令和の販売員心得 黒川想介 (16)

戦闘的から戦略的への転換
何度でも顧客に会う機会を

人は人と顔を合わせて話を交わす時に、それが短時間であっても相手を評価・判断する。それも無意識に、大ざっぱに3種に分けている。

一つ目は、自分となんとなく馬が合う感じを受ける。二つ目は、極端に言えば顔を見るだけでも声を聞くだけでもいい気分になれず、あまり会いたくないという感じ。三つ目は、可もなく不可もなく、また会ってもいいし会わなくてもいい感じである。

無意識であるが、初めて会う見込み客は、とっさに販売員を前記の三つのうちどれかの評価判断を下している。出合い頭のこの評価・判断を、心理学では初頭効果といって、修正されない限りかなり後まで根深く残るという。

 

販売員に、初めて会う見込み客にはどのように見られたいかと問うと、十人中十人が相手に好かれたいと答える。だからいい所を見せようとして緊張する。いつも会っている顧客と違って力が入る。力が入ると相手のことが見えずに、自社にはこんな良い所があるとか、この商品は他に比べてこんな特徴を持っていますなどと相手に喜んでもらえるように力説する。販売員は、嫌われたくない、無視されたくないという感情が働く。

墓売りのウィリー・ゲールも当然、同じ感情は働いた。しかし彼の場合、自社のことや商材がどれほど良いものなのかを力説しても無駄なことはわかっていた。もちろん、墓売りだと相手は知っている。墓を販売しているウィリーですとサラリと言っても嫌われない道はないかと考えた。

出した結論は、初回のアプローチではとにかく悪い印象だけは与えないで会話ができればいいと思った。物が物だけに相手が心を開いてくれない限り、商談の売り込みトークはできない。人は何回か会って会話をすればするほど、親しさが増すというのは人の心理である。実際に彼は冷や汗を流しながら、会話を続けようという思いで一杯だった。全ての見込み客が彼に冷ややかな応対をしたわけではなく、割合は少なかったが会話を続けてくれた見込み客もいた。

 

営業というのは経験の数に比例するところがある。やがて会話を続けるコツが見え出した。見込み客は大きな耳を隠し持っている。少しの興味に触れると表情は変わる。簡単な質問をしてくる。興味は墓のことに限ったわけではないが、見込み客の人となりを知る上では役に立ったし、貴重な情報でもあった。

ウィリー・ゲールの営業には二つの利点がある。一つ目は、商材やサービスには最初から触れられないため、会話の技量が上がっていくこと。二つ目は、再三会ってもらうことに専念し、何度も会う機会を作ったので、相手の興味を見つける機会も多かったことである。

機器部品の営業は、相手に好かれたいという思いが強いため力が入って一回の訪問で終わってしまう。ウィリー・ゲールの営業は実に戦略的であった。戦略的とは勝つためにする深謀遠慮のことであり、彼は一回の戦闘で成果を期待し、終わらせるようなことはしていない。一回一回の目標を、再三再四にわたって会ってもらえる状況を作ることにおいた。

 

機器部品の販売員は、戦略的に明確な目標を持って攻めているわけではない。新規開拓でも見込み客への初回のアプローチから戦闘的な営業である。だから新商品や戦略的商品を紹介し、なんとか商談の糸口をつかもうとする。

令和の時代は、社会や製造や設備が大きく変容する。平成の延長線上にはないことも多々出てくる。平成の戦闘的営業から、ウィリー・ゲールのような戦略的営業にする必要がある。販売員は令和の見込み客から何を期待されているかと思う前に、まずは令和の見込み客にどのように見られているかを深く観察し、営業の型を作っていくことが必要だ。

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