【FAトップインタビュー】三菱電機、10年ぶりのコントローラ新製品 統合コントローラ「MELSECMXシリーズ」多軸・高速・同期制御で、ワンランク上のモーション実現

写真左から岡部氏、上野氏、中森氏

三菱電機は、コントローラとしては約10年ぶりの新製品となる統合コントローラ「MELSECMXシリーズ」を発売した。

MXシリーズの「MX」は「製造業の変革(Manufacturing Transformation)」の意味が込められ、これから加速していく製造業DXの基盤を作り、支えていくための主力のコントローラ。統合コントローラの名の通り、それぞれ独立して存在していたシーケンス制御とモーション制御、ネットワーク機能をソフトウェアとして1つのMPUに集約し、1台のハードウェアに統合。さらにモーション制御の基本性能を大幅に向上したことで、高速化、多軸化が進んで複雑化している製造装置、産業機械をもう一段階上のレベルへと引き上げ、新たな価値を創造するモーションコントローラとして注目を集めている。

そんな全く新しいコンセプトの統合コントローラMXシリーズについて、三菱電機名古屋製作所FAシステム第一部FA基本ソフトウェア開発課長の上野友義氏、営業部産業機課課長の岡部嗣氏、コントローラ課主任の中森宏樹氏に話を聞いた。

新コンセプトで装置の価値を高める新型コントローラ

――コントローラとしては10年ぶりの新製品です

製品名「MELSEC MXコントローラ」のMXは「Manufacturing Transformation(マニュファクチャリング トランスフォーメーション」の頭文字から取っており、10年ぶりの新コントローラで製造業を変革していきたいという思いが込められています。既存のシーケンサやモーションコントローラを置き換えるものではなく、新しいコンセプトのもと、新たな領域を開拓していくコントローラという位置付けとなっています。

――新たなコンセプトとは?

MXコントローラは「①装置価値の向上」「②エンジニアリングコスト削減」「③DXの推進」の3つをコンセプトに掲げて開発しました。①装置価値の向上では、モーション性能や処理性能を高めることで、お客様の装置そのものの価値を向上させることを、②エンジニアリングコスト削減では、お客様の開発・設計から保守に至るまで、エンジニアリングの全工程を効率化してトータルコストの削減を、③DXの推進では、データの蓄積、通信、可視化はもちろん、シミュレーションツールとの連携等を強化し、デジタル空間で現場を忠実に再現し、お客様のデータ利活用の実現を、それぞれ目指しています。

シーケンサ、モーション、ネットワーク機能を1つに統合

モーション制御の基本性能の向上について、これまで当社ではシーケンサCPUにモーションコントロールユニットを組み合わせてモーション制御を行っていましたが、1つのハードウェアのなかで動かした方が効率は良いだろうということで、MXコントローラではシーケンサ、モーション、ネットワークのそれぞれの機能をマルチコアMPUに搭載し、1つのハードウェアに3つの機能を統合しました。これにより従来に比べて周期(サイクルタイム)を最大6倍まで高速化することができ、より高速、高精度のモーション制御が可能になりました。個別の演算性能であれば、10倍や20倍の性能も出すことができます。

従来のシーケンサとモーションコントロールユニットの組み合わせの場合、ハードウェアが別々なので、それぞれのユニットでデータを持ち、それを処理して通信する必要があるので、これ以上の高速化・高精度化には物理的な制約もあって限界がありました。

それに対しMXコントローラでは、ワンチップ化してソフトウェアも最適化したことで処理や通信が最小限で済むようになり、モーション制御性能が飛躍的に向上しました。喩えるなら、複数人が会話をしながら進めていた作業を、1人の優秀な人が頭のなかで完結できるようにしたようなもので、情報の伝達ロスがなくなり、圧倒的なスピードで処理できるようになりました。

エンジニアリングコストの削減については、シーケンス制御とモーション制御を1つのツールでプログラミングができる統合開発環境を提供して設計業務を効率化できるようになっています。

また今後、AIを活用したデバッグ支援機能を搭載する計画があり、AIがプログラム上からは読み取れない隠れた因果関係を提示できるようにする予定です。これにより、例えばトラブルで装置が停止してマニュアル通りの手順で確認しても原因がわからない時も、「外部のこの入力があった後に、このデバイスがONになる」といった、見ただけではわからない関係性を可視化し、これまで技術者の経験と勘に頼っていたトラブルシューティングの時間を大幅に短縮できるようになります。

堅牢なセキュリティ 世界で初めてPLCとしてIEC 62443-4-2認証取得

DXの推進については、当社は3Dシミュレータやロジックシミュレータなど各種シミュレータをはじめ、現場データを見える化するツールや動画を見るツール、ロギングしたデータを見るツールなど各種ツールを提供しており、それぞれのツール同士を連携させて設計のフロントローディングが進められるよう対応しています。

またDXでデータ活用が進むにつれて、サイバー攻撃によるリスクも高まっています。この点を重視してセキュリティ対策も徹底しており、MXシリーズはPLCとして日本で初(アジアで初)めて、セキュリティの国際規格であるIEC 62443-4-2の認証を取得済みです。製品そのものの堅牢性だけでなく、開発プロセス全体(IEC 62443-4-1)においても認証を受けていることを意味し、これによりお客様は安心してデータを活用し、DXを推進することができます。

CC-Link IE TSNを活かし、1台で異なる周期の軸も制御可能

――従来技術や他者の製品との違い、差別化のポイントは?

当社が採用している産業用ネットワーク「CC-Link IE TSN」の特長を最大限に活かした「周期混在機能」が、他にはない大きなアドバンテージだと自負しています。

多軸のシステムでは、非常に高速な制御が求められる軸と、比較的ゆっくりとした動きでよい軸が混在するケースがよくあります。従来のネットワークでは、システム全体の制御周期は、接続された全ての機器が通信を終えるまでの一巡する時間で決まるため、軸数が多くなると制御周期は長くなる傾向にあります。そのため高速な軸のためだけに別にコントローラを追加することは珍しくありません。

それに対しCC-Link IE TSNは、ネットワークに接続された各機器が正確な時刻を同期しており、MXコントローラではこれを利用し、1台のコントローラ内で軸ごとに異なる制御周期を設定できるようになっています。例えば、全体では256軸を制御しながら、そのうちの10軸だけを他の軸より4倍速い周期で制御する、といった芸当ができます。これによりコントローラを分けることなく、1台のコントローラで装置全体のパフォーマンスを最大限に引き出すことができ、装置の省スペース化やコストダウンにもつながります。

多軸、高速、同期制御を求める高いレベルの装置・機械に最適

――どんな用途や装置に最適と考えていますか

MXコントローラは、最大256軸を制御できるハイエンドの「MX-Rモデル」と、コストパフォーマンスに優れた「MX-Fモデル」の2種類があり、最も強みを発揮するのは「多軸」「高速」「同期」といったキーワードが求められるモーション制御の領域です。

例えば、多数のサーボモータを精密に同期させなければならないリチウムイオン電池や半導体の製造装置、多軸が使われるサニタリー用品やタイヤ製造装置などは、特にMX-Rモデルの主なターゲットとなります。そこまでの高速性は求めない、軸が多くない装置、例えば食品・包装機械、印刷機、電子機器組立機などは、MX-Fモデルのターゲットになると考えています。いずれも従来よりも高速で高精度な制御を提供することで装置の価値向上に貢献していきます。

――高機能版モーションコントローラのようなイメージで、どこにでも使えそうです

確かに、MXコントローラはとても高性能で、シーケンス制御もモーション制御もでき、高度なセキュリティとIoT機能もあってゲートウェイとしても使えます。しかし、すべての装置のシーケンサやモーションコントローラをこれに置き換えるという考えはありません。ここまでの高速・高精度のモーション制御は不要、あるいは軸数が少なく、小規模な制御で十分というお客様にとっては、既存のシーケンサの方がコストメリットは大きく、すべての装置にMXコントローラが必要なわけではないのです。

当社はお客様が実現したい装置の規模や性能に合わせて、シーケンサやIPC、この新しいMXコントローラという豊富なポートフォリオの中から最適なソリューションを提案していくというスタンスです。全てを一つに塗り替えるのではなく、適材適所で使い分けることが重要だと考えています。

発売後の評価は上々 機能拡充を進める

――発売後の評価と今後について

お客様に色々とお試しいただくなかで、速度が速くなったという声は最も多くいただいています。処理性能が上がっていること、多軸制御をやる時にいくつもモーションコントローラを並べずに1つで済むという点も高く評価いただき、いまは基本性能の高さの部分が受けている印象です。

エンジニアリングコストの削減とかDX推進については、これからです。試作で使っているお客様が多いので、実際に製造現場に入っていくことになった時に、これらメリットを感じてもらえる場面になっていくのかなと思っています。ただ、セキュリティのIEC 62443-4-1とIEC 62443-4-2の認証を取得済みという点は歓迎されていて、これを理由に声をかけてもらえるケースは増えています。

これまでの製品開発はハードウェアに機能を作り込むことが主流でしたが、MXシリーズではソフトウェアベースで機能を実現する方針に転換し、汎用性の高いマルチコアのMPUの上でシーケンサ、モーション、IoTといった機能をソフトウェアとして実装しています。これにより世の中の新しい技術やプロトコルを迅速に取り込むことが可能となっています。

今は発売したばかりのスタート地点。今後も継続して機能を拡充し、お客様の装置の価値向上と、設計から保守までのトータルコスト削減に貢献していきたいと考えています。

https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/topics/2025/02_mxc/index.html

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