販売員は、得てして「コミュニケーション力」を気に留めていないが、それは決してないがしろにはできない営業スキルである。特に令和期には重要な営業スキルになる。
FA販売店営業が扱う制御商品は人手不足の折には必要になるため、制御マーケットは安定してゆるやかな成長をするだろう。販売店営業に大きな影響を与えるFA機器メーカーが成長の先に見ているのは夢の無人工場である。その夢に向かって作る商品は、自在に動くロボット系の製品であり、それらを制御して生産性を上げるITオートメーションシステム製品である。
販売店営業がそれらの製品を売るには、それにふさわしい営業力と技術力が必要になる。人材や資金の面から大手販売店営業にはチャレンジができても、一般の販売店営業にはハードルが高い。それでも夢の無人工場に近づくまでには紆余曲折がある。その経緯の中で様々なマーケットが生まれる。現状の顧客からの需要は安定しているとは言え、製造業のグローバル化によって国内での生産設備の増設はあまり期待しない方がいい。新しく生まれる新規客や新規の部門へアタックしなければ、販売店営業の成長は望めない。その折に欠かせないのが「コミュニケーション力」なのである。
新規開拓客は現状の顧客とは勝手が違うし、緊張感がまるで違うため、彼らへのアプローチの成否は「コミュニケーション力」が大いに関係する。
FAマーケットの成長期、FA営業の間に「機械にできる事は機械に任せ、人はより創造的分野で活動すべきである」と言うスローガンがあった。そのようなスローガンを背景に持ってFA営業は自動化への貢献活動をしてきた。今では人が機械に置き換わっているが、設備費対付加価値や技術的な面でまだまだ工場で働く人は多い。そのような事情を抱えて、グローバル競争や人手不足に耐えながら、毎期毎期の生産コスト低減に取り組んでいるのが販売店営業の顧客である。
販売店営業は商人であるから、機械を作るわけではないが、創造的な分野で活動はできる。それには顕在している需要を追って拡販活動するだけでなく、製造現場が潜在的に抱えている課題を見つけ、工夫と言う後押しをすることである。それには「工夫」をコミュニケーションのテーマにすれば良いのだが、工場で働く人の動きや役割に興味がなければ無理である。興味を持てば聞いてみたくなるものだ。その結果、技術に詳しくない販売員にも見えてくるものがある。
例えば、「ある人数で100個作っている生産ラインがあり、同じ人数で120個作らなければならなくなったらどうするか」と言う潜在的課題を見つけたとする。販売員は出来合いの機械や機器、あるいは産業用ロボットを課題にして話題にして話を進めるのではなく、数量を上げるために人の作業をアシストする治具などを話題にしてみると工夫につながることもある。あるいは、デジタル化を勧めて、工数削減をやってみてはどうかと言う話題を出し、コミュニケーションを深めていけば、何かできることが見つかるかもしれない。
いずれにしても機械設備ありきで合理化をすると言うことではないので、生産技術系の部門が発案する件名にはなり難い。そのような潜在的課題を持っているのは、設備技術を持っていない製造ライン長クラスの管理者である。製造ライン長は販売店営業の訪問を受けたとしても、彼には販売店営業が電気部品や機器を売りに来た人にしか見えない。しかし製造ライン長には単なるセールスマンではなく、ビジネスの話ができる営業と言う印象を持ってもらわなければならない。会った当初から分かったような工夫の話はできないが、営業が経験してきた工場のあれこれの情報を、どのように盛り込んでコミュニケーションするかがカギとなる。いずれにしてもビジネス情報として伝わるかどうかである。