ディーラーヘルプを考える 黒川想介 (61)

2019年5月29日

新たな付加価値の創造
ICT草創期に躍進を

産業機器や部品を販売する販売店は商人である。商人とは、生産者と消費者の間に介在して再販業務を営む者となっている。

江戸時代に徳川幕府は武士のモチベーションであった戦いの代わりに儒教を取り入れて、儒教に基づく上下関係をつくった。今の官僚制度に近いものである。一般庶民と武士の間を厳しく区別した。儒教の祖である孔子は、商人は何もつくらないからと言って卑しんだ。

徳川幕府はそんな卑しい商人から税金を取ることを考えるのが嫌だったようだ。そのため商人は大きな資本の蓄積ができた。幕末には大商人となり、明治維新にも貢献した。商人は何の付加価値も生まないどころか、生産者と消費者の間を取り持つ商行為によって、昔から大きな付加価値を創り出してきたのだ。

 

厳密に言えばメーカーの営業は商人ではないが、FA機器や部品業界ではメーカー営業であれ、販売店であれ、彼らの商人的な活躍によって製造業マーケットの需要をつくってきた。機器や部品業界の草創期には、販売店が中心となって顧客とメーカー間を積極的に取り持った。成長期には、メーカー営業が主導して製造業の需要拡大に大きな役割を果たしてきた。成熟期には、販売店営業が製造業へアプリの横展開で市場を広げた。

その後、メーカーの競合戦略が鮮明になり、販売店は巻き込まれてきた。現在はデフレ脱出がやや功を奏しているようだし、輸出ウエイトは高まり、機器や部品売り上げに変化の兆しがみえている。しかしメーカーの国内営業の戦略は長引く大競争を背景に競合戦略に重点を置いているようだ。

販売店はメーカーとユーザーの間に介在して再販業務を営む商人である。商人は間に介在して付加価値を生む者であるから、メーカーの代理業務としてメーカー商品を売り込むだけでなく、ユーザーの声なき声に耳を傾け、その意をくみ、新たな需要を発見し、その需要に合った商品を探したり、商品の開発者や生産者を探して、需要の拡大に務める任務もあるのだ。

 

21世紀に入り、IT技術が社会の新展開を促し、市民生活に深く入り込んできた。ようやく製造業でもICT技術による新しい展開が始まろうとしている。新しい展開といえば、1960年代の自動化技術が当時の製造業にインパクトを与え、新しい生産の展開が始まった様相がそうだった。そこに何かヒントがあるはずである。

当時の始まりは自動化という需要の裾野はかなり狭かった。半導体、電子部品や材料の未発達によって、自動化の機器やパーツの種類は少なかったせいである。それらが発達して、新たな技術も生まれ、部品や機器類が増え始め製造業は活気づき、工場は増えて需要の裾野は広がった。販売店は増えていく裾野の開拓に全力を上げた。そして開拓したユーザーに新しく増え続ける部品や機器をくまなく売り込んだ。

製造業であるユーザーは次々と発売される部品や機器の使い方を習熟して、思うような自動化を成し遂げてきた。自動化の成長過程で、販売店営業は自ら販売する商品の使い方をユーザーから学び、他の多くの製造業に広めた。

現在、製造業では自動化技術に加えてICT技術を用いたマーケットが草創期として姿を現し始めている。まだまだ需要の裾野は狭い。これからさらなる新材料、半導体、電子部品の開発があり、情報管理技術が加速すれば、新たな需要が発生して成長期へと押し上げる。この時期に販売店はメーカーと顧客間で翻弄されているだけでなく、商人としての役割を果たして需要をつくっていく側に立つ必要がある。そうなればメーカーはイノベーションによる新需要向けの新商品づくりにも気が入ってくる。

(おわり)