令和の販売員心得 黒川想介 (141)顧客のニーズ変化を知って時期に即した種まき活動へ

昭和期のFA営業では、種まき論が盛んであった。「種をまかなければ収穫はできない」という喩えを販売員に徹底した。受注の締め切り日に一喜一憂をした時代だったが、次月や時期の受注、売り上げ達成をするためにも、先々に手を打っておかねばならなかった。
そのような種まき論が盛んな時代は、製造業の躍進期であり、製造業を支える新しい制御商品の創出機であった。その時期のFA営業は、今日の受注活動に懸命であり、同時に明日の受注、売り上げに期待をしていた。新しく発売された商品が明日は売れるという思いが強かったから、すべての顧客、見込み客に新商品を敷き詰めるようにアピールした。
その活動はその時代の理に叶っていた。どの工場も、とにかく生産力強化という方向に向いて動いていたから、新しい商品を一斉にアピールする活動が成長を伴う種まきになっていたのだ。
現在の社会は多様な社会である。製造工場も生産力だけの一方向を向いて稼働しているわけではない。製造業を構成する業界は多数に上り、それぞれが複雑多様である。現在でも新商品が発売されると販売員はカタログサンプルを持参して顧客にアピールしているが、かつてのような効果は無い。
しかしながら、種まき論の考え方は現在でも重要である。そもそも種まき論とは「明日の備え」を意味するものだ。これまでFA営業は、新商品のカタログやサンプルを顧客にアピールすることを「種まき」と称してきたが、現在では基本に戻り、種まきは「明日への備え」として考える時期に来ている。
「どんな活動が現代の種まきになるのか」販売店営業がそれを考えるには、メーカーとの関係、顧客との関係をよく分かっていなければならない。
そもそも販売店営業はメーカー営業に大きな影響受ける。以前はメーカー営業の戦略・戦術がそのまま販売店営業の戦略戦術になっていた。しかし現在では大きな影響受けるといっても、メーカー営業と全く同じ歩調を取る販売店営業は少ない。販売店営業は受注ルート顧客の言い分通りに動く。メーカー営業の営業戦術に乗って動いていても以前のような二人三脚の動きではない。
FAマーケットのイケイケの成長期が終わり、長い安定期に入っているが、なんらかの変化を販売店営業は感じているはずだ。しかし販売店営業がメーカー営業と全く同じ歩調を取らなくなったと言っても、独自の成長戦略や目標を持って活動しているとも言えない。長い間メーカー営業と二人三脚でやってきた影響から、明日に備えるための成長戦略や戦術を独自で立てることを忘れていて、とりあえずメーカー営業の戦術・戦法に乗っかっているように見える。そのレベルで営業活動しているなら、早々に修正すべきだ。
それでは、どう修正すればいいのか。販売店営業にはもう一方に影響及ぼす顧客がいる。現在、販売店営業の顧客になっているのは、企業の中でも受注ルートのある特定の部門である。顧客企業のなかにはFAに少しでも関係のある部門がいくつかある。それらを含めての全体が顧客である。
最前線にいる販売店営業が数年前とは何か肌感覚が違うと感じるなら、販売員にもマーケティング思考が重要になる。
メーカー営業は、全国的見地から市場を見て、花形営業や源流にある企業に狙いをつけ、戦略的な目標や行動の立案作成をする。それに対し販売店営業は、雑多な顧客を目の前にしている。したがってメーカー営業と同じ動きはできない。まずは目の前にある顧客のニーズの変化を知ることの方が重要である。顧客の現場はどう変わろうとしているのか、現場によって少し先にやろうとしている事はあるはずだ。まずは人手不足や省力化、省エネのような大まかな話題で探りを入れ、具体的にやろうとしている部門や人を探す事に力を入れるのが、変化の時期に即した種まき活動である。

TOP