ラック/キャビネットのソリューション展望

■はじめに■

IT(インフォメーション・テクノロジー)の進展、スマート・グリッド等のエネルギー問題への取り組みにおいて、ラック/キャビネットにも様々な要求がある。これには国内のみならず国際的にも技術検討の課題となっている。ここではIECにおけるラック/キャビネットの規格開発の現状を紹介し、ソリューションの視点での展望を述べてみたい。
ラックの寸法規格と関連規格

ラック/キャビネット(以後ラックと呼ぶ)は電子機器、産業機器、各種制御機器を構築するための重要な構成要素である。各種電子機器としてサブラックやシャーシは複数段積み重ねられてラックに収容される。この形態を装置実装と呼んでいる。各種サブラック/シャーシを搭載する場合、インタフェース寸法を決定することで自由に装置を構成することができる。このラックとサブラック/シャーシのインタフェース寸法を規格化している代表的な国際規格団体が、IEC(国際電気標準化会議)の技術小委員会であるSC48Dである。このIEC SC48Dにおけるラックとサブラック/シャーシの代表的な規格がIEC 60297シリーズである。IT機器の多くはこの19インチ規格寸法で製作されている。図1はIEC 60297規格の代表的な寸法図である。この規格はサブラック/シャーシの幅寸法が19インチ(482.6ミリ)であることから19インチ規格と呼ばれている。高さ寸法は1.75インチ(44.45ミリ)のN倍の寸法で、1U、2Uと呼称されている。

このインチ系の寸法に対して、メートル系の寸法規格としてIEC 60917シリーズがある(メトリック規格寸法)。幅寸法が480ミリで19インチとほぼ同じ寸法となっている。高さ寸法は25ミリのN倍の寸法となっている。この規格はJIS‐C 6010‐1/2として翻訳JIS規格となっている。産業機器、制御機器等はもともと旧JIS‐C 6010の高さ寸法が50ミリ単位となっており、このメートル系規格とよく整合する。現在、旧JISはJIS‐C 6010附属書0(規定)従来型ラック及びシャーシの寸法として収録されている。今後も両方のJIS寸法規格は広く活用されていくものと考えている。最近は制御機器等においてもIT機器であるコンピュータ機器、ネットワーク機器が搭載されることが増加しており、両方の寸法系が混在することが多くなってきている。このような場合に相互に搭載することのできる19インチ/メトリック・コンバーチブル規格がある。この規格にもとづいて設計・製作することで容易に両方の機器をそれぞれのラックに搭載することが可能となる。図2は相互のコンバーチブル化の規格を示している。19インチ規格製品をメトリック規格ラックに搭載する場合の寸法と、メトリック寸法のサブラック/シャーシを19インチ規格ラックに搭載する場合のそれぞれのパネル穴あけ寸法が規格化されている。表1はラックに関連するIEC規格一覧を示している。寸法規格だけでなく、EMC、強度、耐震、熱規格まで広く規格化されている。

■耐震と熱設計規格■

ラックの耐震規格については、IEC 61587‐2規格がJIS‐C 6010‐2としてJIS化されている。現在の最新規格では日本提案の三軸同時加振規格が追加されている。一昨年の3.11の東日本大震災における長周期地震についてどのように規格化に盛り込むかは今後の課題である。三軸同時加振を規格に追加したことにより、より確実な耐震規格となっているといえる。今後とも積極的な日本提案を進めていきたいと考えている。米国ではNEBS規格が広く使われているがIEC 61587‐2ではその内容も規格に含まれている。

近年、特にITの分野ではラック内の発熱量が増大し、それに対応した熱性能評価、熱設計ガイドライン等の規格化が求められている。熱規格では自然空冷だけでなく、強制空冷、水冷、ペルチェ素子を用いた冷却まで含む多くの規格化が進んでいる。表2は最新の熱規格の一覧を示す。熱性能・熱設計規格では、これまでドイツから提案が行われてきたが、最近では日本からも積極的に提案を行っている。

日本提案のIEC TS 62610‐2は強制空冷ガイドラインである。ラック内には様々な機器が搭載される。このような場合、ラック内のエアフローの整合がとれていないと機器から出る排熱が吸気側に戻ってしまうことになる。本規格では、望ましいエアフローの推奨を示すとともに、各機器からの発熱の風量総和を上回るラックのファン風量を確保するように設計のガイドラインを示している。現在、新たに自然空冷から強制空冷までのラックの冷却設計法デザインガイドについて日本から提案して規格化を進めていくことが2012年9月のIEC SC48Dドイツ・マインタル国際会議で決まった。

■ラック・ソリューション■

ラックを取り巻く広い範囲でそのソリューションの展望を述べたい。ラックへの要求をまとめたものが表3である。ラック単体としての、耐震への要求、排熱性能向上等のラックの物理性能だけでなく、環境設計、ユニバーサル・デザイン、ラックとファシリティー(建物)との整合のとれたエアフロー設計やラックの熱流体解析への取り組み、そしてラックへの各種機器、部品搭載における設計製造の見える化等について広い視点で展望しながら述べていきたい。ラック性能の要求では扉の開口率がある。ラックの表面積、開口面積、強制空冷の風速から簡易計算を行い、熱性能を評価したものである。内部の機器の実装、ラック寸法等で性能が変わるのでこの計算がすべての場合に当てはまるわけではないが、発熱量が大きくなると扉の開口率は高いほうが望ましい。またサーバ等のファンは比較的小型であり風量に比較して静圧が低いため、扉の圧損は少ないことが望ましい。またサーバ機器では前面から背面に排気し、背面扉から排出され、扉の開口率が高いとサーバの排気の反射を減らすことができる。開口率をさらに高めるにはハニカムコア材を用いることにより、開口率を95%以上にすることも可能である。

ラックの熱設計において、吸気、排気の流れ、排気スペースの適正化やラック・ファンの必要風量を把握するために数値流体解析CFDが広く行われている。温度コンター図、流速ベクトル図等を把握することができる。設計段階で解析を行い、適切な設計を行った後、試作を行い、最終的には実測の性能評価を行うことが望ましい。ラックの熱対策を行う場合、ラック単体だけでなく、ラックをフロアに多数設置した場合のエアフローの適正化が必要となる。とくにデータセンターでは数百台のラックを一つのフロアに設置することがある。このような場合は、ラック内のエアフロー設計とともにラック排熱を効果的に空調機に戻す必要がある。適正なエアフロー設計を行うことで空調のエネルギーを低減することができる。さらに外気空調や高温動作保証のサーバを用いることで、空調等のエネルギー指標であるPUE値を低減できる。サーバラックの排熱通路(ホットアイル)にシャッターを用いた場合は、長周期地震のような場合に備えて天井に固定しないで発熱通路(ホットアイル)を閉じることが望ましい。このホットアイルを閉じる方法として、様々な提案実施が行われている。排気ダクト方式、カーテン方式、衝立方式等がある。ラック内の空きスペースは熱還流を起こすためエアシールドを行うことが望ましい。

ユニバーサル・デザインは、人間工学、工業デザインで呼ばれていたものをさらに発展させて、生産から、装置の設計、組立、設置、運用に至る広範囲な視点での人と社会に優しいデザインへの取り組みが望まれている。表4はその要求事項をまとめたものである。環境設計も広い視点ではユニバーサル・デザインに入ると考えられる。ラックの環境設計・3R設計としてはラックの軽量化がある。鋼板の薄板化、フレーム構造の採用、リベット工法により軽量化ができる。またラックは大きな箱であり、廃棄する場合、大きな労力が必要となる。このため分解性、リサイクル性を考慮する必要があり、フレーム構造、リベット工法により、分解性を高めている。また塗装については有機溶剤を用いない粉体塗装が多くなってきている。塗装膜の耐環境性能も良く、今後の主流となると考えられている。鋼板材料としてメッキ鋼板が使われるようになり、耐食性が高く、ラックを構成するフレームをメッキ鋼板とし、耐食性が高いため塗装しないで、側板、扉等の外装のみ塗装することでコスト低減と環境設計を推進できる。この方法はすでに広く採用されている。

ラックの見える化について考えると、ラックを活用する上で、ラック図面の生成、内部機器配置設計、配線設計等を再検討する必要がある。また接続図やシーケンス図との連携も必要である。現在ではラック図面の自動生成、盤内配置設計ナビゲーション等のCAD化によって設計の効率化、組み立て性改善、変更改善への対応力を向上できるようになった。図3は装置・盤CADの全体の取り組みの参考例を示す。またラック内の配線の見える化もいろいろ提案されている。その一つが配線ダクトを用いないダクトレスシステムである。DINレールと配線用の櫛を用いることで配線の引き回しが容易で点検、改造、修正が簡単となる。これらはケーブル・マネジメント・システムとして様々な方法が提案されている。効果的に活用していくことで装置・盤の見える化とユニバーサル・デザインが達成できる。

装置・盤のエネルギー問題の取り組みとして直流給電システムの採用がある。盤分野ではDC24Vが多く使われているのでDC24Vで給電することも可能である。直流給電システムを用いることで、ラックを含めた給電系全体のエネルギー改善につなげていけると考えられる。今後さらに直流化技術、直流の利点を生かした冗長構成、バッテリーの分散化、ソーラパネルとの直結化等の新たな取り組みを加えて発展していくものと思われる。

■おわりに■

ラックを取り巻く周辺も含めてソリューションの視点で展望を行った。引き続き市場の要求の把握や様々な提案によりラック・ソリューションの進展を図っていくことで、使い手と作り手の利便性が上がるとともに、日本の物づくり力を維持発展させていくことができると考えている。

ラック、サブラックのソリューションの視点に立ち、IEC国際規格への積極的な提案規格化を推進していく必要があると考える。IEC SC48D国内委員会では規格化の報告とその応用に関するセミナーを東京、大阪で交互に開催しており、規格化とともに規格活用が進むようにセミナーの開催等PR活動の努力を図っていきたいと考えている。

【筆者=IEC‐SC48D国内委員長 篠原電機(株) 犀川真一氏】

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