【提言】外国人労働者は中小製造業の救世主か? 「米中貿易戦争の激震と第4次産業革命」〜日本の製造業再起動に向けて(46)

2018年12月19日

長きに渡り大規模な移民を拒んできた日本が大きく変化している。

外国人労働者の受け入れ拡大に向けた「改正出入国管理法」の可決により、今後5年間で30万人以上の外国人単純労働者を受け入れ、労働者不足の解消に役立てる計画であるが、この賛否で世論が二分している。

インダストリー4.0/IoTなど徹底推進する中小製造業でも、イノベーションか? 外国人労働者か? または、その両方か? といった疑問や議論が沸騰している。

 

世界に目を転ずれば、移民排除は時の流れである。移民制限にかじを切る欧米諸国に対し、周回遅れで移民を増やそうとする日本の法案には、欧米のメディアでさえ強い違和感を覚えている模様である。日本国内の世論も、治安の悪化や日本文化の崩壊など、移民政策への漠然とした懸念は根強く、不安の声が湧き上がっている一方で、これまで移民に否定的であった日本人の意識にも変化が生じており、外国人労働者受け入れに肯定的となっている国民が増えているのも事実である。

しかし、残念なことに移民施策の反対派にも『反対するために反対する』といった政権に対する根拠のない反対があったり、また賛成派にも『安い労働力が欲しい』といった目先だけの戦略なき賛成があったりする。

『日本の労働者不足の解消』を大義に掲げる移民政策は、本当に日本の救世主なのか? 今回は、この点を徹底的に掘り下げていきたい。

 

この検証を進めるに際し、最も留意すべき点は『川を上り、海を渡る』といった視点である。つまり、連綿とつながる歴史を検証し、海外の視点に立った掘り下げを行うことである。今日、随所で湧き上がる移民施策に対する議論の大半は、残念ながら日本の観点だけを論じる『鎖国状態』となっている。

現在90万を超える外国人労働者は、主としてアジア各国に供給国があり、安い賃金で豊富な労働力を有する国が存在するのも事実である。日本人の多くは、日本が門戸を開けば「いくらでも安い労働力が入ってくるし、優秀なアジア人を教育し、日本人並みの給与を払えば、日本人と同様に日本でいつまでも仕事をする」といった『日本強国意識』を前提に考えている場合が多い。

確かに、現在の日本はアジア諸国と比較し、技術的にも経済的にも優位に立ち、相応の温度差を持っているが、5年先10年先、そしてそのずーっと先まで日本はアジアの優等国でいられるのか? 労働者の流通は、需要と供給のバランスが基本である。需要側の日本がいくら望んでも、供給側の事情が変化し、日本に働きに来る外国人がいなくなる事も十分あり得る。

 

今アジアは激動の渦に巻かれており、アジアの視点で日本の移民施策を考える必要がある。私が真の友好関係を持つ『アジアの製造業経営者』は、日本の移民施策に大きな違和感を持っており、日本が移民に頼って労働者不足を解消しようとする施策を「愚策である」と断じている。

アジア経営者が愚策と断じる理由の最大ポイントは、アジア各国の急速な人件費高騰と労働需要の増大であり、「近い将来、日本の製造業に出稼ぎに行く良質な労働者はいなくなるだろう」と語っている。この背景には、米中貿易戦争の強烈な影響がその流れを加速している。日本ではあまり報道されないが、米中貿易戦争のあおりで中国製造業界は大激震の渦中にある。

中国製造業界は徹底的なアジアシフトを遂行中であり、タイの製造業は中国からの新規競合対応に神経をとがらせる一方で、中国はローテク製造をベトナムの地場産業に委託し始めており、ベトナムでは『風が吹けば桶やが儲かる』的に米中貿易戦争の影響によって大好況が訪れようとしている。アジアにいれば、中国製造業のアジアシフトの勢いとその影響を肌感覚で感じる事ができるが、日本国内からは全体像が見えず、特定の景色だけが強調されてしまう事が多い。

 

中国の影響を受け激変するベトナムも、日本から見るといつまでも低賃金で有能な労働者が存在する『遅れた国』と見えてしまう。特に最近になって、ベトナムは日本への労働者供給国として非常に期待され、ベトナム研修生を採用する地方の中小製造業が激増しており、勤務態度も良好ですこぶる評判が良い。

非常に真面目に働くベトナム人に満足し、『ベトナム人積極採用』を経営の柱に据え、採用面接のために定期的にベトナムに出掛ける経営者も少なくない。ベトナム側でも、日本語学校が人気で、日本企業が一種のブランド化している。

この視点だけ見れば、日本とベトナムの間に、非常に良好な需要供給関係が成り立っている様に見えるが、これが未来永劫に渡って続くことは考えづらい。

 

米中戦争の渦中にある中国製造業では、徹底的なIoT化にかじを切りインダストリー4.0中国版の構築に全力を挙げている。中国にとって「中国製造2025」は、まさに覇権国家構築の最大武器であり、人工知能などを駆使した最先端産業でのものづくり構築は、戦いの要(かなめ)でもある。米中経済戦争は、単なる貿易競争ではない。米中の覇権争いの戦いであり、これから長きに渡り、第4次産業革命がもたらすイノベーション競争が米中で繰り広げられるだろう。

日本の中小製造業においても、このイノベーションに乗り遅れたら生き残れない。幸いにして、人工知能やソフトロボット(RPA)が、中小製造業の救世主として明確にその姿を現してきている。『川を上れ、海を渡れ』に従って、歴史に学べば、製造業の発展拡大がイノベーションの恩恵によって発展してきたことは明白である。これからの中小製造業も、イノベーション戦略以外あり得ず、移民依存では成功できない事を歴史が証明している。

今、低賃金の外国人労働力に依存する中小製造業が日本の各地に存在しているが、労働集約的なその業態を変更しない限り、未来に生き残る事は相当難しいと言わざるを得ない。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた