【人工知能】が中小企業を救う-メリット享受への準備と覚悟-【高木俊郎】日本の製造業再起動に向けて(18)

世界最大の見本市であるドイツ・ハノーバーメッセ2016が、4月29日に5日間の会期を終え閉幕した。25日の開幕式にオバマ大統領とメルケル首相が演説し、『両国がIoT/インダストリー4.0で積極的に連携する』と衝撃的な表明を行った。競争関係であった「独・米」が協調路線に発展したことで、様子見を決め込んでいた「日本大手製造業」も対応を余儀なくされている。

両首脳の表明の背景には、日本製造業の価値観や常識を大きく覆す時代の変化が潜んでいる。日本の大手製造会社は、今日まで『村文化』を育んできた。自分の企業村や組織村を築き、競合会社に負けない技術開発を行い、新機能を自社商品に搭載し優位に立つことが、戦略であった。このやり方で、日本企業同士が日本の国内市場で熾烈な戦いを演じ、世界に通用する優れた商品を作り上げてきた。自動車や電気メーカーを見れば一目瞭然である。「クローズド・イノベーション」と呼ばれる戦略概念である。

「クローズド・イノベーション」の対極は、「オープン・イノベーション」である。「オープン・イノベーション」がこれからの世界潮流であるとの独・米の共通認識があるからこそ、両国首脳の表明が行われたのである。

独・米両国による国際標準の連携は、「クローズド・イノベーション」から脱皮できない『日本の大手製造業』にとっては大きな脅威である。これからの世界は、国家レベルでの競争や、政府による自国企業保護が姿を消し、国境を超えた企業レベルのアライアンスが中核となるだろう。

第4次産業革命のイノベーションは、想像を絶する破壊力を持っている。日本の『村文化』とは、全く異なる競争概念が世界を支配する。「クローズド・イノベーション」にしがみついていたら、日本はますますガラパゴス化してしまう。『ガラパゴス継続か?』『世界に扉を開くのか?』審判の時が迫っており、長きにわたって大手製造業が築き上げた『ケイレツ』もその役割が問われている。

このような、国際潮流が中小製造業・町工場を直撃するのは、明白である。では、中小製造業・町工場は、『茹でガエル』にならない具体的対応策とはどのようなものであろうか?

日本中の津々浦々に存在する中小製造業・町工場は、QCD(品質・コスト・納期)の熾烈な競争が絶え間なく行われている。競争に勝ち抜くために、最新式の機械設備への投資を行い、熟練工を中心とする他社に負けないノウハウを磨き、一切の無駄を排除する血の出るような合理化努力を続けながら企業存続と事業進化を続けている。しかしこの数年、日本の中小製造業・町工場では、『2極化現象』が明確になっている。『2極化現象』とは、「仕事にあふれ忙しい企業群」と「仕事がなく暇な企業群」に完全に二分される現象で、『勝ち組』『負け組』と呼ばれる格差の拡大である。

『勝ち組』に共通するのは、デジタル化やオートメーション化の実現である。熟練工を大切にしつつ、デジタル化・オートメーション化を推進する『勝ち組』は、非常に高いQCDを実現しており、既に世界の頂点に達している。不運にして『負け組』となった企業も、デジタル化の推進により挽回のチャンスがある。更に、デジタル化・オートメーション化の実現企業にとって、「オープン・イノベーション」の世界潮流は、新たなる成長軌道への絶好のチャンスでもある。

インターネット・クラウド・IoT・人工知能など第4次産業革命を支える新技術を、『勝ち組』となったデジタル工場に付加されることで、インダストリー4.0を実現し、これが成長の大きな原動力となるのは明白である。その本丸は『人工知能』である。

人工知能に関しては社会的な話題になっているが、中小製造業の視点から見ると人工知能は救世主であり、人工知能なくして日本の中小製造業の未来を語ることは出来ない。少子高齢化・生産人口の減少は中小製造業に襲いかかる現実である。外国人労働者・移民の活用も考えられるが、高度な熟練工に依存する日本のモノづくりには現実的ではない。人工知能の活用による、中小製造業のメリットは甚大である。

中小製造業の育んだ熟練工のノウハウとは、『加工ノウハウ』だけではない。『機械を操作するノウハウ』や『段取りのノウハウ』、そして『機械を管理するノウハウ』など多岐にわたる。これらのノウハウ伝承に人工知能は最適な新技術である。また、加工可否のシミュレーションなども人工知能の得意ワザである。人工知能の基本技術は米国が圧倒的に進んでいるが、「オープン・イノベーション」の概念により、誰でも簡単にこれらの技術を活用できるのも大きなメリットである。

中小製造業が人工知能を活用する土壌は整っているが、これを導入するには準備と覚悟が必要である。人工知能活用には、(1)高速なサーチ機能と(2)大量なデータがポイントである。(1)は高速なPCや人工知能ソフトを購入すればよいが、(2)大量なデータは自らが用意しなければならない。工場内にあふれかえる紙の図面や作業指示書などアナログ情報を人工知能が理解できるデジタルデータに変えて保存蓄積する必要がある。このデジタル情報量が多ければ多いほど、人工知能活用のメリットが生じる。人工知能の活用に、今までの投資概念は通用しない。導入費用は非常に少ない半面、徹底したデジタル工場の構築が必要である。『勝ち組』が実践したデジタル化が、インダストリー4.0実現の布石である。

■高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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