令和の販売員心得 黒川想介 (5)初めての販売員アプローチが 見込み客開拓の入り口となる

販売員が見込み客に初回訪問した時の一般的な情景は、丁寧な所作で名刺交換をした後に着席する。ここから二つに分かれる。

一例は、販売員が先に口火を切る。内容は自社の案内であるか、その時に力を入れている商品のことである。つまり商品やサービスに関することであり、いかに見込み客にとって役に立つかを強調することである。

二例目は、見込み客の方が先に口火を切ることである。見込み客は、本日はどういう用事で訪問されたのかと先制攻撃をかける。販売員は一例目と同様のことを得々と話す。要するに一例目は相手の威圧に負けて先走り、二例目は相手に主導権を取られて、販売員は集中砲火を浴びる。結局、相手の本音や弱点は見えず退散する。かなり見込み客が気に入った商品か、息が合った会社なら話は別だが、そのような相手に簡単に出会うことはない。その点で制御機器や部品の販売員にとって、成熟時代の見込み客開拓はお墓を売って歩くようなものなのだ。

1960年代に全米で有数のお墓売りになったウィリー・ゲールが書いた日本語訳『心理販売術』を大いに参考にすべき時である。つまり現在のような低成長成熟期の業界では、見込み客を開拓するにはお墓を売って歩く位に難しいのである。

これまで商品に関する技術的知識や与えられた課題解決のためのシステム提案力が、販売店を成長させる最適な方法と言われてきた。確かに、大手の販売店は豊富な商材と多数の大手顧客を持ち、需要を呼び寄せる力があるから、システム提案力や商品の技術的知識習得が売り上げ拡大の近道なのかもしれない。しかし、多くの一般的な販売店にとっては、営業力こそが成長の近道なのだ。営業力とは、商材やサービスに過大に依存しないという意味である。

経済が発展していくというのは、新しい技術や新しい物やサービスが生まれ続けることである。これから生まれてくる物やサービスに絡む会社や、新しい技術で製造現場を変える部署が新しい見込み客となる。一般の販売店は、これらを発見し開拓することが成長の近道になる。大手販売店のように新しい見込み客は近づいてこないのだ。一般の販売店が持つ商材やサービスでは、新規見込み客にとっては極端に言えば墓を売るようなものであるから、いくら熱心に紹介しても取り合ってはくれない。だから販売員の見込み客開拓力はいかに大事かがわかるだろう。

実際の戦場で戦いをする時に、勝利するための原則の一つに主導権の原則というものがある。特に少ない兵をもって大軍を破った戦いは、必ず主導権を取っている。販売員が新規の見込み客に初回の訪問をする時、互いに着席してから販売員と見込み客のコミュニケーションが始まる。この時、販売員は主導権を取って始めなければならない。主導権を取るということは、会話の口火を切る事だけではなく、会話が続くように終始リードすることである。

いつも相手にしている顧客ではない、本日会ったばかりの見込み客が相手である。案件は無く、用件も無い、日常やっている一般雑談などできない。だから見込み客に対してどんな話題でどんな会話の流れにリードしていこうかと戸惑う。それに見込み客は何に興味を持っているかもわからないから、いきなり商材やサービスをアピールすることはお墓をアピールするようなことになる。

しかし、すでに名刺交換から営業の火ぶたは切って落とされているのだ。目の前の見込み客から不安感を拭い去り、気に入ってもらうしかない。気に入ってもらうのは商材やサービスではない。まず販売員個人なのだ。その後に商材、サービスがくるにしても、初日の販売員のアプローチが見込み客開拓の入り口となるのだ。

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