製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (34)

2020年1月15日

技術者の能力本位採用に向け
具体的に何をすればいいのかわからない

先日の日経新聞で「能力本位の新卒採用に改革を」という興味深い社説が出ていました。その記事が物語っているのが、企業が時代の変化の速さを踏まえ、あるべき新卒採用の姿が見えない中で、存亡の危機感を強く感じている、ということが背景にあると思います。

弊社も弊社自身の事業経営はもちろん、顧問先の事業環境を見る限り、時代の流れが明らかに早く、そして複雑になっているのを感じます。

上記の社説で述べられているのは、「旧態依然とした採用方法、採用思考を変えなくてはいけない」「人材確保を急ぐ故、能力の把握が不十分ではないか」「思考力や分析力を重視した採用を」「一括採用にこだわらず、通年採用を」といったことです。職種を問わない前提での採用に関することであればおおむね該当することです。しかし、技術者という職種の採用において、能力把握を本当に目指すのであれば違う観点も考慮しなくてはいけません。

 

技術職、技術者の採用において考慮すべき観点とは

詳細を言えばいろいろありますが、技術者としての能力を見る一つの考え方として、「今までやってきた研究で一番苦労したことは何か、そしてそれをどのように乗り越えたか」という質問を投げかけるというのが一案です。

ここで見ようとしているのは以下の点です。

1.自らの研究テーマについて能動的に取り組んだか(主体性)
2.課題が出てくるまで突き詰めたか(忍耐力)
3.解決に向けてどのような動きをしたか(解決力)
4.わかりにくい研究の話を分かりやすく説明できているか(論理的思考力)

技術者にとって主体性はイノベーションの源泉といっても過言ではないでしょう。

 

技術者にとっての主体性

新卒技術者の中には、諸先輩や場合によっては教員に研究をやってもらう、という経緯を経て卒業しているケースが実在しています。このような新人技術者は自分でテーマを進めるのではなく、「人にやってもらう」というロジックが基本にあることがほとんどです。このような技術者は遅かれ早かれ、組織にとって厄介な存在になるでしょう。

「今までやってきた研究で一番苦労したことは何か、そしてそれをどのように乗り越えたか」という質問は主体性が無い学生や技術者は即答することが難しいでしょう。答えの中身というよりは答え方を見ることで、その主体性を見抜くということが採用側にも求められます。補足として、新卒というよりも、30歳前後の技術者に急増しているパターンであり、中途採用でも極めて重要な観点といえるでしょう。

 

技術者にとっての忍耐力

技術に対しては忍耐力は必須です。粘り強く技術の本質は何なのか、ということを考えられない技術者は、本当に追い詰められた時に逃げてしまいます。

うまくいった研究や業務よりも、問題が生じた時にその力量は試されます。苦労したことを訴えかけられる感じで述べられる、または記述できるかということがポイントとなるでしょう。

 

技術者にとっての課題解決力

解決力は上記とも密接にかかわりますが、どのようにその困難を乗り越えたのか、というのも非常に重要な力です。

ここで誤解いただきたくないのは、「課題を解決できない=能力が無い」ということではないということです。解決できる課題ばかりではありません。場合によっては撤退、テーマ凍結というケースもあるはずです。重要なのは解決できなかった場合に、「解決することはできなかった」という「正確な情報を提供できるか」という誠実さです。

残念ながら技術者の卵や若手の技術者は、専門性至上主義と自らの自信の無さからプライドが高い方が少なからずいます。このような方々は仕事を抱え込み、都合のいい情報しか出さない、そもそも報告や相談をしないというロジックで動き始めます。戦力以前に周りを振り回す存在になりかねないため、上記のような観点で見ることが大切です。

 

技術者にとって最重要の論理的思考力

そして最後が論理的思考力です。論理的思考力として大切なものはいろいろありますが、技術者にとって最も重要なのは「難しいことをわかりやすく伝える」ということです。

専門的な研究や仕事が多い技術者やその卵は、採用に関わる人物がその内容に関する専門性を有していることは皆無です。このようなケースで採用されたい技術者や新卒学生は「専門用語を列挙して自らの知識の高さを周知しようとする」のが一般的です。

これはこれで悪いことではありません。しかし、組織で働く以上大切なのは、「一見難しいことの中から要点を抽出し、相手にわかりやすく伝える」ということです。これが技術者にとって最も重要な論理的思考力の正体です。わかりやすく伝えるためには中身をきちんと理解し、その事実を俯瞰してみたうえで要点を抽出、相手が知りたいことを的確に伝えるのです。

 

この能力は多くの技術者で欠けており、その育成に多くの時間を有するというのが、弊社の顧問先でのサポートや指導における実感です。逆に上記のことができる、またはできる潜在能力があれば、「自社技術をわかりやすく内外に発信する」という「情報発信力」があるということになります。

これは社内のさまざまな部署の連携を助長することに加え、社外の異業種企業との連携にも極めて重要になります。さらには、「自社技術や製品をわかりやすく対外的に周知する」ということで「技術者が情報発信型マーケティングを実現できる」という企業生き残りに極めて重要なスキルへとつながっていくでしょう。

いかがでしたでしょうか。能力採用をしたいのはすべての企業の願いです。しかし、その対象が技術者である場合は観点をより明確化することが重要です。そして、「見極める側にも技術的なスキルが求められる」ということを忘れてはいけません。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。