【インダストリー4.0】山田太郎の製造業は高度な情報産業だ!(4)

前回の連載でも触れたが、Industry4.0は革命(レボリューション)なのか改善(エボリューション)なのかについて考えてみたい。今、日本で発売されているIndustry4.0の本を読むと、日本の多くの方が勘違いをしてしまっているのではないだろうかと危惧している。端的に言ってしまえば、Industry4.0=工場のデジタル化という勘違いだ。

工場のデジタル化がIndustry4.0だと見れば、それは大きな勘違いである。なぜならば、製造業の本質は、繰り返し書いているようにスペック(QCD)を販売することである。仕様自体は最終的にはモノに付随するが、当たり前であるが実際にモノの形になってから、スペックを作り込んでいくことはできない。企画や設計、工程設計の段階でスペックは決まってしまうからだ。

そうであれば、Industry4.0が工場の電子化にとどまらないことは明らかであろう。企画や設計、工程設計のバーチャル・シミュレーションにこそ、儲けの源泉があるのだ。実際にモノになる前、モノがまだ情報でしかない段階で、その情報を前後の工程とやりとりしながら、どう扱うのかがIndustry4.0の本質である。この連載タイトルに「製造業は高度な情報産業」としたのは、そういった理由からだ。

おそらく、現在日本で出回っている書籍などは、ドイツの当初の発想をなぞったものが多いのではないかと思われる。実際にドイツでは、企業経営者から現場レベルまで、議論を深めて当初の工場の電子化という方向が、明らかに中小企業を含めたエンジニアリングチェーンの方向にその領域を拡大してきている。

読者の方からは「生産性を高めるために工場の電子化は必要だ」という反論を受けるかも知れない。混流ラインでそれぞれの部品ごとの作業指示がモニターに出たり、一品ものが流れたときにスマートウオッチが震え注意を促したり、不具合情報入力をその場でタブレット入力したり、図面をタブレットで確認するというような技術が挙げられる。

しかし、生産性の向上は人減らしの目的のみになってしまっているのではないだろうか。さらに言えば、効率化されることによってC(コスト)とD(納期)には影響を与えるが、Q(ここでは、品質のばらつきという限定されたものではなく、仕様という広い範囲での品質を指す)に影響を及ぼさないことは明らかだ。もちろん、これらの取り組みは進んでいるに越したことはないが、Industry4.0と言うべき程のものではない、既存の技術の延長線上にあるものだ。

エンジニアリングチェーンまで広がったIndustry4.0が成功したとき、それは新たなビジネスモデルに直結する。従来、タクシーや旅館など免許などによって政府が安全性や品質にお墨付きを与えていたサービスが、UberやAirbnbでは、ユーザーの評価がそれを代替することとなり、新たなビジネスモデルを生み出した。この流れが製造業にも及んできている。

例えば、1足単位で完全オリジナル靴が“追加的コストなしに”作れるようになったとしよう。すると、測定器具を貸し出して自宅で測定し、完全に個人にフィットする靴が作れるようになるかも知れない。もしかしたら、専用アプリで自分の足の写真を撮るだけでオーダー可能になるかも知れない。靴はお店で試し履きして買うというのとは違うビジネスモデルが生まれる。これは、工場の電子化にとどまる範囲のIndustry4.0では絶対に実現できない。

Industry4.0が革命なのか改善なのかという当初の問いに対する答えは、Industry4.0が工場の電子化・スマートファクトリーに限られている場合は改善であるし、エンジニアリングチェーンを含めた幅広い範囲で、活動を行うのであれば、改革と呼ぶことができるだろう。ただ、本来の意味で「改革」のレベルまでたどり着いている産業や企業はまだ多くはない。
(参議院議員)

山田太郎 参議院議員
山田太郎 参議院議員

山田太郎(やまだ・たろう)
参議院議員
慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大学客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を生かしステーツマン(政治家)として活躍中。

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