【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (110)】技術者に副業を許可すべきか 機密保持できバランス感覚優れる中堅以上
副業が一般的になりつつある昨今。元々は機密漏洩や自社での業務効率低下の懸念から禁止している企業が殆どでしたが、– 年功序列を前提とした長期雇用による人件費が重荷になる– 業界の急激な変動により先が見通せなくなっている– 複合スキル習得を通じた自社への貢献期待– 社員の自己実現に対する柔軟性を示すことによる企業イメージアップ、といった要因が絡み合うことで、副業を認める企業が増えています。
特にCOVID-19による変動はこの流れを後押ししたといえるでしょう。資本主義を基本とした経済活動において、
事業の良し悪しは景気変動や業界・地域要因で決まるケースが殆どだったのに対し、感染症の拡大による経済活動の制限と業界・地域によらない破壊力で、多くの価値観を変化させた大変動だったと考えます。
元に戻そうとする雰囲気やそれを期待する考えもあるようですが、基本的には完全に元には戻らないと思います。よって、変動を経た新しい時代が始まったといえます。この変動は企業を怯えさせ、実際いくつかの業界には大打撃を与えています。経験の無い変動程、企業にとって恐ろしいものはありません。そしてこの恐怖をリスクと捉え企業が行うことは手元資金の確保、より具体的には「人件費の削減」です。
しかしながら正社員は簡単には退職させられない。従来の早期退職者希望制度だけでは、既に高齢化し人件費も高くなっているため、そこまで待つことも難しい。そうなれば、今のうちに外でスキルを身に付けてもらい、従業員自身でリスクヘッジをさせ、しかるべきに備えたいというのが、程度の差はあれ企業の本音かと思います。外でスキルを使って外貨を稼げる社員は、結果的に所属する企業に貢献する可能性が高まります。向上心が高く、成果にこだわる傾向が強いためです。
しかも、外に目が向いているのでいざとなれば社会の荒波に飛び出せる勇気もあるでしょう。企業にとってはこのような人材の方が求められる時代になっているのは、暗黙的には多くの方が気が付かれていることだと思います。副業については、既にそれをシステムとして機能させているJOINSのような企業も登場しています。同社のユニークなところは、副業の人材によって運営をされているところでしょう。副業によって組織化できるという一事例とも言えます。このように副業は既に一般的になりつつあります。
では、技術者にとっての副業を認めるべきかという、今回の本題について考えてみたいと思います。技術者にも基本は副業を認めるべき結論から言うと技術者に対しては副業を認めるべきです。ただいくつか条件があります。その条件について以下の通り述べたいと思います。
1. 自社の機密を漏洩させないだけのバランス力と技術力を有すること
技術者は自らの専門性に強いこだわりがあります。それ故、自分で新しいことに取り組むよりも「今まで取り組んできて”できること”、”知っていること”をそのまま使おうとする」という傾向があるのです。最もわかりやすいのは、今所属している企業で行っている業務。これは自分でも自信を持っているため、他でも応用しやすいと考えます。よって、今の仕事ではこれをやっているので、これをそのまま使おうという、言い方によっては短絡的な思考回路に陥りがちです。このような思考回路に陥るのは、「技術的な実務経験や業務範囲の狭い主に若手技術者」が多い傾向にあります。さらにどこまでが機密で、どこから先が機密でないかという判断も若手技術者では難しいでしょう。以上のことから機密保持の常識があり、技術力も有するというバランス感覚を有する中堅以上の技術者が副業許可の対象として望ましいといえます。
2. 自分の専門性と近くない技術領域に飛び込み技術的異業種交流をする
技術者は技術的専門性があるため、その専門性に近い領域での副業を考えるかもしれません。しかし、技術者にとって大切なのは自らの専門性を深めることもそうですが、副業を前提とした場合、やはり技術的異業種交流がポイントになります。技術者にとって危険なのは、自らの得意な専門性という庭に閉じこもり、外の世界を見ないことです。繰り返しですが技術者にとって技術の本質を理解するため、自らの専門領域を突き詰めるのは大切です。その一方で、特定の技術専門性で新しい技術を創出するのは極めて困難であり、何かしらのビジネスにつなげるには複数技術の融合は不可避な時代となっています。特定の部品や製品ではなく、何かしらのものが入り口から出口まで完結する”システムとしての提案”が求められる時代になっているためです。
このような観点を踏まえ、、副業を通じてこれまでの自分の技術領域と一見異なる技術領域での技術的共通項を見出し、新しい研究開発の足掛かりとすることは、技術者が経験する副業で得られる最良のものの一つとなるに違いありません。
いかがでしたでしょうか。副業は企業にとってリスクと感じるのは事実です。その一方で、従業員である技術者の活躍の範囲を制限し、長い間管理することも企業にとってリスクです。企業も技術者も自主自立が求められているのです。お互いに依存しないことがお互いの関係に緊張感をもたらし、それが成長の原動力になるのは、プロ意識が常識となっている、プロスポーツを一例にすればわかりやすいのではないでしょうか。副業というのはそのような、いい意味での技術者の自主自立を促す一つの選択肢となると考えます。
【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/