- コラム・論説
- 2025年2月12日
令和の販売員心得 黒川想介 (156)技術指向の強さから脱却しコミュニケーション大事に
日本経済がバブルを経験した昭和後期に、「産機ルネサンス」というスローガン的な言葉がFA営業の間でささやかれた。ルネサンスと言えば、14世紀にイタリアのフィレンツェから始まり、「古典文芸復興」運動のこととされている。中世の西欧はキリスト教の力が強く、キリスト教の教義の視点で西欧の世界は動いていた。これに異を唱え、人間性の豊かさがあったギリシャやローマ時代の文芸を再評価し、芸術・文化・知識の変革をもたらした時代がルネッサンスでる。
では、FA営業で起きた「産機ルネサンス」のささやきとは何だったのだろうか?当時は半導体の進化に目を見張るものがあり、FA商品、FA技術の高度化が進んでFAマーケットを変え始めた。それまで順調に伸びてきた商品とは違っていたので、FA営業の顧客対応は難しいものとなった。センサは光や電気の変位量でセンシングする商品が登場し、PLCは機械制御のコントローラーを上位から情報コントロールする商品が登場した。モーターは精密な位置決めをするサーボモーターが登場した。FA営業には、これらの商品を積極的に売り込むために技術武装した販売員の育成が必要になった。
こうした変化の対応に大わらわの状態を産機ルネサンスと言ったのか、あるいは販売員が、昭和期の前期からやってきた手探りの営業による商品の開発・改造依頼や、あるいは商品の用途例探索型の営業が遠くなっていくのを懸念してのささやきであったのかは定かではない。しかし結果的には、平成期の営業が引き継いだのは、手探り営業ではなく、販売員の技術思考を是とする方であった。
商品が電気技術的に難しくてよく分からなければ、まともな営業はできないし、顧客についていけなくなる。それよりも同業他社に負けると考えれば、次の時代を担う販売員の技術武装はマストであった。そのため平成期のFA販売員は「技術武装しなければFA営業にあらず」という路線を走ってきた。結果として顧客満足営業の上策として「課題解決営業」が定着した。それが高じてシステム案件の領域にまで手を広げるほどの技術力思考を強くしていった。
令和期に入ってFAマーケットはどうだろうか。販売員が売り上げる大半のFA商品は、商品形式で購入されている。難しいと思われていた電気機器も、時を経ることで顧客側が熟知し、さらにメーカー側も使い勝手の良い商品に改良して発売する。販売員が技術的に説明を加えなければ購入されない商品、売り上げはそれほど多くなくなっている。
平成期が始まった頃には、FA業界を挙げて「商品は難しいもの」として扱われていたが、今では既に「最寄り品」となっている。最寄り化しているから、通販型営業やカタログハウス営業がFAマーケットにじわじわ勢力を広げているのだ。
それでもFA販売店営業は技術力思考を続けている。技術力があれば課題解決の案件を受注し、売り上げ拡大ができると思うからである。確かに今後も技術の高度化が進むのだから、販売員の技術力向上が有力な打ち手になるのは間違いないが、しかしそれはFAマーケットの一方向的な見方でしかない。FA需要つまりファクトリーオートメーション需要は、ある一方向に向かっていくのではなく、多彩な方向に向かって広がると思わなければならない。
さらにファクトリー(Factory)のエフ(F)を除けば単にオートメーションである。それに貢献する制御機器や制御部品は多数ある。一次産業や三次産業向けの業務用機器は、新しい用途が加速するだろう。それに使用する制御商品の開発もあるはずだ。こうした見方をすれば、これまで一途に貫いてきたFA販売員の技術指向の強さは中世のキリスト教義のようなものと思われる。それからの解放をし、より商人に戻り、情報をコミュニケーションを大事にすべき時である。