令和の販売員心得 黒川想介 (23)見込み客に“売り急ぎ”は禁物 初回アプローチ三カ条とは?

昭和の拡大成長期に「愛のフットワーク作戦」という拡販活動があった。これまで述べてきたように、昭和の拡大成長期は、工場が増えて新しい機械装置やそれらを使った生産ラインが次々と誕生すると、それらに使う新しい機器や部品の種類も増えた時代だった。

そのような現場環境の中から「愛のフットワーク作戦」が生まれた。この作戦の骨子は、増えていく全ての顧客に、新しい商品のカタログを敷き詰めていこうというものであった。

メールやネットのない時代、担当エリアに新しくできた工場を含め全ての現場に、次々と生まれる機器や部品のカタログをフットワークよく手渡したのだ。とにかく全ての現場の技術に知ってもらおうとしたのである。そのために女性のスタッフが重要な役割を担った。

①まずクリアファイルに、届ける客先の現場や名前を記入した名札を貼って準備する ②毎月、発売された新商品のカタログをそのファイルに入れる ③女性スタッフが担当顧客分のファイルを販売員に渡す ④販売員はファイルの中のカタログを届けて ⑤空になったファイルを女性スタッフに戻す。

エリアは数班に分かれた販売組織であったので、班の女性リーダー達は配布状況の会議を開催した。成績の悪い班の女性は自分の班に戻ると、販売員達に来月はなんとか完配してくれるよう頼み込んだ。

女性から頼まれると弱かった男性販売陣は奮起し、結果的に毎月新商品カタログが現場に確実に届いた。

この「愛のフットワーク作戦」でもわかる通り、昭和の成長拡大期の営業は、増加する工場や製造ラインの現場の全てにタッチして、新商品を使用してもらおうとする熱意を持っていた。

このように新商品が発売されれば、いち早く顧客や見込み客に知ってもらおうとしていたのが成長拡大期の商品PR型営業であった。

ちなみにこの商品PR型営業は、成長拡大期以前の昭和の黎明期には通用しなかったし、平成の成長期にはそれほどの効果は上がっていない。成長拡大の真っ只中でやっていた商品PR型営業とは、畑に種をまいて実が育つのを待つように、売り上げを上げるためまず生産現場に知ってもらう型の営業だった。

平成期は、大競争に勝つために競合切り換え型営業となった。この営業は商人的営業というより職人的営業であった。つまり顧客の諸事情はおいといて、現在使用中の機器部品は競合他社商品よりQ・C・D・機器面で優れているから使用した方がいいという考えである。販売員はそのことをうまく説明する人となってしまった。

営業は商売である。商売は確かに「売って幾ら」「売れて幾ら」の世界である。競合切り換え型営業は販売員の努力があって売っているのは確かだが、その努力の大半は商品仕様、機能、長所をうまく説明する職人の技的なことである。「気に入らないなら帰ってくれ」と言うラーメン屋の名物親父がやるようなことであるから、「売れて幾ら」の営業に近い。

どの業界でも成長拡大期があり、やがてその市場で大競争が始まる。大競争に疲れが見えた頃、その市場の周辺に新しい市場の芽が出てくる。ちょうどそのタイミングかもしれない令和という時代が始まった。

そのような時代には、新規の見込み客にタッチしていくことが「売って幾ら」の営業なのである。そのような見込み客に出会ったら、焦ってはいけない。売り急ぎは禁物である。まず、初回のアプローチでは守るべき三カ条がある。

一、会社案内や商品への言及はサラッとに留めること
二、販売員は商品紹介と言いつつ売り込んでくるという相手の先入観をできるだけ払拭すること
三、次回会ってもらえる雰囲気を作ること

この三カ条を意識し、実際の準備を整えて初回のアプローチに臨むべきである。

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