令和の販売員心得 黒川想介 (17)

平成期の販売員と違う印象
相手を引き込む口上で臨む

昭和期に活躍した機器や部品業界の販売員が、平成の頃によく言っていたことがある。「最近の販売員は新規開拓ができなくなった。我々の若い頃は工場と見れば飛び込んで、新規開拓をしたもんだ」。

今となっては飛び込み訪問などというのは化石のような古い話である。しかしいつの時代でも手段こそ変われ、新規開拓をしなければいつかは後れをとってしまう。だから新規開拓という四文字は販売店にとっては欠かせない営業活動なのである。

しかし、威勢のいい昭和期の販売員に指導された平成の販売員がやった新規開拓は、あまりうまくいかなかった。理由はいくつかあるが根本的なことは、昭和期と平成期の市場環境の違いを考えずに、新規開拓の号令をかけたことにある。

 

その①に、平成時代は、急成長してきた昭和期とは違い成熟期に入っていたため、競合が激しくなった。そのため平成の販売員は、競合切り換え型営業に育てられていた。比較優位の説明で顧客に喜ばれるのが、機器や部品の売り方だと疑わない営業になっていたのである。実は、競合切り換え型営業に習熟すればするほど、新規開拓営業は下手になっていく。

その②、販売店が扱う商品は、平成期にシリーズ品こそどんどん増えたが、昭和の拡大成長期のように技術者の目に新しく映る商品が増え続けた時代ではなかった。だから販売店の扱う商品に誘われて、新規の見込み客が気軽に販売員と会うことはなくなった。

 

その③、平成も半ば過ぎるとインターネットの時代に入った。販売員は自社のホームページを見て、案件めいた問い合わせをしてくる見込み客を訪問する。その案件を解決して受注に持ち込み、売り上げを上げることで新規開拓をしたと位置付ける。

だがその一回の受注のみで終わっている。もしもその見込み客がその後顧客になって、取り引きが継続されるようなことがあるなら、新規開拓したと言える。しかし、見込み客から案件が継続して出てこなくて断ち切れとなってしまっても、あまり意に介する様子はない。

その④、中小の販売店と言っても、それなりに顧客があって売り上げを確保している。昭和期のように、もっともっと成長しようという意欲が薄れているから、見込み客開拓をしなければならないと思いつつ日常のルーチンで手一杯になる。

 

平成期の新規開拓が思うようにいかなかった販売店は、以上の他にも理由があるだろうが、令和という新しい環境下でもやはり新規開拓をやらなければ成長は持続しない。だから少なくとも、平成期営業では有効だった競合切り換え型営業一本槍ではいけない。幸運でもない限りうまくいかないからである。

現状は、新規開拓の対象になる技術者にはなかなか会えない時代である。だから運よく会えるようなことがあったら、必ず顧客にするという欲心を持つことである。

そのためには、商品の良さに頼りきった営業から脱して、面会する人への思いを考える営業に戻すことなのだ。そのため初回訪問を雑にしてはいけない。出合い頭の印象が重要なことは前回述べたが、次の心得として、平成期からやってきた販売員とは違う印象を残すことである。

 

平成の販売員は、サラッと名刺交換した後に言うことがあるとすれば「お忙しいですか」「今どんなお仕事を…」「お困り事はありませんか」等のあいさつのような口上を述べる程度であり、その後何も言うことがなければ会社案内か商品カタログ等の説明に入る。そんなやり方を相手も心得ているから、よほどの商品がない限り販売員を受け入れない。

相手がつい引き込まれて話をしてしまうような口上を考えて臨む販売員になっていくことが、令和の営業に必要なのだ。

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