令和の販売員心得 黒川想介 (2)

成熟しているマーケットでは攻めより守りが勝る事を知れ

攻めるという行為は増やそうとする行為である。古来の戦は陣地を取り合って土地を増やすために起こっている。陣地取りや土地を増やすためには相手に攻め込まなければならない。攻め込んで相手の陣地を奪い、土地を増やすことが勝ち戦であった。

現代の営業では毎日の奮闘で、毎期目標売り上げの達成が勝利である。昨今のような業界成熟下で右肩上がりの売り上げを達成するには、やはり陣地や土地に相当する顧客や新たなマーケットを増やすことである。そのためには開拓営業、つまり攻めの営業をしなければならない。

成熟している業界のマーケットで顧客を増やすのは難しい。それでも現状の商材を持って新規の見込み客へ攻め込んで売り上げを上げるには、競合相手との戦いとなる。相手は必死に防戦する。

 

実際の戦場では、軍事学者クラウゼヴィッツの言うように、攻撃より防御の方が戦いには強い形式である。現代の営業戦線においても全く同じことが言える。必死に防御する競争相手は、人脈や実績という強い味方に守られている。ここを突破するのは何倍ものエネルギーを使わなければならない。

販売員は、自分の顧客内で競合商品が使われていることを知っていても無謀な戦いを求めようとはしない。防御の強さを知っているからだろう。

しかし、客先開拓と称して他の見込み客には意外と安易に攻めていく。見込み客のことをよく知らないから「盲蛇に怖じず」のことわざ通りであって、商品の機能を大いにPRすればなんとかきっかけをつくれるかもしれないと思ってしまう。おおかたは失敗する。『もっと良い商品さえあれば』と商品のせいにすることしきりである。したがって、実際は自分が担当する顧客も自社の実力で守られているのであって、自分の力は本当は非力だということを実感していない。

 

かつて自動制御が立ち上がった勃興期の頃には、マーケットや顧客を増やしていく攻撃型営業が主流であった。まだ制御部品や機器を使っている機械・装置は極端に少なかった。だからこそ攻めて行って、顧客や需要を増やさねばならなかった。

この時期に全米一のお墓のセールスマンであるウィリー・ゲールの書いた『心理販売術』は、営業の教材として適していた。お墓は物が物だけに、会社や商材に頼るところはまるでない。自分の才覚で勝利しなくてはならない。したがって、ウィリー・ゲール式営業は勃興期の開拓時代にピタリと当てはまった。

制御部品や機器は、それほど必要とされていない時代であったから、商材はお墓に近いものだった。お墓をすぐ欲しいと思う人は極端に少ない。しかし絶対に買わないと決めている人も少ない。

 

ウィリー・ゲールはまず見込み客を探した。お墓であるから手当たり次第訪問しても意味がない。それで、信用ある人に紹介してもらうことにした。信用ある人の面目があるから、いい加減な営業はできなかった。紹介してもらった見込み客であるが、いきなりお墓という商材をアピールしても興味を示してくれるかどうかわからない。興味どころか相手は引いてしまい、紹介者の面目をつぶすだろう。そう思うと一体どんなアプローチをすれば良いのかを考えざるを得なかった。

制御市場の勃興期もどこに需要があるかよくわからなかった。メーカーの販売員は需要を見つける営業活動が主であった。その中でも電設資材の販売店との同行訪問が多かった。その際、制御商品に興味を示さない現場が多くて、メーカーの販売員は困ってしまう場面が多々あった。

そんな時一緒にいた販売店が場を持ってつないでくれた。まだ制御商品では顧客をつくれない時代であり、アプローチの仕方を考えさせられていた。

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