
インダストリー4.0をきっかけにスマートファクトリーやマスカスタマイズ、デジタルツインといった次世代の生産システムの構想が示されてから10年あまりが経ち、ようやくそれらを実現する汎用的な技術や製品が揃ってきた。その代表的なものが「リニア搬送システム」であり、搬送工程を変革するキーコンポーネンツとして注目を集めている。
シュナイダーエレクトリックも2024年にリニア搬送システム「Lexium MC12 マルチキャリア」を発売し、さらにデルタロボットやスカラロボット、統合コントローラと関連機器やシステムを次々に上市し、次世代の生産システムの基盤技術の提案を強化している。リニア搬送システムを中心に、先進的な設備構築に向けた取り組みについて、シュナイダーエレクトリック インダストリアルオートメーション事業部 商品企画部 ロボティクス&モーション製品担当マネージャー 佐々井 明日香 氏に話を聞いた。
個別独立制御で生産性を劇的に改善する「Lexium MC12 マルチキャリア」
ーーリニア搬送システム「Lexium MC12 マルチキャリア」について
「Lexium MC12 マルチキャリア」は、キャリア(搬送台車)側の永久磁石とトラック側のコイルによって発生する磁力を利用して複数のキャリアを個別に独立して動かすことができるリニア搬送システムです。従来のコンベアシステムは、一か所が止まるとライン全体が停止してしまうという課題がありましたが、このシステムでは各キャリアを個別に制御できるため、あるキャリアが作業をしている間に別のキャリアを先行させたり、特定の場所で停止させたりといった柔軟な運用ができます。これにより生産性の向上や装置の設置面積の省スペース化が可能になります。

ーーリニア搬送システムは今注目されている製品であり、国内・海外メーカーが多く参入している領域です。御社製品の特長や強みは?
リニア搬送システム共通の特長として、メインの構造はオーバル(楕円形)で、ストレートとカーブのセグメントをレゴブロックのように自由に組み合わせて、お客様のラインに合わせたレイアウトを構成することができます。
そのなかでもLexium MC12の最大の差別化ポイントは、キャリア1台あたりの最大推力が120N(ニュートン)と非常に高いことです。これは可搬重量2.2kgクラスのリニア搬送システムとしては業界トップクラスの推力となります。この高推力によって、より少ない電流量でキャリアを駆動でき、結果としてセグメント内のコイルの発熱を大幅に抑制できるので、加減速を繰り返す等激しく使用しても熱影響が出にくく、高精度を保ったまま長時間の稼働ができるというメリットがあります。また他社の場合は発熱を抑えるために空冷システムを追加したり、厳密な温度管理が必要となりますが、Lexium MC12ではそれが不要です。
ーー実際、リニア搬送システムはどのような使い方ができるのでしょう。どのような搬送方法や工程改善に活かせるのでしょうか?
キャリアにテーブル取り付けて搬送するのはもちろんですが、例えば2つのキャリアをペアとして使い、キャリア間の距離を動的に制御することで大小様々なサイズの製品を搬送できます。治具交換の手間を省け、多品種少量生産に適しています。また2つのキャリアで製品を挟み込んで固定するようにすれば、縦型のワークを安定して搬送することもできます。
さらに、ロボットと一緒にシステム化したピック&プレイス工程では、ロボットがワークを掴むエリアではキャリアの速度を落とし、それ以外の区間では高速で移動させるといった速度制御をし、全体のタクトタイムを短縮することができます。これらの工夫によって生産数向上、工程集約、作業性向上といった効果が期待できます。
リニア搬送システムとロボットを1台のコントローラで統合制御
ーーロボット製品のラインナップも増え、ロボットとの組み合わせは相性が良さそうですね
デルタロボットは、最大可搬60kgの2軸タイプ「Lexium T」と最大可搬15kgの3軸タイプ「Lexium P」をラインナップしています。フレーム全体がステンレス製で、破損による異物混入のリスクが少なく、水洗いや洗剤を使った洗浄にも対応しています。
ピック&プレース用途に最適なスカラロボット「Lexium SCARA」も、2025年秋頃にはIP65に準拠し、水洗いが可能になるモジュールの発売を予定しています。ロボットは、特に食品業界向けのラインナップを強化しています。
Lexium MC12を含めた当社のロボット製品は、ロボットコントローラ「PacDriveコントローラー」1台で同期して統合的に制御することができる「ワンコントローラソリューション」に対応しています。ロボット専用コントローラーが不要になるので、設計工数の削減や制御盤のサイズの小型化、高い同期精度を実現でき、プログラミングも1つのソフトウェア環境で行えるため開発効率も良く、装置の立ち上げや更新などにも便利となっています。
デジタルツインで装置設計・立ち上げ時間を短縮「EcoStruxure Machine Expert Twin」
さらに、3Dシミュレーションソフトウェア「EcoStruxure Machine Expert Twin」も提供し、実機を導入する前にコントローラーと接続して、仮想空間上で装置の動きをシミュレーションしてプログラムのバグ出しや設計検証を行うことができます。これまでは現場でトライ&エラーをしながらの調整作業だったので立ち上げまでに多くの時間と工数を要していましたが、シミュレーションをうまく使うことで机上で十分にテストをした上で、現場での調整時間を大幅に短縮できます。実際、あるお客様では立ち上げまでの期間を20%短縮できたという実績もあります。
また当社のリニア搬送システムやロボットだけでなく、他社製のPLCやロボット、サーボモーターであっても、通信さえ確立できれば連携させて3D上で表現してシミュレーションやデバッグができます。ライン全体の最適化を支援するオープンなプラットフォームとしても使うことができるのも特長です。
モーションコントローラとIPCを1台に集約「Modicon M660」
ーーリニア搬送システム、ロボット、コントローラ、シミュレーションソフトと、次世代型の装置や生産ラインを構成する要素が揃ってきました
現在、「PacDriveコントローラー」の後継機種として「Modicon M660」という次世代コントローラーを開発しています。日本市場では2025年中の発売を予定しています。
Modicon M660は、1つの筐体のなかにPacDriveコントローラーのモーション制御機能と産業用PCを内包し、1台のコントローラーで高度なモーション制御を行いながら、同時にデータ収集、上位システムへのデータ連携、カスタムアプリケーションの実行、さらにはAIを活用した予知保全やプロセス最適化といった情報系の処理を実行できます。モーションコントローラーとゲートウェイ、エッジコンピューティングの機能を融合させた製品となっています。サイバーセキュリティに関しても、国際標準規格であるIEC 62443-4-1および-2に準拠しており、安心して上位システムと接続できます。

12月の国際ロボット展に初出展 次世代設備向けのフルラインナップを展示
ーー今後に向けて
日本市場では、当社がリニア搬送システムやロボット、IPCを統合したコントローラーまで手掛けているという認知はまだ低いのが現状です。しかし最近になってようやく「シュナイダーが面白いことをやっている」と声をかけていただく機会が増えてきました。自動車メーカーが先進的な生産ラインやデジタルツインの検討を本格化しており、ティア1、ティア2のサプライヤーにも広がってきています。
当社は、お客様が抱える生産性向上、省人化、省スペース化、データ活用といった様々な課題に対し、この高性能なモーションコントロール技術を核としたソリューションで貢献していきたいと考えています。「シュナイダーはこんなこともできるのか」という新たな発見をしていただけるよう情報発信を強化していきます。
また、12月の国際ロボット展にシュナイダーエレクトリックとして初めて出展することが決まりました。Lexium MC12をはじめ、スカラロボット、デルタロボット、次世代コントローラーまで、フルラインナップで展示し、当社のソリューションを直接体感していただける機会にしたいと考えています。