企業リスクマネジメント 第53話 ~決断~ グローバル時代の生き残り戦略

前話では、組織のルールを守ることが大切であると述べたが、この回では、それを守らなかった社員に対し、ある会社がとった決断を紹介したい。

彼女は社歴5年、社内では中位のキャリアを持つ。仕事は概ねテキパキこなし、実務能力は高いほうであった。しかし問題なのは、社会人としてのマナーの悪さとキレやすい性格による秩序の乱れであった。にもかかわらず、なぜこれだけ長く勤務できたのかというと、彼女に対し注意する上司や同僚がいなかったからだ。上司の名前を呼び捨てにし、タメ語や、ガムを噛みながら会話をするといった態度の悪さについて周囲は触れようとしなかった。

ある日、少し上の上司が我慢できずにそれを注意したところ、逆ギレし、上層部に泣きつき直訴する始末。感情の起伏が激しく、嫌いな人には暴言を吐き愚弄し、馬鹿にしている上司の悪口を吹聴し、好きな人や上層部には態度を変える。だからもめると面倒くさいし、注意しても逆ギレされるのが嫌だから、周囲は腫れものに触るように接してきた。そこへ1年前、新しい部長が上司として配属された。問題にすぐに気づいた部長は、組織のルールについて、社員心得について、言葉遣い、服務規定について、既卒の彼女に新入社員を教育するかのごとく教えていくのだが、いっこうに態度は改まらない。好き放題し、居心地が悪くなるような上司の言うことなど聞こうとしない。それどころか、課長から話があると言われても「私にはない」と拒絶し、社内中に中傷されたと騒ぐ始末。ついに部長は辞職してもらうことを決意、その社員を呼んで諭旨解雇通告をするつもりだった。

諭旨解雇とは、使用者が労働者を説得し、退職届または辞表の提出を要求することである。しかし、ここでも話し合いを拒否、辞めてやると騒ぎだした。普通では考えられない異常な光景だ。何か注意をする度に大声で逆ギレするのは、性格異常か極端な社会性の欠如である。結局、話し合いに応じたが、あまりにも態度がひどく口論となり、ついに部長は「明日から会社に来なくてよい」と即時解雇をした。それはつまり懲戒解雇である。一般的に懲戒解雇の理由としては、長期の無断欠勤、会社の金品の横領、職務・会計上での不正、重大な過失による業務の妨害、重大な犯罪行為などが多い。それらにはあてはまらないが、会社規則「懲戒解雇」規定にある「会社の命令に再三反抗し、または拒否したとき」に該当する。

解雇の種類は会社都合か、懲戒解雇または諭旨解雇の3つであるが、当ケースは会社都合では断じてない。諭旨解雇で話し合いが成立しても規定期間内に退職届の提出がなければ懲戒解雇になる。ようは、懲戒解雇となると、次の会社勤めに支障をきたすだろうから自己退職扱いで処理しようといった会社側の温情あるものが諭旨解雇である。その社員は会社や使用者をなめきっていた。解雇通知後やはり逆ギレし、上司に対して「おぼえてろよ」と捨て台詞を吐いた後、知らないチンピラ風の男から何度も汚い言葉で嫌がらせ電話があったらしい。当然会社は、企業脅迫から身を守るために警察に通報せざるを得ない。警察が動きだすと脅迫電話をやめ、今度は民事訴訟をすると騒いでいるとのこと。会社側は訴訟を全く恐れてはいない。むしろ労働環境の改善と、これまで中傷にあった社員のためにも正義ある態度を貫かねばならない。実務能力があっても、会社の秩序や風紀を乱す社員を社に残すことは社員への信頼を損ねるばかりか、内部崩壊にもつながるからである。

反省し謝罪していれば雇用関係は保てたのに、稚拙というか、短気は損気とはこのことか。昨今、労働者の権利は高まる一方だが、社会常識上逸脱しても保護されていいわけではない。社員を注意するのが苦手という人は、割合多く存在するように思う。人に嫌われたくないからなのかもしれないが、臭いものにフタをしても、腐敗を進行させるだけである。
(シュピンドラー株式会社
代表取締役シュピンドラー千恵子)

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