機械安全関連機器市場拡大基調 製造業事故防止への対応進む 3年連続で過去最高額を更新国際な安全対策が進展 10月から食品加工機械の安全対策強化 12年度市場規模は5.7%増の247億円人材育成投資求められる

労働災害の死傷者数が依然増加傾向にある。建設業など陸上貨物運送業などと並んで製造業での事故も多い。製造業では作業現場の安全に向けて、色々な面から環境整備が続けられ、事故防止に向けた対応が進んでいる。今年10月からは食品加工用機械の改正「労働安全衛生規則」(安衛則)が施行され、食品加工用機械による事故の防止対策が一歩前進する。国際的にも安全対策向上に向けた施策が進んでおり、機械安全関連機器の市場も拡大基調を維持している。国内における製造業の労働災害死傷者数(死亡・休業4日以上)は、厚生労働省の統計によると、2011年が2万8457人であったが、12年は前年比166人(0・6%)少ない2万8291人であった。しかし死亡者は同17人(9・3%)増えて199人となった。全産業での12年の労働災害死傷者は11万7953人で、前年に比べ1618人増加し、3年連続で増加となっている。業種別では製造業が最も多く、続いて建設業、陸上貨物運送業の順。死亡者数も製造業は建設業の367人に続いて多く、死亡者数の増加の多い業種でも、建設業に続いて2番目となっている。 製造業の死傷事故の発生状況は、機械への「はさまれ・巻き込まれ」が8077人(28・5%)、「転倒」が4869人(17・2%)の順で、この2つで5割近くを占めている。製造業の死亡災害でも、機械への「はさまれ・巻き込まれ」が63人(31・7%)、「墜落・転落」が38人(19・1%)の順で多く、この2つの災害で5割近くを占め、増加数も多くなっている。 厚生労働省では、製造業や建設業で労働災害が増加している要因の一つとして、厳しい経営環境が安全衛生活動にも影響を及ぼしているのではないかと懸念している。 法整備に取り組む こうした労働災害の状況下で、日本でも災害事故減少に向けた法整備に取り組んでおり、国際的な潮流との整合性を取ろうとしている。 機械安全に対する国内での指針では、01年6月に厚生労働省が打ち出した「機械の包括的な安全基準に関する指針」により、製造業での安全対策が大きく進展するようになった。06年4月には労働安全衛生法が改正され、安全対策に関する記述が追加、リスクアセスメントと必要な安全対策措置が努力義務と定義付けされた。 同時に、「安全衛生管理体制の強化」として、各企業に安全衛生管理員の配置が義務付けられ、危険性・有害性などの調査や安全衛生に関する計画の作成・実施・評価・改善などの有効性を議事録に残すことも義務付けられた。 国際整合化を実現 07年7月には厚生労働省から、機械のリスクアセスメントの具体的な指針が改正された。こうした国内の動きに先立ち、03年11月に国際安全規格ISO12100が発効。これをベースにしたJIS B9700が制定されたことで、安全規格の国際整合化が実現した。このリスクアセスメントの指針改正では、機械、作業の危険源はどこなのか、それを安全にするためには何をするべきなのかを探すことで、危険源を一つ一つなくし、安全な機械、安全な作業を確保できることにつなげている。 さらに同省では10年7月に労働安全衛生規制を改正し、工作機械以外の機械に対しても、ストローク端による危険を防止する措置を義務付けるとともに、制御機能付き光線式安全装置(PSID式安全装置)、プレスブレーキ用レーザ式安全装置を新たな安全装置として追加するなど、関連規格を改正施行した。 この改正により、従来の金属工作機械だけでなく、NCルータなどテーブルが移動する木材加工や、樹脂加工用機械など適用範囲が広がった。 また、改正動力プレス機械構造規格は、ポジティブクラッチプレスを原則製造禁止にし、液圧プレスでのスライドの落下防止装置を充実させている。安全プレスでは、両手操作式安全プレスのスライドなど操作部は、左右の操作の時間差が0・5秒以内を要件化。光線式安全プレスは、改正前の防護高さを最大400ミリから危険を防止するための必要な長さに変更し、光軸感覚を70ミリから20ミリに変更、安全距離に400ミリ以上を追加した。 このほか、サーボモータを使用したプレスのブレーキ性能・故障対策などを規定。非常用停止装置の操作部として、押しボタンスイッチ以外のコード式やレバー式も認めるほか、両手操作式安全プレスのスライドなどの操作部を、直接距離で300ミリ以上離す以外の方法も認めている。 日本では年々、熟練作業者の減少とともに、パートタイマーや派遣労働者、言語・文化の異なる外国人作業者の増加などで生産形態が変わりつつあり、世界共通で誰でも分かる安全ルール・対策の導入として、国際安全規格の徹底が必要となっている。 専任スタッフ少ない しかし、日本の企業で、安全対策の専任のスタッフを配置している企業は大手も含めても非常に少なく、兼任外部コンサルタント頼みと言われている。製造原価やライフサイクルなどに時間と費用を掛けるが安全対策には、極力投資を抑えようとする傾向が強く、この面での日本企業の国際的地位は非常に低い評価になっている。 こうした中、機械安全と製品安全の推進を目的に、10年1月に設立された「機械安全ソサエティ(JASMAS)」は、中小企業でも安全対策が促進できるように、活動の費用負担を軽くしながら使用者、安全機器メーカー、認証機関、大学などと連携した技術者のネットワークを構築して、安全思想の啓蒙と事故率を下げる取り組みを行っている。 今年10月1日から食品加工用機械の規定を追加した改正「労働安全衛生規則」(安衛則)が施行される。食品加工用機械よる作業事故を防ぐために、機械の危険な部分への覆いの設置や、食品の原材料の送給・取り出し時の運転停止、用具の使用などが義務付けられる。 食品加工用機械による12年の死傷災害は、2000件近く発生しており、ほかの産業機械による災害数の2倍~3倍と特に多い状況になっており、改正安衛則の施行により機械安全対策機器の新たな市場拡大につながるものとして期待されている。 欧州でも11年12月29日付で機械指令が改定され、EN954―1からEN ISO13849―1に移行された。欧州に輸出する機械・装置の安全制御回路は、ISO13849―1〓2006への対応が求められることになった。 従来のISO13849―1〓1999は、「カテゴリー」で安全制御システムを評価していたが、改定後は「PL(パフォーマンスレベル)」で評価することになった。改定の背景には、安全関連の制御システムを構成する部品が、メカニカル部品から半導体などの電子部品に移行し、制御の方法もハードウェアからソフトウェアへロジックに変わりつつあることがある。 新しい規格は、カテゴリーの概念を基本に残しながら、IEC61508の「機能安全」の概念である信頼性や品質も取り入れることで、リスクの見積もり方法も変化することになるが、リスクアセスメントを実施するうえでは、分かりやすくなっている。最近はPLを計算するソフトも提供されており、比較的容易に対応可能になった。 国内は2桁伸長 安全対策機器の市場規模は、日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、12年度は前年度比5・7%増の247億円と、3年連続で過去最高額を更新した。特に国内は10・6%増の188億円となって3年連続伸長し、過去最高となっている。これに対し、輸出は7・4%減少している。 主な安全対策機器としては、安全リレー、安全リレーユニット、セフティドアスイッチ、セフティリミットスイッチ、非常停止用スイッチ、ソレノイド付き安全スイッチ、エリアセンサー/ラインセンサー、フットスイッチ、マットスイッチ、テープスイッチ、ロープスイッチ、フットスイッチ、プログラマブル安全コントローラ、安全プラグ、安全確認型回転停止センサ、非通電電流センサなどがある。これら各種安全対策機器を用途に合わせて、機械本体や機械周辺に装備して安全を確保する。 製造現場などで最も多い事故は機械から派生するもので、それを防ぐには人間の作業空間と機械の作業空間を完全に分離するか、人間が作業を行う時には機械が停止する、あるいは、機械が作業を行う時には人間が作業を行わないことが必要である。この機械災害を防止する基本的な方法としては、ガードによる安全防御と安全装置による安全防御がある。 ガードは、機械と人間の作業空間を構造的に分離するもので、構造によってケーシング、覆い、スクリーン、扉、包囲ガードなどとも呼ばれる。安全装置は、機械設備に適切なガードを備えても、現実的にガード内部に作業者が立ち入る必要が出てきた時に求められる。例えば、段取り、調整などの作業の場合、機械の作業空間と人間の作業空間とが重なり危険領域となる。危険領域では、人間と機械の運転出力のどちらかを停止・安全状態にする必要がある。 安全思想が先進している欧州では、安全性と生産性を両立させる一例として、セーフティライトカーテンを使った安全システムの導入で、人が通った時は機械が停止し、ワークが通った時は安全機能が働かないミューティング技法により、無駄な生産ラインの停止を防ぐ安全対策を行っている。 このようなリスクアセスメントをきちんと行うことで、頻繁に機械や作業が中断することがなくなり、生産性の向上という課題解決にもつながってくる。 ネットワーク制御進む 工場内へのEthernet通信の導入が進む中で、PLCやサーボモータ、インバータなどをつなぐ安全制御も導入が進んでいる。従来、安全回路と制御回路を分離したネットワークが行われていたが、これを一体のネットワークとして制御しており、安全制御データとマシン制御データを混在した稼働を可能にしている。セーフティセンサーやセーフティスイッチなど安全機器などをセーフティ入力ユニットに直接接続できるため、機器選定の評価などの工数削減にも効果が見込める。同時に、PLの確認も比較的容易になってくる。 制御盤安全でWG NECAや日本認証(JC)などが中心となって展開している「セーフティアセッサ認定制度」も定着しているが、NECAでは安全関連事業のさらなる展開として「制御盤設計安全分野」の資格化に向けたワーキンググループを発足させ検討を進めている。 国際的な安全対策が進む中で、中国、韓国、さらには東欧などの新興国も対応を強めつつある。海外向けの販売が多い日本の機械・装置は、こうした海外の動向にきちんと対応しておくことが、国際的な日本の地位を高めることにもつながってくる。そのためにも、各企業が安全対応策を社内でしっかりとできる社員を育成していくための投資を優先して行っていくことが求められる。

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