欧州を参考にするアジア製造業 尊敬されてもまねされない日本の製造業 インドのインダストリー4.0の現況と今後の可能性

2015年12月2日

1. 欧州の影響を強く受けるアジアの製造業
インドの「インダストリー4.0」事情を記述する前に、アジア全域での製造業の動向を確認していきたい。

まずアジア各国で注目すべきは、「インダストリー4.0」が次世代の流れとして認知されている点である。アジアでは特に「インダストリー4.0」に関して、積極的かつ前向きに捉える傾向が強く、中小製造業においても「インダストリー4.0の実現が自社の将来である」と断言する経営者も多くいる。

また、最近アジア諸国では、「インダストリー4.0」に限らず「欧州の製造の仕組み」を学び、欧州で進んでいる「製造オートメーション化」をアジアに取り入れようとする動きが広まっている。

中国、アジア諸国では、賃金などの人件費が年々上昇し、コスト面での製造競争力低下が問題となっているので、「製造オートメーション」に注目が集まるのは当然であるが、なぜ欧州に目が向くのであろうか?

日本と関係が深いアジアの人々は、「日本は製造王国で魅惑の国」と感じているが、意外なことに日本の仕組みを、将来の礎にしようと思う現地の製造業経営者はまれである。彼らの目線は、常に欧州を向いている。

アジア製造関係者は、日本の製造システムを非常に良く勉強している。日本の大手製造企業を頂点とするピラミッド構造を持つ「日本特有な系列組織」の長所や短所も良く知っている。また、現場ベテランの匠(たくみ)の技に依存する「日本のモノづくり」に畏敬の念を抱いてはいるが、その「閉鎖性」が「日本製造業の最大の弱点である」と指摘するアジアの製造専門家は非常に多い。

アジアの国々が、日本のモノづくりを勉強しても、日本のまねをしようとは考えていない。彼らの将来は、欧州、特に「ドイツのモノづくり」をお手本にしようとしており、常に欧州に目が向いている。ドイツが提唱する「インダストリー4.0」はブランド価値を持ってアジア全域で受け入れられている。

2.インドのインダストリー4.0の現況
インドは遠い国である。最近になって日本とインドの経済協力も加速しているので、インドに出張する日本人技術者も多くなり、幾分お互いの理解度を増してはいるが、インドの一般国民レベルでは、「日本のことは何も知らない」と言っても過言ではない。日本の一般国民もインドのことはほとんど何も知らないのではないだろうか?

特に製造業の近況、とりわけインダストリー4.0に関するインド製造業界の情報を知る日本人はまれであると推測する。

インド製造業は学問的にも実践的にも歴史が浅い。この10年くらいで急成長した企業が大半である。インドの製造業における「インダストリー4.0」への取り組みを分析すると、非常に興味深い特徴が見えてくる。

インドの製造業を、(1)欧米の大企業がインドに設立した現地工場(GEなど)(2)インド財閥の現地大企業(TATAなど)(3)現地の中小製造業に分類すると、インダストリー4.0への取り組みも全く違ったものになっている。(1)(2)のグループは欧米より秀でることはないが、(3)現地中小製造業での「インダストリー4.0」への取り組み姿勢は極めて積極的であり、経営者の意識レベルも高い。日本の中小製造業では「インダストリー4.0」への関心は極めて薄いが、インドでは対照的である。

インドはソフトに強い国なので、情報投資に熱心な中小製造業経営者も多く「インダストリー4.0」への関心が高い理由の一つでもあるが、圧倒的な違いは中小製造業の情報収集力である。中小製造業とはいえども幹部連中の英語力は日本人の比ではない。中小製造業のマネジャー以上であれば、語学力は全く問題ないので、英語での情報収集力が日本人より圧倒的に強い。

また、企業成長スピードが速いので、経営者は数年先の規模を視野に入れた設備投資をする習性がある(これも日本とは対照的である)。

インドの中小製造業経営者から見ると(今の企業規模は小さくとも)、「インダストリー4.0」の壮大な構想に(自社の将来を夢見て)ワクワクするらしい。海外からの受注拡大にも彼らには何の抵抗もないので、世界に広がる「つながる工場」も簡単に受け入れられるし、熟練工や加工ノウハウを持たないインドの工場経営者にとって、人工知能による「考える工場」の実現は、夢のシステムである。もちろん3D-CAD運用に何の抵抗もない。

モノづくりの現場環境では、日本とインドを比較したら「月とスッポン」。整理整頓5Sや従業員のモラルから始まり、作られる製品の隅々まで日本のQCD(品質・コスト・納期)の美しさは、インドと比べようもない。しかし、インド中小製造業の「インダストリー4.0」への認識レベルと未来目線は、さすがである。

3.インドの大学の底力と今後の可能性
インドの大学キャンパスに足を踏み入れると、その壮大さに圧倒される。別の国に迷いこんだような感覚に襲われ、ここが大学であることを一瞬忘れてしまう。

インドのシリコンバレーと称されるバンガロールは、エアバスやGEの拠点であり、多くのサプライヤが集積するハイテクシティーである。このバンガロールに、TATA財閥が100年以上前に設立したIISc(インディアン・インスティテュート・サイエンス)という大学院大学がある。インドNo.1のレベルであり、2000人以上の研究者を有し、国際的な高水準を誇っている。

ここにドイツ・ボッシュとの共同開発CPS(Cyber-Physical Systems)のセンターがおかれている。ここでは、CPSによる社会的応用事例の研究が進められている。

かつては基礎研究に閉じこもっていたインドの頭脳集団が、(企業と一緒に)実社会で使える技術、工業化への応用開発を進めていることに驚かされる。

水と電気が不足するインドで、CPSによる最適水利システムの開発は国家事業の一つであり、即効的な効果が期待される研究であるが、IIScでは、(国家の命運を担って)最先端のIoT技術を結集し、システム開発と実戦配備の開発が進められている。

国家予算と超優秀な頭脳で進められる、(実社会での活用を前提とした)CPSの研究開発は、当然インダストリー4.0にも応用される。IIScで研究されている「3次元モデルを使った組み立てシミュレーション」などは、CGと人間の融合が見事に行われ、今でも製造業で実用に供するレベルの研究開発が進められている。

インド中小製造業経営者の強いパッションと、インド大学研究機関の現実を知ったら、インドの持つ「インダストリー4.0」の将来可能性の大きさ、日本との温度差を強く感じるのは、私だけではないはずである。”

株式会社アルファTKG 高木俊郎

筆者プロフィール
高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。