産業用ロボットを巡る 光と影(28)

なぜ優秀なソフトを用いてもロボットの導入に失敗するのか?

絶対精度の重要さを認知せよ!

 

ロボットの導入に失敗する理由

今回は、少し専門的な話になります。

最近、産業用ロボットを導入する会社が増えているのは周知の事実ですが、ティーチングを行う方法が以前と変わってきた傾向があります。以前は、ティーチング作業の全てはティーチングペンダントを用いて行っていましたが、最近はオフラインティーチング(シミュレーション)ソフト等も用いる傾向が強くなっています。

ただ、ソフトを導入しても多くの企業が失敗しています。それは以前、私の記事で述べた通り、ソフトに「キャリブレーション機能」などの現場向きの機能が無い事、そしてソフトを販売・サポートするベンダーがロボットに精通していない事が原因です。

この原因はソフト側の話ですが、実は例えソフトが優秀でも、ハード(ロボット)側の「ある能力」も優秀でないと、生産効率が上がりません。

 

ロボットの導入に失敗する理由

その「ある能力」とは、絶対精度です。この単語も私の記事を熟読されている方はご存知と思いますが、今回はもう少し深く説明したいと思います。

ロボットの絶対精度が良くないと、例えば、プログラム上ではXを10mm(YとZは0mm)動かすように命令したのに、現場ではXが9mmしか動かず、しかもYとZが1mm移動する、という事が起こります。すると、ソフトがどんなに優秀でも、現場でズレが生ずるので、結局ティーチングペンダントで再ティーチング(微調整とも言います)を行う事になり、生産効率が上がりません。

 

よくある誤解

絶対精度は、ロボットのカタログにも記載されていません。記載してあるのは「繰り返し精度」なので、「これと同じでは?」と誤解される方が多いのですが、繰り返し精度とは全く別です。

実は、ロボットメーカーの営業の方でも知らない方がいる程、あまり使われない単語で、顧客がロボットメーカーに「絶対精度を良くしてほしい」と依頼しても、メーカー担当者から「うちでは納品前に、全てのロボットで調整しています」と誤解の返答がある程です。この「全てのロボットで調整しています」は「繰り返し精度」の事なので、気を付けてください。後で述べますが、繰り返し精度と絶対精度とでは調整の仕方が全く違います。

 

絶対精度の調整をしてくれるロボットメーカー

日本のロボットメーカーで絶対精度の調整をしてくれるのは、安川電機です。他のメーカーでも出来るかもしれませんが、当社は多くの現場で様々なロボットメーカーの動きを見てきましたが、(もちろん、調整後ですが)安川電機のロボットは絶対精度が優れています。よって、当社の顧客からも「安川のロボットだと微調整を殆ど行う必要が無いため、かなり効率が上がった」と好評です。なお、日本の他のロボットメーカーに、絶対精度に関して問い合わせをしても、「うちのメーカーでは、そういうのは無いですねー」もしくは「質問の意味が分かりません」という返事が返ってきます。

せっかくなので、安川電機の絶対精度に関して、もう少し述べます。

 

見積もりの名前

絶対精度を良くする為に必要な見積もりの名前は「ロボット(R/B)キャリブレーション」です。

オプションなので、顧客がSIerや安川電機の営業の方に「ティーチングソフトでティーチングをします」と伝えれば、「では『ロボットキャリブレーション』も見積もりに入れておきましょう」と見積もりに追加してくれます。ただし、たまに営業の方でもこのオプションを知らない方もいるので、顧客側から依頼した方が安全です。

 

調整方法

ロボットの納品前であれば、ロボット生産工場で「特殊な専用のツール」を使用して、調整します。

ロボットの納品後であれば、技術担当者がノートPCを持参し、ロボットの前に尖がった5つのモノを(精度を上げる為、治具のそばに)置いて、そこにツールの先端を「その5か所に」「5つの姿勢」であてがいます。そしてノートPCを使って、ロボットの調整を行います。

なお、納品後に月日が経過していると調整の効果が下がるので、納品前をお勧めします。

 

調整の価格

ロボットが数台あっても、1人1日で出来る台数であれば、だいたい12万円くらいです。

 

最後に

当社は、絶対精度が良くないロボットを導入した企業が、大きな後悔をする場面を沢山見てきましたので、今回の内容はとても重要です。この内容の意味が、良くわからなければ、遠慮なく当社にお問い合わせください。例えロボットの初心者でも、出来るだけ分かりやすく説明をさせて頂きます。

 

◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。

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