令和の販売員心得 黒川想介 (38)

2021年1月20日

通販系に有利なリモート営業
訪問型には不利な戦場なのか

機器部品を商う販売店は中小規模店が多い。数年前に、労働人口が思った以上に減少していることを背景にして、政府は一億総活躍社会の実現に向けた働き方改革を推奨した。大手や中堅企業は残業自粛、有給休暇取得、副業認知などを積極的に実施した。政府が働き方改革の笛を吹いても、大半の販売店は踊らなかった。ひとごとのように聞いていた節もある。

昨年末の新型感染症の流行によって、図らずも働き方改革をひとごとから自分のこととして取り組む販売店が増えた。新政権がデジタル改革を大きく取り上げ、さらに新型感染症対策として人との接触をできるだけ避けるという指導が、販売店の在宅勤務やデジタル化を後押ししたからだ。それに顧客から販売員訪問自粛を要請され、急にリモート営業なる言葉がこの業界でもささやかれ出したことも大きかった。

 

ところで、販売員が顧客にしばらくは訪問をしないでくれと言われたらどのような行動をするのかと若手販売員に聞いた。「電話やメールを待って素早く行動する」「電話やメールで何か課題や用件はないかを聞く」「新商品などのカタログや情報紙を送って様子をみる」などの返答だった。

販売員の一日は、納期、見積もり、商品に関する依頼事項等々の目鼻がついてから顧客訪問へ出動する。訪問しておおむね顧客の仕事状況の確認や、今後のテーマや課題はないかといった情報収集をする。その他に売り込む商品があれば商品紹介して様子を探ることが大体の訪問活動である。
 
昨年来、不要不急、接触自粛と言われて顧客への訪問活動ができない時期があった。顧客へ訪問しなければ売り上げは落ち込むのではと心配したが、それほど大きな売り上げ減少はなかった。それに顧客も特別な用件がなければ販売員と顔を合わせなくても十分にことは足りることを経験した。つまり機器部品の性質上、訪問活動しなくとも極端に売り上げ減少のない環境ができていることがあらためて分かった。今後デジタル装備の充実によって販売員と直接顔を合わせなくなる傾向は定着するだろう。

 

そうなると顧客と販売店の関係は、従来通りの安泰の関係が続くとは限らなくなる。そのようなことを察してか、メーカー営業は顧客と直接ウェブ上での営業活動を試行している。彼らにその時の様子を聞いてみた。信頼関係の弱い相手でも商品紹介や質疑の応酬はスムーズだが、話が途切れると会話をつなぐ「間」の取り方がぎこちなくなり、攻め込む隙が見つけられずに終わってしまうという感想だった。やはり信頼関係のない相手にはよほどの商品がない限り、リモート営業で攻め込むのは難しい。

令和に成長を望むなら、やはり顧客を増やすことや顧客からにじみ出す市場へチャレンジする必要がある。それをリモートでやるのは今の営業手法では難しいということになる。それにリモート営業という点では、通販系販売店が先行しているから一日の長がある。そうなったら訪問型販売店は不利な立場に追い込まれる。

孫子の兵法書には迂直(うちょく)の計というのがある。不利な戦場を捨て、策略を持って自軍に有利な戦場へ相手を誘い込むのがこの計だ。ここぞという時に不利なオンライン戦場を回避して訪問営業に誘えばいいことだが、考え方は簡単でも実行は難しい。

設備の高度化が進んだ平成では、知識重視営業となり商品売り込みの時でもスマートに商品を紹介するという形を取ってきた。これではリモート営業に代替される。昭和のように買ってくださいという強い気持ちで売り込めば、反論にあった時、相手の隙を見つけようとして必死になる。必死のもがきが売るための知識でなく知恵をつけるのだ。長いこと売り込みをやって売る知恵が身につけば、顧客の方から販売員の方に寄ってくる。つまり有利な戦場で戦えるのだ。