【提言】テレワーク温度差・中小製造業のガバナンス【コロナ禍が教える日本ものづくり課題】(その2)〜日本の製造業再起動に向けて(65)

2020年7月29日

今月(7月)に富士通が、基本、在宅テレワークを行うと公表した衝撃的なニュースをご記憶の方も多いと思われる。コロナ対策として始まったテレワークが、たった数カ月で『新たなる働き方』として大企業の指針となった事は、労働環境の大変化を予感させる重大ニュースである。

富士通は、テレワークなど働く場所の自由選択により2022年末までにオフィスを半減するとしている。富士通社員にとって労働聖地の半分が消滅するのである。戦後70年以上に渡って続いた企業像とは、事務所や工場を職場とし、社員一人一人が自分の会社に居場所を持つことで社員として自覚し、企業村の一員として集団活動に携わってきた事である。

テレワークや在宅勤務によって先人が育んできた『企業文化』が崩壊し、社員の帰属意識が薄れることが危惧されるが、富士通のみならず日本を代表する大企業の多くは同様の方針を固めており、日本全国に壮大なパラダイムシフトを巻き起こすのは必至である。

 

コロナ感染拡大防止から始まったテレワークは、通勤地獄の開放など社員メリットも多くあり、SNSやメディア報道ではテレワークへの好意的な声が目立ち『テレワークを実行する企業は素晴らしい』といった社会的評価も生まれている。しかし本当にテレワークや在宅勤務はニューノーマル社会の救世主となるのだろうか?

特に中小製造業の観点では、残念ながらテレワークや在宅勤務には否定的な声が多い。新型コロナ感染防止の緊急対策に対して異論を唱える人はいないが、中小製造業にとってテレワークや在宅勤務は現実的ではない。

中小製造業にとっては、コロナ感染の第2波・第3波に備えて一時的な在宅勤務を検討するのが精一杯であり、コロナ終息後もテレワークや在宅勤務に切り替えようと思う中小製造業の経営者はほとんどいない。大企業と中小製造業には相当の温度差がある。その温度差を認識しつつ、中小製造業の取り巻く環境変化を前提に次世代の経営戦略を検討してみたい。

 

まず初めに、中小製造業の実態の一例として、東京都の部品製造業SS社の実例を紹介したい。SS社は、大手製造業に電気補助部品を納入している業界トップ企業であり、取引先は千社に上る。都内には自社工場が複数あり、流通センターも自前で所有する一方で、数十人規模の営業部隊を全国に擁する優良中堅企業である。SS社は、緊急事態宣言が発出された当時、営業及び営業事務員全員に交代制の在宅勤務を指示し、在宅勤務のシミュレーションを実施した。SS社経営陣は、そのシミュレーション結果を持って、第2・第3波のコロナ襲来に備える具体的戦術を模索している。

筆者は、先日SS社の緊急会議に参加した。参加者は社長・専務及び営業系社員数十名で、会議テーマは「今後の第2・第3波のコロナ襲来に対応する在宅勤務用の必要機材とその活用方法を検討する」事で、営業マンの本音を聴取する重要な会議でもあり、筆者にとっても貴重な体験となった。

営業マン全員からの一致した声は、SS社の営業としての誇り、SS社の総合力の強み、そして何より対面営業の重要性、及びSS社営業の団結と協調の重要性であり、『在宅勤務では何もできなかった』と語っている。また、『非対面営業も現実性がない』と断じている。彼らの総意は、第2・第3波のコロナ襲来に備えた限定的な在宅勤務のあり方への提案と同意はあるものの、テレワークや長期的な在宅勤務には否定的であり、ましてやコロナ終息後の在宅勤務など論外であるとの結論であった。

この結論は、広く日本全国の中小製造業に共感されると思われる。製造現場のテレワークが不可能である事は議論の余地もないが、事務職やエンジニアと営業にテレワークを実施する事も容易ではない事を如実に物語っている。メディアや大手各社が、声高々にテレワークや在宅勤務を掲げたとしても、中小製造業との温度差は明白である。中小製造業が大半を占める日本のものづくりにテレワークや在宅勤務が定着するとは考えづらい。しかし残念なことに、テレワークや在宅勤務を推奨する社会の総意は、中小製造業にも(感染防止の観点から)社会的義務として襲いかかって来るのは避けられない。ニューノーマル社会の新常識に対応しないと、『感染防止に無関心な企業』として社会的批判を受けるばかりか、社員の反発も想定され、将来的に経営リスクは増大していく。

 

中小製造業に襲いかかるガバナンスの要請は経営者にとって無視できない。ガバナンスとは、コンプライアンス(法令遵守)を実施するための社内の管理体制であり、企業ではコーポレート・ガバナンスと呼ばれている。中小製造業にも、ニューノーマル時代の新たなるコーポレート・ガバナンスが要求される。『(感染を)恐れるガバナンス』時代の到来である。この要求を満たすには、テレワークや在宅勤務を真っ向から否定せず、事務部門やエンジアリング部門の近代武装化投資を検討すべきである。その代表的な武器は数年前から(大手企業や地方自治体を中心に)普及が始まったソフトロボット「RPA」である。

中小製造業は、今日まで製造現場への投資による生産性向上を実現してきたが、RPAによる事務部門の近代武装化は、手付かずの領域である。RPAによる事務所自動化を実現すれば、『恐れるガバナンス』の実現と同時に、工場全体の生産性向上に寄与するのは確実であり、テレワークや在宅勤務もずっとやりやすい環境が構築できる。コロナ禍がキッカケで、中小製造業の近代武装化が一気に加速するのは間違いない。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。