トヨタ自動車「プロボックス/サクシード」開発主査 下村修之氏に聞く「ものづくり企業」の源泉

トヨタ自動車株式会社 製品企画本部ZP主査 下村修之氏

トヨタ自動車株式会社
製品企画本部ZP主査
下村修之氏

製造業における商品開発現場では、技術先行型(プロダクトアウト型)、顧客要求先行型(マーケットイン型)などの言葉が盛んに議論されていたが、最近はユニクロのフリースに代表されるように「技術」も「顧客ニーズ」も両立しないとヒット商品は生まれない時代になってきた。そんな中、トヨタ自動車は営業車として高いシェアを誇る「プロボックス/サクシード」をマイナーチェンジして昨年9月1日から発売、見事に顧客の心をつかんでヒットを飛ばしている。

そこで世界を代表するものづくり企業であるトヨタ自動車では、どのように製品が開発されているのかを探るため、「プロボックス/サクシード」の開発主査である下村修之氏に単独インタビューを行った。

インタビューを通じて「トヨタの強さ」の一端を垣間見ることができた。同時に、その強さは一朝一夕には真似ができないものの、ものづくり企業であれば応用できる点が多い。インタビューの中から「プロボックス/サクシード」を、「ものづくりに携わる方々の製品」に置き換えることで、何らかのヒントにつながるだろう。

■産業用機器に共通する「2種類の顧客」
開発にあたっては、顧客が求めていることのヒアリングから始めたという。通常、商用車に求められる要件として「荷物が積める」「壊れない」「価格が安い」の3点が挙げられる。実際、従来モデルでもこの3点は高く評価され、だからこそ今までも売れてきた。さらに時代の要請で「燃費」「安全性能」の向上が要求されている。この点も、モデルチェンジにあたり性能アップが必須である。「プロボックス/サクシード」の開発にあたって下村氏は、基本性能を向上させたうえで、次のステップとして「乗る人が嬉しい車」を目指したという。

ところが商用車の場合は他の乗用車と異なり、「顧客」が2種類存在する。つまり、購入者はほぼ法人であるため、「買う人(総務・購買)」と、「使う人(営業)」の存在だ。しかも両者の選定基準は異なっており、前述の「価格」「燃費」などの要件はすべて「買う人」側のメリットであり、「使う人」はさほど重要視はしていないポイントと想定される。

また、乗用車の場合は販売店に聞いても顧客が求めている内容がわかるが、商用車の場合、リースが8割を占め、販売店と顧客(乗る人)が直接接点を持つことは非常に少ないため、「使う人」の声を聞くためには直接ヒアリングをするしか方法がないとの結論に至ったという。

この2点、「買う人と使う人が違う」「使う人の声は直接ヒアリングからしか拾えない」は、代理店経由で製品を販売している産業用機器メーカーの場合も、同じ状況だと考えられる。「代理店の営業マン」「購買担当者」などから聞いた「コスト優先」などの内容をうのみにするのではなく、実際の「使う人」の声を聞くことができている企業は少ないのではないか。また、「使う人」の声を聞くことで、本当に現場が求めている製品・サービスが提供できるのではなかろうか。

そこで下村氏は、まず取引先に依頼し、実際に車を運転する営業マンにヒアリングを実施した。「トヨタの開発主査がヒアリングをしたがっている」となったため、取引先もヒアリングに役員が同席するなどしたらしいが、「本音が聞きたい」との想いで席を外してもらい、ざっくばらんに意見を吸い上げたという。しかもなぜそう思うのか、なぜその意見が出たのかの根本にあるものを探るため、複数回のヒアリングを重ねた。複数回、本気のヒアリングを実施することで、人間関係も構築され、本音を引き出すことができたことは容易に想像できる。

■ユーザー直接のヒアリングで見えてきたこと
下村氏は当初、「乗る人」のうれしいを実現するために「楽しい商用車」をコンセプトの案として考えていたという。ところが、ヒアリングから見えて来たことは「楽な乗用車」。

営業マン曰く「仕事で”楽しい”はない」らしい。それよりも、運転している時間以外も長時間過ごす車内をいかに「楽に過ごすか」を大切にして欲しいという。

下村氏は「楽な商用車」というコンセプトが見え、ほっとしたという。「楽しい商用車」は数十万人というユーザーにとって千差万別だが、「楽な商用車」であれば共通項があり、具体的な開発指示が出しやすい。

■顧客の声の本質を見抜き、製品に反映
要望を製品に反映するにあたり、顧客の細かい要求を一つ一つ具現化していては製品にならない。「大きい灰皿」「荷物置き」「大きい時計」など、全部取り込んでいったらインパネの大きさもコストも巨大になってしまう。

トヨタでは、表面に出てくる現象よりも「なぜそうなるのか」「なかったらどうしているのか」「なぜそう思うのか」など真因を明確にし、把握することが徹底されているという。

今回のプロジェクトでも、この手法によって具体的な仕様が決定されていった。今回は、「置き場所」を作った後にデザインをしたことで、「営業マンが楽なインパネ」を実現させている。しかも開発陣へ、具体的に指示されている。お弁当置き場は「置きやすいように」ではなく「のり弁とおでんを両方置けるように」、コンビニフックにしても「ひっかけやすいように」ではなく「牛丼が縦に3段置けるように」、ドリンクホルダーも「使いやすく」ではなく「1リットルパックが置けるように」といった具合である。

■「楽な商用車」へのこだわり
下村氏は「インハイのストレート」にこだわったという。ここでいう「インハイのストレート」は車としての基本性能のことである。いくら便利な機能(=外側の変化球)が優れていても、ストレートが良くないと良い投手とはいえない。優れたインハイのストレートがあるからこそ、外側の変化球で空振りが取れる。

「プロボックス/サクシード」の場合は、「使い勝手が良いインパネ周り」が「外側の変化球」、楽な商用車に必須の「長距離運転しても疲れない基本性能」が「インハイのストレート」に該当する。

運転で疲れる要因にはショックや騒音、シートの座り心地などはもちろん、思い通りに車を操れるかという点が挙げられる。そこで、今回は足回りを徹底してブラッシュアップさせているという。思い通りに動かせるステアリング性能の実現で、楽な運転を具現化している。

また、全体の乗り心地も営業マンの生活から行動までを分析してチューニングされている。営業マン自身がプライベートで乗っている車(乗用車)と乗り心地が違っては、いくら良い基本性能を持っていても違和感があり、疲れてしまう。また、商用車は荷物がない状態でも、400キログラムの荷物を積載している時でも、同様の乗り心地が求められる。今回は、どの状態でも乗用車と同じような乗り心地にするのが大変だったという。

■コストとの両立
コスト低減にあたり、困ったのは「取るものがない」ということだった。うどんでいうと「素うどん」。高級車であれば、機能や装備を見直すことでコスト低減ができるが、商用車ではそれができない。そこで商用車ならではのアプローチがされている。ハーネスの種類見直しがその一例として挙げられる。今回、オプションを絞ることでハーネスの種類を絞っている。またオプションも大胆に減らした。MT(マニュアルミッション)車、CNG(天然ガス)車、ワゴンなどのラインアップを見直し、「CVTのバン」ということで統一。「プロボックス」と「サクシード」の設計を共通化するなどでぜい肉をそぎ落とし、コスト削減に成功している。

■製品設計と生産とのギャップ
生産にあたり様々な壁はあったものの、着実にステップが踏まれて進んでいったという。今回は、早い段階できちんとした試作車が作れ、最終状態に近い状態でテストを継続できていたため、高い精度で生産に移行することが実現できている。

生産側担当者との意見の違いもあった。アッパーボディは12年間の実績と評価があり、ほぼそのまま使いたかったが、そのままではプラットフォームに乗らない。結果、プラットフォームを改造するという前代未聞の手法が取り入れられている。生産側から見ると「プラットフォーム」はいじるものではないからだ。しかし、最終的にはアッパーボディをそのまま使うことの合理性が理解され、プラットフォーム側を改造する手法が取り入れられた。

■ものづくりの企業文化
「良い車をつくる」ためには色々な考えがあるが、トヨタでは「お客様の笑顔」を優先しているという。「作れる車」「儲ける車」ではなく、「お客様の笑顔」が見られるかどうかを判断基準においている。そのために、トヨタではお客様の言葉を現地現物で確認し、「お客様の言葉=事実」を最重視している。この考えは生産現場でももちろん徹底しており、現地現物で議論する風土が定着している。開発プロジェクト内での議論が分かれた時でも、「現地現物の事実があれば戦える」という下村氏の言葉が印象に残った。

「技術」と「顧客ニーズ」を良いバランスで融合することで、日本のものづくりはさらに発展できることをトヨタ自動車のクルマづくりからあらためて確信した。

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