【提言】DXに遅れる日本製造業の大惨事 【コロナ禍が教える日本ものづくり課題】(その5)〜日本の製造業再起動に向けて(68)

2020年10月28日

中国経済が好調である。中国国家統計局の発表によると、2020年7〜9月の国内総生産(実質GDP)は前年同期比4.9%となり、中国経済の回復が鮮明となった。『中国の数字は当てにならない』との指摘もあるが、中国製造業ではコロナ影響も終息し、回復軌道は否定できない。

また中国製造業は、単なる回復ではなく大きな変革が進んでいる。中国共産党の方針もあり、弱小の中小企業が後退し、製造組織の大規模化が進み、DX(デジタル・トランスフォーメーション)や自動化への投資が積極的である。中国製造業の変革進歩は侮れない。

中国以外の世界経済は依然としてコロナ禍の渦中にある。日本国内も厳しい状態が続いている。帝国データバンクの調査によれば、全国の景気動向係数DI(ディフュージョン・インデックス)は、20年5月には25.0のどん底に落ちた以降、多少の持ち直しの動きが見られ、4カ月連続で前月比プラスとなり、9月は31.6となったが、不景気を示すと言われる50.0を大きく下回っており、(過去と比較しても)日本の経済回復の厳しさを物語っている。

 

筆者のホームグラウンドというべき精密板金業界に限定すると、幸いにして(肌感覚的には)比較的明るい状況も見受けられる。精密板金業界は、全国津々浦々2万社の中小製造業によって構成される業界であり、顧客(発注元)の業種も、配電盤業界・医療業界・電子機器・建材など広範囲にわたっているが、秋口からの受注回復が見られ、DIは確実に持ち直している。

この回復の原因には、国内の公共工事や5Gなどのインフラの持ち直しも影響しているが、中国向け輸出への依存が極めて大きい。ロボットの中国向け輸出は急増しており、中国経済の回復が精密板金業界にも明るい状況をもたらしており、その影響は大きい。

中国の米中覇権争いを背景に、中国に反発を抱く日本国民の感情とは裏腹に、(残念ながら)中国に依存しているのが日本経済の現実である。武漢発コロナ禍は中国では政府が終息を宣言し、経済活動が本格化するとともに、製造業でも積極的なイノベーションを開始した中国と比べ、日本は異常なほど後れを取っている。

日本では多くの人が、依然として自主的な自粛行動を継続している。大企業の上級幹部社員がテレワークで家に閉じこもり、中小企業の経営者も移動を控え、人との接触を限定する自粛行動が不思議ではなくなった。国際的競争力の視点からは、この現実は異常事態である。自粛行動が常態化したら、日本の団結力は根底から崩壊し、ものづくりの熱き体温を奪い取り、日本国家の将来にとって取り返しのつかない大惨事となる。コロナを理由に、(指導者が巣ごもりし)変革をこれ以上遅らせることは許されない。

  

日本製造業の変革が鈍重であることはコロナ以前から指摘されてきた事でもある。2年前の18年に、経済産業省が『2025年の崖』というレポートを公表し、非常に話題となったことをご存じの御仁も多いと思う。

『2025年の崖』とは、経済産業省に発足した「DXに関する研究会」が発信した『DXレポート』である。その内容は衝撃的なものであり、『DXを実現しないと企業は存続できない』との警鐘である。経済産業省は、各企業が現在使用中のシステムによって競争力が大幅に低下すると断じ、その期限を25年と明示した。

経済産業省の警鐘は、コロナ騒ぎで世間の話題から忘れ去られようとしているが、非常に重要なレポートである。大企業の幹部や中小製造業経営者が率先してDX推進の旗振りをしなければならない事は明白だ。

 

DXとは、かつてスウェーデンのウメオ大学ユリック・ストルターマン教授によって提唱された概念であり、バズワードである。

多くの人々がさまざまな定義と解説がなされているが、一言で言い表せば『最新デジタル技術を活用した変革』であり、各製造業が今日にまで進めて来たデジタル化とは異なり、最先端技術(クラウドや人工知能など)を活用した製造業の変革をDXという。

中小製造業でも、生産管理システムやCAD/CAM、ネットワークシステムなど多義にわたるソフトが導入されているが、これらのシステムはレガシーシステムと呼ばれ、これらのシステムを保守・改善してもDXにはならない。それどころか、レガシーシステムに依存したら企業は存続できないとの警鐘が『2025年の崖』である。

 

産業革命の歴史は、まず初めに機械が誕生し、第2次産業革命で電気が生まれ、第3次産業革命でコンピュータが誕生した。現状の工場は産業革命の結晶である。

建物に例えると、1階に機械、2階に電気(NCやシーケンサ)、3階にコンピュータ(生産管理やCAD/CAM)で構成される3階建である。3階のデジタルシステムをレガシーと呼んでいる。DXは第4次産業革命。4階建への増築である。増築する4階は、コンピュータ上にある仮想工場であり、ドラえもんのように、世界中のどこでも、未来にも過去にも行ける。シミュレーションによる生産予測と最適化も可能になるし、発注元や外注購入先との接続も自由自在である。これをサイバー工場と呼ぶ。

3階で構築したレガシーシステムは、自社工場内の生産性向上を目的としたシステムである。4階のDXとは、エンジニアリング全体やサプライチェーン全体を包括するシステムであり、発注元の3次元データとのシームレスな結合や、外注・購入先までもデジタル技術によって結合されるのがDXである。

4階のDXを支える技術は、第4次産業革命のクラウドや人工知能・RPAなどの活用である。3階のWindowsをベースとしたレガシーシステムとは全く異なるのである。製造業の変革とは、4階建に拡張することである。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。