【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (57)】ビジネス文書と技術報告書の共通点と違い

今日のコラムでは、技術者育成の最重要アプローチともいえる「技術報告書スキル向上」を改めて考えるにあたり、ビジネス文書と技術報告書の違いについて考えてみたいと思います。

技術報告書作成スキルを基本とした論理的思考力は技術者育成の根幹

これまでのコラムで何度も繰り返してきたように、技術者育成において最重要なのは「技術報告書作成スキルを基本とした論理的思考力の醸成」です。
マネジメントや技術者の方の中には、技術報告書作成によって醸成される論理的思考力が、第三者に対して的確に情報を伝えることに加え、取得した情報やデータを整理する、さらには活字から情報を読み取る能力向上に重要であることを理解していただいている方がいらっしゃると感じています。
その一方で、一般的に文章作成力というキーワードと結びつくのは、「ビジネス文書」であるのが実情のようです。ビジネス文書は技術報告書と同様、同じ文書である故、共通点がある一方、技術報告書とは異なる部分があります。

ビジネス文書と技術報告書の共通点

ビジネス文書と技術報告書の共通点から考えてみたいと思います。ビジネス文書については、当該文書作成に必要なポイントをわかりやすくまとめていた、以下のものを参考に考えてみたいと思います。「伝える!震わす!書く力。」週刊ダイヤモンド(2019年12月21日号 https://diamond.jp/list/feature/p-power_of_writing)
ビジネス文書と技術報告書に共通する重要なポイントが以下の二点です。「A.基本構造を意識する」「B.読み手を意識する」。それぞれについて述べてみます。

基本構造を意識する

技術報告書は業界や企業が違っても必ず共通とすべき基本構造があります。それは、最初の1ページ目に、以下の4本柱(図1)を記載することです。これは絶対に外してはいけません。


この4本柱をきちんと書くためには、行った評価や実験の中身をきちんと理解していないと困難です。裏を返せば、この辺りがすらすらと書けるのであれば、技術的な内容の報告は相手にとっても聴きやすいというものになります。
そして、これらの4本柱を記載するにあたり、極めて重要なのが、「・目的と結論が1:1になっていること」「・4本柱は最初の1ページの範囲にはまっていること」という2点です。「目的で述べている問いかけに対し、結論でその答えが述べられていない」「報告書が1ページ目からだらだらと長く、結局何が言いたいかわからない」といった事象は、当社の顧問先でも初期の頃よく見られる状況です。つまり、技術報告書作成に不慣れな技術者の多くがこの2点をできていないのです。
ビジネス文書で大切なものとして、「大枠でもいいので全体像をつかむ、つまり文章の構造を理解する」ということが重要と述べられており、同じことが技術報告書にも当てはまります。

読み手を意識する

これは技術者が極めて苦手とするスキルの一つといっても過言ではありません。技術者の作成する技術報告書はもちろん、専門書等でも、専門用語が何の解説も無く出現し、話がどんどん進んでいくという文章に出会ったことはないでしょうか。これは明らかに読者目線が欠けている好例といえるでしょう。

技術者は専門性至上主義に縛られているため、自分がいかに専門性が高いかということに対する執着をみます。そのため、専門的な言葉を駆使しながら、述べたいことだけに一足飛びしようとします。
このようにして書かれた技術文章は非常に難解で、その道の専門家にしかわからない文章となってしまいます。学術業界で専門家ばかりが集まるところであれば問題ないでしょう。しかし、異業種協業が不可欠になりつつある産業界では、技術者がその道の専門家しかわからないような技術文章を書いていては、自社技術に対する理解が広がらず、協業することも難しくなってしまいます。

技術文章の基本というのは、「技術的な評価結果や事象などを、技術的な基本を丁寧に説明しながらわかりやすく伝える」ということになります。広がりを見せない技術文章は価値が半減します。逆を言うと広がりを見せる技術的文書は、技術者が企業の発展に最も貢献できる「技術情報発信型マーケティング」の実現への足掛かりになるのです。
そういう意味では読者が自分の行った技術評価について、予備知識がないとして、どのように説明をすればいいか、という相手の立場、つまり読者目線を持てるかどうかがカギとなります。

これが自らを客観的に理解することにつながり、これこそが技術報告書によって培われる論理的思考力の本質とも言えます。ビジネス文書の解説においても、「読み手がいる以上、書き手の書きたいことを書くだけではいけない」という旨が書かれており、ここは共通点といえるでしょう。

ビジネス文書と技術報告書の相違点

その一方で、ビジネス文書と技術報告書で異なる部分もあります。それは、「ビジネス文書=読み手の立場を想像し配慮する」「技術報告書=読み手が誰であろうと、客観的かつ定量的な技術的事実の言及を徹底する」という違いだと思います。読み手に配慮をすることについて、ある程度必要であることは上記で共通点として述べました。しかし、これはあくまで独りよがりな文章ではなく、相手が読みやすい文章にするという観点の話です。

そして「読み手に配慮する」ということについて、技術報告書で誤解してはいけないことがあります。技術報告書において、相手を誘導して戦略を自らの進みたい方向にもっていく、そのために技術的な事実を軽視、または無視して相手の立場を考えながら文章で誘導する、という読み手への配慮です。これは絶対にやってはいけません。技術は不変であるという鉄則を無視した極めて危険な考え方です。

逆にビジネス文書では、当該文書のやり取りによって組織の方向性や、顧客獲得等の流れが変わるので、ここは相手の立場に入り込んで先回りするといったことが重要であることに異論はありません。しかし、技術報告書はあくまで技術的真実を突き詰めるという所だけを徹底しなくてはいけないのです。
何故かというと、読み手の立場を意識しすぎると、「相手はこのような結果を述べると読み手は喜ぶのではないか」という技術とは無縁なパラメータが入ってきてしまうからです。

このような技術と無縁な配慮こそが、「データの改ざん」という問題に直結するのです。技術報告書で報告するような評価結果は企業の売り上げや利益、プロジェクトのスケジュールとは切り離されていなければならず、重要視されるのは徹底した技術的事実の言及なのです。製品化を急ぐあまり、技術的な事実に目を向けないというのは書き手も読み手も技術者として失格であることはもちろん、人としても疑問符が付きます。
「技術は真実である。」ここは技術者育成を進めるにあたって絶対にぶれてはいけない哲学ともいえるでしょう。

今日はビジネス文書と技術報告書の共通点と相違点について述べてみました。両方の報告書には共通点もある一方、技術報告書は技術的事実を伝えることを徹底するというぶれない姿勢が肝要である、ということについて改めて認識いただければと思います。
技術報告書作成のスキルを高めようとする技術者の方、指導を行うマネジメントの方にとってご参考になれば幸いです。

【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
 FRP Consultant 株式会社
 代表取締役社長
 福井大学非常勤講師
 FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/

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