開発進む協働・協調・自律ロボ 労災ゼロ目指して 作業者に依存しない環境を

労働災害が依然年間11万件以上起こっている。このうち製造業での労働災害は、約2割を占めている。事故防止に向けて、法的な規制や安全対策機器の普及などが進み減少傾向にはあるものの、まだゼロには至っていない。熟練作業者の減少、外国人や非正規労働者の増加などで労働災害が発生しやすい環境が生まれつつある中で、一層の作業安全に向けた取り組みが求められる。

国内における労働災害死傷者数(死亡・休業4日以上)は、厚生労働省の統計(速報)によると、2015年(1~12月)は11万3972人で、14年比2894人減少している。このうち死亡者は909人であった。

15年の製造業の労働災害死傷者数は、2万5428人で14年比947人減少している。このうち死亡者は151人で前年比22人減少し、年々減る傾向にある。

製造業の死傷事故の発生状況は、機械への「はさまれ・巻き込まれ」が約3分の1を占め、続いて「転倒」が約20%で、以下「墜落・転落」「切れ・こすれ」「飛来・落下」などの順となっている。また、死亡事故では「はさまれ・巻き込まれ」が47人と最も多く、以下「墜落・転落」「崩壊・倒壊」「激突され」などの順となっている。

安全対策機器の市場規模は、日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、13年度は前年度比9.9%増の271億円、14年度が同9.9%増の317億円と4年連続で過去最高額を更新している。国内が15.0%増の222億円となって5年連続で伸長し、海外も28.1%増の95億円となり、いずれも過去最高となっている。15年度は制御機器全体が前年同期比伸び悩む中で月ベース26億~30億円と堅調を維持しており、前年度比横ばいか若干のプラスが見込まれる。

製造業の作業環境は法的な安全規制が進められている中でその効果が徐々に見られるものの、依然事故は多い。最近はベテランの熟練作業者の減少が顕著なことに加え、外国人や非正規労働者の増加などが労働災害の発生しやすい環境を生み出している。事故を起こさない・起こらない作業環境作りを進めている中にあっても防げていない。そこで働く人の判断に依存しない、さらなる安全対策が求められている。

13年12月には安衛則のロボット使用時の柵囲いについて解釈が見直され、従来80W超の産業用ロボット使用時については柵囲いが義務付けられていたが、80Wであるかどうかに関係なく、リスクアセスメントを行って安全確保が確認できていれば柵囲いは不要ということになった。使用者にとっては安全対策が軽減できることになる。

安全柵なしでロボットと人が協働できる作業環境を確保するために、ロボットメーカーも協働ロボットあるいは協調ロボット、自律ロボットの開発に積極的に取り組んでいる。昨年12月、東京で開催された国際ロボット展では各メーカーから多数のこうした協働ロボットが出展され注目を集めた。

人手不足、人件費の上昇、人手ではできない精密で単純な繰り返し作業はロボットの利用用途を広げている。介護などのサービスロボットも同様だ。これまではロボットの作業範囲からは人を排除していたが、これからの自動化においては、人とロボットが共存しながら同じ場所で共同作業する環境の確保が求められる。安全を確保しながら作業を行うための対策で、各種安全機器は大きな役割を果たす。

■IT使い安全と生産性両立も
よくいわれる言葉に「何よりも安全が優先する」「安全第一」などがあるが、現実は安全対策を強化すれば生産性が落ちる、安全の投資投下が見えず無駄であるといった考えが依然強い。そこで安全性と生産性を両立させるために、情報化技術と組み合わせた安全コンセプトも注目され始めている。

熟練作業者と不慣れな作業者をあらかじめ登録しておくことで、作業環境条件を変更する。機械の回転速度を変える、ロボットに近づける距離を設定するなどの条件設定ができる。今までの「止める」「動く」だけでなく、動く速度や作業範囲などを設定することで、多様な作業環境を確保できる。いわゆる「チョコ停」を減らすことで稼働率が向上することにもなる。

製造業ではIIoT活用に向けた取り組みが始まっているが、作業環境の安全確保ではIIoTも大きな役割を果たすことが期待されている。

安全対策機器は多岐にわたるが、主なものとして安全リレー、安全リレーユニット、セーフティドアスイッチ、セーフティリミットスイッチ、非常停止用スイッチ、ソレノイド付き安全スイッチ、エリアセンサ/ラインセンサ、フットスイッチ、マットスイッチ、テープスイッチ、ロープスイッチ、プログラマブル安全コントローラ、安全プラグ、安全確認型回転停止センサ、非通電電流センサなどがある。これら各種安全対策機器を用途に合わせて、機械本体や機械周辺に装備して安全を確保する。

安全を確保する手法もここ数年で大きく変化してきている。例えば信号の伝送はハードワイヤから安全バスライン、そしてワイヤレス化へ進もうとしている。

人の存在検知方法も、光カーテンからレーザスキャナが主流になり、今後画像センサの導入が進むことが見込まれている。

メカニカル機構の安全対策機器が多かった中で、最近は電子技術を応用した安全対策機器が増加しているのも特徴だ。PLCやサーボモータ、インバータなども安全対策を内蔵した製品が増加してきており、制御用と安全用が分かれていたフィールドネットワークでも、混在した形で構築できるようになってきており、ユーザの負担を軽減している。

NECAや日本認証(JC)などが中心となって展開している「セーフティアセッサ認定制度」はアジアを中心に海外でも取得者が増えており、国際的な資格としての期待も高い。

ただ依然、労働災害が減少しない背景には、エンドユーザの安全意識の薄さが挙げられており、ボトムアップによる安全思想が必要だという声が増えている。いずれにしても、多様な安全対策を進めることで、作業現場で扱いやすく、かつ効果を発揮する取り組みが求められる。

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