【提言】〜【中小製造業IoTの1丁目1番地】 情報の5S化〜【高木俊郎】日本の製造業再起動に向けて(23)

 

 

UKブレグジットや米大統領選挙など大番狂わせの結果から、世界的にグローバル経済の行き詰まりが顕在化してきた。グローバル大企業は進路変更を余儀なくされ、中小製造業にも大きな変化が起きてくるであろう。そのため変化への対応が早急に必要である。

この手段として、第4次産業革命イノベーションの重要性を多くの経営者が認識しており、世間での話題も非常に活発になってきたが、思いのほか、中小製造業経営者には『雲の上の話』として映っているようである。『雲の上の話』と映る原因は何か? を探求し、デジタル化・IoTの1丁目1番地というべき『情報の5S化』の重要性にスポットライトを当ててみたい。
数年前に、独インダストリー4.0によって幕が開いた『ものづくり第4次産業革命』は、今年になって日本でも本格化の兆しが見えてきた。
今年10月に独ハノーバーで『国際板金加工技術見本市(ユーロブレッヒ)』が開催され、翌月11月には『FABTEC2016』が米ラスベガスで開催。日本でも東京で『日本国際工作機械見本市(JIMTOF)』が開催された。
今年の見本市での顕著なトレンドは、明らかに『工作機械メーカーのIoT』である。独ハノーバーでのユーロブレッヒでは、多くの工作機械メーカーによって、独自のIoTコンセプトが発表され、魅力的なコンセプトが提案された。ドイツの主力メーカーは、大画面を活用し、分かりやすくインパクトある訴求で話題を集めたが、中小製造業の経営者の反応は比較的鈍重である。ユーロブレッヒから帰った日本の中小製造業経営者は口をそろえ、インダストリー4.0の進化を評価する半面、『自分では使えないだろう』とのマイナーな評価を下している。
ドイツは、インダストリー4.0のスタート時点から産学官が一枚岩となり大上段に構え、アピールをしてきた。そのアピールは、世界に大きな衝撃を与え、世界中の政財界をも動かしてきた。構想発表から5年を経過し、日本の政界の動きも活発となってきた。
今年の『ものづくり補助金』には『中小企業者等が第4次産業革命に向けて、IoT・ビッグデータ・AI・ロボットを活用する革新的ものづくり・商業・サービス開発を支援する』と明記されており、これが採択の条件となっていることが伺える。
中小製造業においても、これらの前向きな環境を先取りし、現実的な取り組みを開始することが得策であるが、残念なことに、IoTとは何か? IoTの投資で何がメリットなのか? が分からず、悩んでいる経営者が大半である。世間が大きく取り上げるIoTは、中小製造業経営者にとっては『雲の上の話』である。
その理由のひとつに、レガシー(Legacy)に対する意識の違いがある。レガシーとは、直訳すれば『遺産』のことであるが、現在工場内に存在する電子デバイスや各種データをレガシーと呼ぶ。中小製造業では、NC機の導入に合わせ、思った以上に工場事務所のデジタル化が進んでいる。CADシステムや自動プロ、見積もりソフトや工程管理・生産管理に始まり、図面スキャナーなど、数多くの電子武装を行った結果、膨大な電子データが工場事務所内に存在している。これが中小製造業を支える財産であり、こうしたレガシーを無視してIoTの構築は不可能である。
工作機械メーカー各社が提唱する『つながる工場』で、機械同士がネットワークされても、中小製造業でのメリットは少なく、やはり『雲の上の話』に聞こえてしまう。ドイツをはじめとするインダストリー4.0推進部隊は、さまざまな素晴らしい青写真を示しているが、中小製造業のレガシーに着目していない。正確に表現すれば、着目しないのではなく、着目できないのである。
レガシーは歴史の結晶であり、過去の古いシステムや閉鎖的な独自システムも存在し、レガシーシステムを解析し理解するのは難しい。中小製造業の一社一社ごとのレガシーを前提として、IoTシステムを構築するのは容易ではないため、第4次産業革命と称し、レガシーを無視する『破壊的イノベーション』の発想が主流となる。この現実が結果として、中小製造業の現状や思惑を無視した、絵空事となり『雲の上の話』になってしまう。
では中小製造業は、どのようなコンセプトを持ってIoTを推進すべきか。この答えが、IoTの1丁目1番地と言える『情報の5S化』である。
トヨタ自動車によって提唱され、全世界に広まった5Sは、日本の中小製造業では、非常に高い水準で実施されているが、いったん『情報』に目を転ずると、とても5S化されているとは言いがたい。事務所の片隅に昔の図面が山のように積まれ、提出済みの見積書は個人のパソコンに入りっぱなし。CADデータも自動プロのデータも、個人のパソコンの中でバラバラに管理されており、企業全体から見れば『情報のゴミ箱』と言っても過言ではない状況すら存在する。情報が社有化され、会社のシステムとして情報が管理されない限り、会社存続にも重要な危惧が生じる。
中小製造業のIoTへの道のりは、経営者自らが『情報の5S化』の重要性を認識し、自社の実態を正確に把握しなければならない。IoTの1丁目1番地『情報の5S化』。『情報の5S化』を念頭に置き、自社の工場事務所を自らが再点検することで、思わぬ『気づき』に出会うはずである。
この『気づき』から自社のIoTの青写真が描けるはずである。この青写真があれば、世間のバズワードに惑わされず、未来に向かう最適なソリューションを発見することができると確信する。

 

高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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