特集 ディップスイッチ デジタル機器の増加が追い風

ディップスイッチは、プリント基板上の狭いスペース内に取り付けられることが多いため、機器の小型化と並行する形で形状が年々軽薄短小化する方向にある。限られたプリント基板のスペースに、ほかの電子部品と一緒に高密度実装化を図る上で、形状は機種選定上の大きなポイントとなる。

スライド型が70%占める

操作部の形状によってスライド型、ピアノ型、ロータリー型、レバー型、押しボタン型など多種な方式が用途によって使い分けられている。一般的にスライド型が市場全体の70%前後と最も多く使われており、極数は8極と4極が多い。しかし、メーカーによっては小口ユーザーの要望に応えるため、ローコストタイプのスライド式ディップスイッチなどで、5極、7極など奇数極タイプをそろえているところもある。

搭載する機器によって操作頻度が極端に異なり、また機器を使用する場所によっても特性が変わる恐れがあることから、ディップスイッチメーカーはどんな使われ方をしても確実な切り替えができるように、各社が独自の接触方式で信頼性を高めている。

ディップスイッチメーカーの塩水噴霧試験では、周囲温度50℃で、塩水濃度5%の雰囲気中に48時間放置して行っている。この状態で、接点部に錆などによる接触不良が起きない品質が求められている。

これをクリアする方法の1つがセルフクリーニング機構で、操作時に接点部も同時にクリーニングすることで接触不良を解消している。さらに、微少電力用途などに対して、接触部が経年変化しない耐性処理が施されたものもある。

こうした方法は、プリント基板にはんだ付けして使うディップスイッチのフラックス除去時の洗浄液による接触不良の解消にもつながっている。同時にディップスイッチ表面にテープを張ってフラックスの浸入を防ぐといった手間も省けるようになった。

プリント基板上に半導体、コンデンサー、抵抗などといった、ほかの電子部品と一緒に混載されることから、国際標準格子間隔(2・54ミリ間隔、φ0・8~1・0ミリ取り付け孔)で設計され、自動はんだ実装機によって取り付けられることが多い。

しかしその後、ディップスイッチの小型化へさらに拍車をかけた技術がハーフピッチ(1・27ミリ)タイプの開発である。従来(1インチ)の半分のスペースを実現したディップスイッチの登場で、機器への実装密度は急速に高まったと言える。ピアノタイプや、押しボタン型、シーソ型などを新たに投入するメーカーが目立つ。

バリエーションが拡大

最近は、ハーフピッチ(1・27ミリ)も、スライドタイプに加え、ピアノタイプや押しボタンタイプなどバリエーションが拡大している。押しボタンタイプは、上から押すだけで操作できることから、奥まった狭いところにも取り付けできるのが特徴で、スペース効率がさらに向上する。シーソ型では、操作性を良くするために、表面に溝とストッパーをつけることで、確実な切り替えを実現した機種も開発されている。

機器全体の小型化傾向から、ディップスイッチの取り付けスペースも制約を受けることが多く、小型化が著しい。ハーフピッチサイズの端子を採用したディップスイッチの需要も拡大しており、ディップスイッチの主流になって来ている。薄型化も著しく、ハーフピッチで高さ1・45ミリ、体積比でも従来比約半分とさらに高密度実装が可能になる製品も開発されている。こうした薄型タイプでは、本体の溶着方法もレーザーなどを使った新しいやり方を採用している。

ディップスイッチがD(デュアル)でON―OFFの切り替えで使用するのに対して、ディップスイッチの片側部分のみで、1極がコモン端子を持つ形状のSIPスイッチは、スペースが2分の1になる。当然のことながら、その分の実装スペース性が向上し、機器の小型・軽量化につながる。こうしたディップスイッチの小型化を支えている成形材料の改良、実装技術の進歩なども見逃せない。

市場の約70%で使用されていスライドタイプであるが、ハーフピッチサイズは30%前後と推定され、まだ70%は1インチタイプが主流として使われているようだ。

さらには、環境有害物質を使わないこととの両立も重要で、例えば、ディップスイッチを基板に実装する際に、従来は接続の信頼性に優れる鉛入りはんだを使っていたが、リサイクル面も含めた環境への配慮から、鉛が入っていなくても、同等以上の信頼性を確保できるはんだ技術を確立している。ディップスイッチ本体材質も熱可塑性樹脂を採用するなどして、はんだからの耐熱対策をとっている。

特に、リフローはんだ付けにおいては、はんだ温度の260℃まで耐える必要があり、これに対応できる製品にするためには、素材の樹脂を変更することが求められ、金型の改良も必要になる。

環境に配慮した製品

また、RoHS指令でも環境への有害物質として規制の動きがある、難燃剤であるハロゲンの使用を低く抑えて環境に配慮した製品も登場している。低ハロゲン使用のディップスイッチは、カバー及びケースに700~800ppmの塩素を使用しているが、ノブには臭素を不使用となっている。

環境負荷の低減とコストダウン設計という課題解決に向けて、端子部をスズメッキ仕様にすることで、金メッキ仕様に比べコストを下げた製品も発売されている。RoHS指令では鉛フリーの観点からはんだの付きやすい金メッキを採用しているが、スズメッキ使用でも一定の性能が確保できるとしており、今後の動向が注目される。

スライドタイプのディップスイッチに対して、ディップロータリースイッチも需要が増えている。正角形状のスイッチに、時計の文字盤のように数字、および記号が記名され、回路に合わせてつまみで設定する。実装方向を操作によって、上からや横からなどが選べる。コードの設定が多様に行えるのも特徴である。

端子ピンの構造では、従来主流であった4×1端子から、欧州で増えている3×3端子を採用するメーカーが目立つ。端子ピンの構造は、一般的にシェアの高いディップスイッチメーカーの製品をベースにして、製品設計を行うユーザーが多いといわれている。

複合タイプで省スペース

抵抗やダイオードなどを内蔵した複合タイプのディップスイッチも発売されている。後付けで抵抗やダイオードを取り付ける必要がないため、基板の省スペース化と作業工数の削減につながる。

グローバル市場での競争が激しくなっているディップスイッチであるが、メカニカル構造による確実な操作ができることから、高い信頼により安定した推移が期待されている。デジタル化時代を象徴するスイッチとして今後の動向が注目される。

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