の判定は品質判定基準(品質許容基準)をベースに行われる。

プリント実装基板を例にとる。実装に関連する品質判定基準は、米国の業界規格ではIPC-A-610、J-STD-001、国際規格ではIEC61191、日本の国家規格ではJIS-C-61191などがある。実装で重要なのは長期使用(数年~数十年)における電気的信頼性、すなわち、ソルダージョイント信頼性であり、それに関連した記述内容がベースとなっている。昨今、下面電極部品など外観から見えないデバイス(BGAやPOPなど)が増加してきた。これらには印刷・部品搭載時に検査で正常と判定しても、リフロー炉を通った後でないと接合品質がわからないといった問題があり、それが徐々に顕在化し深刻な事態となってきている。外観から見えるもの・外観から見えないもの両方を総合的に網羅するソルダージョイント検査が要求されている。検査は過去29年の歴史の中で自動化が進んだが、従来の検査設備(AOI:Automatic-Optical-Inspection)や、その情報出力を利用した品質システムには課題が残されている。それは品質情報を利用するのがほぼ組織全体でありながら画像処理言語、画像処理出力であるため資源(人財、機械)間のコミュニケーションが難しいといった点にあるのではないか。

■3D (3Dimension)センシングによる技術革新
近年、3D(3Dimension)化の技術があらゆるところで注目されているが、品質情報の3Dセンシングも技術革新が進んでいる。

実装基板の外観のセンシングにおいては、、鏡面物体(はんだなど)と、拡散物体(部品など)の複合的な3D定量化が現実のものとなった(図2左)。また外観から見えないはんだ付け品質はX線の3D-CT技術により形状がわかる(図2右)。

■もうひとつの3D(Detect /Define /Diagnose)
3Dセンシングが組織に与える品質上のメリットは大きい。検査の質向上に加え、実装品質が3D定量化され、さらには、これをベースに品質許容基準の標準規格を意識した実装言語化を行うことで、企業内の資源(人財、機械)間コミュニケーションの加速をもたらす可能性が高まる。例えば不良流出防止のエキスパートである検査技術者と不良発生防止のエキスパートである実装技術者の会話が成立しやすくなる。またこれらを契機に多能工化やジョブローテーションを行うことで高度な人財を育成できる可能性を高める。スマート工場化においては自律な協調動作「⇒つながり」の実現にも近づく。組織全体でDetect「見える化」、 Define「観える化」 、Diagnose「診える化」、すなわちセンシングしたデータを分析して診断する、といった品質改善サイクルの仕組みを実現する。そのことで品質経営の課題である評価・検査コスト、予防コストを抑えながら、失敗コストを低減し続ける、というトータル品質コスト削減に近づくことが期待される。

杉山俊幸(すぎやま・としゆき)/TOSHI SUGIYAMA
IPEA国際エンジニア/APECエンジニア(Industrial)/技術士(経営工学)/PWBコンサルタント
グローバル実装の3現知見をベースに検査設備や品質システムを企画開発。現在はコンサルティング業務に従事。日本技術士会会員。JEITA、JIEP(エレクトロニクス実装学会)、IPCの委員会(研究会)の委員を務める。

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