日本の製造業再起動に向けて 株式会社アルファTKG社長高木俊郎 (10)

中国経済の異変が伝えられている。6月以降の上海総合株価の暴落に続き、中国政府の一方的な通貨切り下げ報道が世界を駆け巡った。日本を始め、夏休み真っただ中の欧州でもこの事実には敏感に反応し、世界中の報道機関によって『中国経済の実態は思った以上に悪い!!』とのコメント付きで、グローバル経済への悪影響の危惧が報道されている。これらの報道を聞くまでもなく、日本の中小製造業の足元では既に『中国経済衰退』の影響が鮮明に表れており、中小製造業の経営者にとっては大きな経営不安の要因となっている。

今年の夏前から、工作機械や建機・電子関連業界などで、中国向けの受注が減少し始め、今月に入ってその減少は顕著になっている。中国輸出関連の大手企業を親会社に持つ精密板金加工業者では既に受注が半減し、先の見込みが全く立たない下請け企業が増えている。数カ月前まで絶好調を極めていた精密板金加工業者では、内需関連業種が依然過熱状態にある半面、中国を始めとする輸出関連業種が落ち込み、二極化が鮮明となっている。輸出関連業種では、風雲急を告げる状況にあり、まさに『潮目の変化』到来である。

この潮目の変化は、『日本製造業の系列ピラミッド崩壊』最終章の幕開けである。

大手企業を頂点とする『系列崩壊』は今までも再三指摘されてきたが、中小製造業にとって昭和時代の発展を支えてくれた『大手依存』『系列依存』の時代が終わる。中小製造業が、発注元を信じ、どんな努力をしたとしても、日本の大手企業が(発注元として責任を持って)系列や下請けを守ってくれることは永遠にないであろう。また、中国市場を失った大手企業がそれを挽回する新たなる方策を見出すことすら至難である。将来、中国市場に再び強い成長の時が来ても、日本の大手企業が再び中国から受注を取り戻し、系列や下請け企業までピラミッド全体が再び潤うことを期待するのは、残念ながら不可能である。

今日までの大手依存体質が染み付いた中小製造業に『経営の変革』が余儀なくされている。

日本の大手企業の国際的ブランド力低下は、今後も継続的に(かつ全業種で)進行する危険性もある。『円安による日本製造回帰』など耳障りの良い見解に安堵感を持つことは危険である。しかし、これを前向きに捉えれば、中小製造業にとって、ピラミッド崩壊が(再起動の)絶好の好機到来と考えることが出来る。系列や下請けからの脱皮が、生き残りの必要条件であると同時に、半面ビッグチャンスの到来でもある。

では、ここからビッグチャンス獲得の課題と道筋を具体化したい。

永六輔氏は、著書『商人(あきんど)』の中で、「つくるのは、努力すればだれでもできるが、売るとなると、才覚がありませんとね」と述べている。この言葉こそ、中小製造業の『経営の変革』の羅針盤であり、中小製造業の経営者にとって『もっとも重要なイノベーションの真髄』である。

多くの中小製造業は系列・下請けのなかで、”売ること”の重要性より、親会社の要求に応えることに全力を注ぎ、徹底したモノづくりの追求から独自の技術力を育み発展してきた。モノづくりのQCD競争に勝ち残る努力は、決してだれでもが出来る簡単なことではないが、今まさに”売ること”を意識した『新たなる経営転換』が要求されているのである。

“売ること”は単なる営業活動ではない。”売ること”は、多くの顧客に価値を認めてもらうための仕掛け作りである。永六輔氏の『才覚』とは、仕掛け作りの技(わざ)、即ち『戦術の力』である。中小製造業の経営者がこの点に着目すれば、ピラミッドから脱皮した未来が拓ける。

では、どうしたら中小製造業で、”売ること”の仕組みが出来るのか?

結論から述べると、中小製造業のビジネスチャンスは、日本を含むアジア全域(時には欧米を含む)世界から仕事を受注することであり、達成すべき課題は、ドイツ提唱のインダストリー4.0が示す『つながる工場』の実現に尽きる。海外から『つながる仕掛け』が必要なのである。アジア諸国の動向に目を転じると、中国の影響下で受注減少傾向が表れているものの、アジアの成長パワーは依然健在である。新製品の立ち上げも活発であり『多品種少量生産・短納期』への対応が余儀なくされていて、多くの企業が日本の製造業に強い関心を寄せている。

円安の環境も整い、日本に製造パートナーを求める海外企業は多いが、当の日本製造業界は、閉鎖的なのか保守的なのか?
系列や、馴染みの親会社のなかに閉じこもり、島国日本の中で仕事を取り合いながら、世界には扉を閉じた『つながっていない、超ローカル活動』に終始している。

一方、アジアの新興中小製造業は、日本と比べQCDや作業者レベルなど劣っている点も多いが、(内需も弱く、インフラも弱いので)国際化の意向が強く、新規設備の導入意欲も高い。(熟練工もいないので)インダストリー4.0などデジタル化やオートメーション化への学習意欲も投資意欲も高く、常に国際社会に大きく扉を開いている企業が多い。発注元を世界中に求めることも常態化しており、日本での顧客開拓にも熱心である。

新興アジアの『つながる工場』と、熟練日本の『つながらない工場』。このまま行くと、日本の中小製造業が(アジア企業に敗れ)崩壊の危機を迎える危惧もある。

『つながる工場』に関しては、最近注目度も高く、様々な解説がなされているが、日本の中小製造業にとって、最も改革しなければならないテーマが『つながる』ことであるのは意外と知られていない。中小製造業には、今日まで築き上げた高い技術力と設備力がある。これを『差別化エンジン』としての『つながる工場』構築が、中小製造業再起動の基本方針である。

インダストリー4.0の本場ドイツでも、『つながる工場』に関し、中小製造業には細心の配慮がなされている。日本とは多少事情が違うが、企業群の90%を超えるドイツ中小製造業の多くが、ノウハウ流失を危惧し、(インダストリー4.0で基準化される)オープンプラットフォームへの接続に躊躇している。ドイツ政府は自らがインダストリー4.0の旗振りを引き受けることで、中小製造業の反対と不安を払拭し、ドイツ国内の中小製造業の競争力向上を国策として推進している。

日本ではドイツのような高度な議論には至っていないが、『つながる工場』には徹底した”オープン思想”が必要である。しかし、残念ながら日本の中小製造業では熟練工のノウハウや現場の意向を重んじるあまり、現場主導が一般化しており、工場運営の仕組みや、使用ソフトが(現場の事情を反映した)閉鎖的な独自システムとなっており、オープン思想とは随分かけ離れている。

現場のノウハウや熟練工が重要であることは疑う余地がないが、日本の最大の課題は、経営者の意識構造があまりにも現場主導に傾注していることにある。3D-CAD操作を嫌う熟練工の意見も、図面片手に頭で考え瞬時に作業するベテランの神業作業も、系列や馴染みの親会社から(難しい要求の)仕事をこなすためには、捨て難き重要な財産ではあるが、ひとたび世界の顧客に目を転ずれば、3D-CADやデジタル管理された設計や加工の仕組みなくして、世界ではなにも”売れない”ことに気がつくはずである。

『つながる工場』実現の第一歩は、経営者の意識改革から始まる。

高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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