「ものづくり白書」が示した、年度別 日本製造業の進むべき道

いま世界の製造業の変革が進み、日本の製造業も少子化や国内市場の縮小などで経営環境が大きく変化している。

2019年度の「ものづくり白書」では日本の製造業の行うべき取り組みとして、ニーズ特化型のサービス提供や重要部素材への注力、製造IoT・AIスキル人材の確保と組織づくり技能のデジタル化と省力化の推進による競争力の強化が示された。

ものづくり白書は、もとは「製造基盤白書」と言い、2001年の第1号以来、これまでに18年にわたって毎年、日本の製造業を調査・分析して発行されてきた。これまで日本の製造業の指針としてどのような方向性を示してきたのか。それを振り返る。

 

2010年度(平成21年度) 高度な供給維持

新興国市場ニーズを掴む

■市況と課題
先進国市場の成熟化に対し、新興国が生産拠点から市場としての存在感を増す。中間財では、韓国、中国が競争力をつけ、日本の優位性が脅かされつつある。新市場の需要を獲得し、同時に高度な部材・製品の供給基地として維持強化できるように事業戦略の再構築が必要。

新興国市場に対し、日本企業は製品開発、応用設計等の現地化を進め、調達や販売網の活用等、現地企業との連携も含め、市場ニーズに応じた価値と価格の製品を供給する体制を構築していくことが重要。

高度な部材・製品の供給基地たるためには、立地競争力と技術流出防止やすり合わせ力等の国内拠点の強みの発揮、サービス等を含めて収益源の幅を広げる取り組み、価格競争に陥らないよう製品価値の訴求力を高める等の工夫が必要。

■雇用と人材
価格下落と品質競争、ニーズ多様化が進展。管理・監督担当者、多能工、技術的技能者、高度熟練技能者のいずれも不足感。企業が技能者に求めている知識・技能としては、個別領域における熟練技能だけでは十分ではなく、生産工程を合理化する知識・技能等の生産ライン全体の管理的能力に対するニーズが重視される。

 

2011年度(平成22年度) 大震災を教訓に

サプライチェーンの強化

■市況と課題
円高の進行、経済連携協定の整備の遅れなど、事業環境は厳しい。レアアースの入手困難等、資源環境制約も強まり、日本の国際競争力は低下。

東日本大震災は、東北・関東地方の製造業に甚大な被害。また、部素材供給の途絶が、国内外のサプライチェーンに広く影響。原子力発電所事故によって、電力制約が顕在化するとともに、「高品質」「安全性」といった日本ブランドにも揺らぎ。事業環境は一層の悪化。

これに対し、攻めの投資と雇用を通じて、国内ものづくり基盤を維持・強化していくことが重要。収益につなげるため、積極的な海外投資等によるグローバル市場の獲得震災の教訓を踏まえ、グローバル市場における競争力を担保するために、効率性とリスク対応力を兼ね備えた強靱なサプライチェーンの構築が必要。

■雇用と人材
中小企業は新卒採用を中心とする割合が大企業に比べて低く、中途採用中心とする割合が高い。中小企業は大企業に比べて、若年技能正社員の育成・能力開発におけるマニュアル、計画の整備が弱い。「研修などのOFF-JT」や「自己啓発活動に対する支援」という現場を離れた取り組みも弱い。

 

2012年度(平成23年度) ものづくりデジタル化

「マザー機能」担い世界へ

■課題と展望
CAD/CAM、NC制御等の普及により、ものづくりのデジタル化が進み、新興国でも高性能な生産設備を導入で一定の品質でのものづくりが容易に。すり合わせが不要な製品設計(モジュール化)が広がり、製造・組立工程の付加価値が低下。欧米メーカーは、製品(および製品に付帯するサービス)の企画・開発に特化し、製造工程以外から付加価値を獲得する動きが顕在化。アジア新興国では、大量・低コスト生産に特化することで急速に成長。

日本は新たなものづくり戦略が必要。新興国の消費者向けに低価格で製品を提供する必要性が増加。国際分業が加速した結果、国内投資や国内雇用に負の影響も。国際分業における日本の役割は、海外市場から情報を吸い上げ・再解釈し、現場力によって付加価値を高め、世界へ展開する『マザー機能』を担うこと。

一方で、正社員雇用の減少の減少やASEAN・中国の人材の成長等で日本の現場力の優位性には危うい兆しも見られる。今後は、海外への現場力の移植や、現地ニーズの吸い上げを担うことのできるグローバル人材を育成することが重要。

■雇用と人材
ものづくり現場における中核人材が不足。製造現場のリーダーとして監督業務や部下の指導を行うことや、複数の機械・工程を担当できること、品質管理や生産ラインの合理化・改善の能力を持つ人が求められるが、採用はうまく進んでいない。

 

2013年度(平成24年度) 変革の必要認識

高コスト構造・規制見直し

■市況と課題
80年代に「ジャパン・アズ・ナンバー1」と言われて抜群の競争力で世界を制したが、現在では輸出力が低下。

日本は技術力や産業集積は優れるが立地環境等が劣る。高コスト構造の是正や規制等の見直しを通じて、企業が世界で一番活躍しやすい国を目指すことが必要。また企業が自らの競争力を発揮する「ビジネスモデルの変革」が必要。外部資源を積極的に活用するようなビジネスモデルへの転換や、世界と競争できる事業規模を確保するため、再編等を通じた”グローバルメジャー”企業を目指すべき。また非効率な経営資源を有効活用し競争力を高める「新陳代謝の促進」が必要。

■雇用と人材
「全員参加型社会」の構築と労働生産性を高める能力開発の効果的な実施が不可欠。女性の就業、高年齢技能者の技能向上、非正規雇用の教育訓練などが重要。

 

2014年度(平成25年度) 世界展開が加速

輸出力強化・インフラ整備

■市況と課題
日本製造業の競争力強化に向け、①国内生産基盤・輸出力の強化と海外で稼ぐためのインフラ整備が必要。輸出を支える国内生産基盤を維持・強化するための国内生産拠点の高度化や新市場の創出、立地競争力の強化が必須。また新たな輸出の担い手として、セットメーカーと大企業だけでなく、裾野広く輸出で稼いでいくことが必要。さらに、海外展開の加速に伴う富を確実に確保し国内への環流させるために、官民一体でさまざまな障壁を取り除いていくことが必要。

事業環境が変化する中での「稼ぐ力」も向上しなければならない。3Dプリンタなどデジタルものづくりやモジュール化の進展に伴ってモノの作り方やサプライチェーン構造が大きく変化することが必要。

それに伴って人材も、生産技術、市場戦略を含めたイノベーション人材、機械と人の適切なすみ分けを踏まえた現場の技能工、海外展開、M&A対応など企業価値向上につなげていくマネジメント人材(高度人材)の育成と確保が必要。

■雇用と人材
成長戦略の下、雇用・所得の拡大による経済の「好循環」を実現するためには、企業と労働者の双方の構造変化が必要。企業は成長分野に進出、労働者も能力開発で新たな能力を獲得し、人材力を強化していくことが重要。

 

2015年度(平成26年度) 海外で稼ぐ形へ

インダストリー4.0に対応

■市況と課題
アベノミクスの効果が現れるなかで着実に上向いてきた。ものづくり産業を中心に企業収益の改善が見られ、さらには賃金引き上げの動きが広がるなど、「経済の好循環」に向け前進を続けている。輸出で稼ぐ構造から、海外で稼ぐ構造へと着実に変化。国内拠点の役割を見極め、国内・海外でそれぞれ稼ぐ分野を明確化しつつ、国内の製造業の基盤としてさまざまな担い手を育成していくことが課題。

またIoTの進展により、ものづくり産業も大きな変革を遂げている中、製造業の新たなビジネスモデルへの対応は重要な課題。インダストリー4.0等の各国の動きも見据えて日本のものづくり産業の今後の方向性を検討することが必要。

■雇用と人材
国内の従業者数や若者の入職者数は減少傾向。熟練技能が企業の強みとなっているが、技能者が一人前になるには、5年~10年かかり、熟練した技能を持つ技能者を育成するにはさらに長い年数が必要。育成を行う時間、若年労働者の人材確保、指導人材の不足等の課題を抱えている。

 

2016年度(平成27年度) 時代は「モノ+α」

「コト売り」への取り組み

■市況と課題
第4次産業革命は、ものづくりの生産現場にプロセス改革を起こすのみならず、ビジネスモデル自身の変革を起こしつつある。一方、第4次産業革命への具体的な対応は、企業規模の小さい企業で、また、ビジネスモデルの変革を伴う分野で、相対的に遅れている。

付加価値が「もの」そのものから、「サービス」「ソリューション」へと移る中、単に「もの」を作るだけでは生き残れない時代に入った。海外企業がビジネスモデルの変革にしのぎを削る中、日本企業の取り組みは十分とはいえない。ただ、製品ライフサイクル短期化等の変化に応じ、自らの強みを生かしオープンイノベーションやベンチャー企業との連携、人材の多様化等を進めようとする企業は増えつつある。

行動を起こした企業とそうでない企業の経営力・業績には明らかな差が見られる。ものづくり企業には、市場変化に応じていち早く経営革新を進め、ものづくりを通じて価値づくりを進める「ものづくり+企業」となることが期待される。

■雇用と人材
労働生産性の向上に効果がある取り組みとしてIT化があげられる一方、IT分野の人材不足が指摘されており、IT人材の育成の加速化に向けた取り組みが必要。またものづくり産業のさらなる活性化のため、女性の活躍促進に向けた取り組みが大切。

 

2017年度(平成28年度) 人材確保が難航

ロボット・ITなど積極活用

■市況と課題
円高等を背景に、わが国製造業の足元の業績は足踏み状態だが、今後は明るい見通しを持つ企業が比較的多い。

現場力の維持・向上の観点から、技能人材等の確保が課題として顕在化。現在は定年延長等の取り組みが中心だが、今後はロボットやIT等の積極活用にその重点を移す意向。また現場のデータ収集・活用への意識は相当程度高まりが見られるが、具体的なソリューション等への活用にまでは至っていない。コネクテッドインダストリーズの構築に向けて官民あげての取り組みを推進していく。

■雇用と人材
中小企業の事業所数、従業者数ともに減少傾向。若手の人材が難しく、今後も一層の厳しさが継続。今後の技術革新が激しくなる中で、中小企業でも生産技術職の確保、育成が課題になってくる。

 

2018年度(平成29年度) 足りない危機感

データ利活用、経営主導で

■市況と課題
経営者が持つべき危機感4つ。①人材の量的不足に加え質的な抜本変化に対応できていないおそれ、②従来「強み」と考えてきたものが、変革の足かせになるおそれ、③経済社会のデジタル化等の大変革期を経営者が認識できていないおそれ、④非連続的な変革が必要であることを認識できていないおそれ

日本製造業が直面する主要課題の1つ目は「強い現場力の維持・向上(人手不足、品質管理)」。人手不足が課題としてさらに顕在化。特にデジタル人材の確保は質・量両面から課題感が大きく、IT・デジタル部門の経営参画度合いも不十分。主要課題2つ目が「付加価値の創出・最大化」。付加価値の源泉となるデータの利活用が現場マターから経営マターに移った一方で、実際の利活用状況に本格的な変化は起きていない。経営主導による具体的行動が重要となる。

これらに対して経営層の主導力・実行力不足が最大の問題。経営主導で現場力の強化とコネクテッドインダストリーズの推進を図る。

■雇用と人材
人材育成の取り組みの成果が、あがっている企業とそうでない企業がほぼ二分化。あがっている企業は、中長期的な視野を持ち計画的・段階的に人材育成を進めている、現場の課題について解決策を検討させる、個々の従業員の教育訓練の計画の作成する、身につけるべき知識や技能を示す、研修などのOFF-JTの実施、資格や技能検定等の取得奨励、技能伝承のための仕組み整備といった取り組みを行っている。

オートメーション新聞は、1976年の発行開始以来、45年超にわたって製造業界で働く人々を応援してきたものづくり業界専門メディアです。工場や製造現場、生産設備におけるFAや自動化、ロボットや制御技術・製品のトピックスを中心に、IoTやスマートファクトリー、製造業DX等に関する情報を発信しています。新聞とPDF電子版は月3回の発行、WEBとTwitterは随時更新しています。

購読料は、法人企業向けは年間3万円(税抜)、個人向けは年間6000円(税抜)。個人プランの場合、月額500円で定期的に業界の情報を手に入れることができます。ぜひご検討ください。

オートメーション新聞/ものづくり.jp Twitterでは、最新ニュースのほか、展示会レポートや日々の取材こぼれ話などをお届けしています
>FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

オートメーション新聞は、45年以上の歴史を持つ製造業・ものづくり業界の専門メディアです。製造業DXやデジタル化、FA・自動化、スマートファクトリーに向けた動きなど、製造業各社と市場の動きをお伝えします。年間購読は、個人向けプラン6600円、法人向けプラン3万3000円

CTR IMG