ディーラーヘルプを考える 黒川想介 (43)

現場情報が付加価値に IoTが改善以上の効果

「背に腹はかえられない」という言葉がある。

1960年頃の東京・隅田川の水は真っ黒で異臭が漂っていた。工場排水、生活排水が垂れ流し状態であった。当時の人々が文化的な生活をするには隅田川の水がどうなろうが背に腹はかえられなかった。文化的生活が定着してくると、法律により垂れ流しの規制が始まった。技術的コストを払ってこの法律に挑戦し、克服して隅田川の水は奇麗になった。

90年頃から北極の氷やヒマラヤの氷河が溶けている映像が人々の目に入り出した。94年にはリオ・デ・ジャネイロで先進国による第一回気候変動枠組条約が締結された。日本がこれを強く意識したのは97年の京都議定書による温室効果ガス削減取り決めの頃からである。法律による規制が強化され、各企業は技術的コストを払ってCO2消滅に挑戦してきた。

 

奇麗な環境の中で生活が始まると、もう後戻りしたくなくなるのは世の常である。21世紀に入って、生産の合理化に取り組んでいた各企業は、企業内の環境に対応する方向へと向かった。2011年の東日本大震災によって一時電力不足となり、背に腹はかえられずに休止していた火力発電を再稼働し石油を燃やした。それでも成熟国家となった日本は、技術的コストを払っても石油使用を極力削減した。

そうした傾向は企業に社会的責任を全うするCSR(corporate social responsibility)という活動を活発にした。企業は利益追求するだけでなく社会に与える影響に責任を持つというCSR活動は、結果的に企業のイメージを上げる企業ブランドになる。
大震災の後遺症から立ち直った企業はCSR活動へと再び動き出した。各現場には環境改善に対する予算が大きく振り向けられた。各製造現場でも「環境」というキーワードによる仕事が増え出した。特に原料工程に近い現場では、効率改善より環境改善が目につき出した。このまま一気に進んでいくと思われたが、3年前辺りから突如として現れたのがIoTである。

ドイツ発のインダストリー4.0によって日本企業はIoTに非常に関心を持ち始めた。製造現場ではそれまで環境だ、CSRだと言っていた雰囲気からIoTへ比重を変えたようだ。CSR活動は企業がつくるブランド価値を、社会性を高めていくことによって築いていく重要な活動であるから忘れたわけではない。しかしドイツ・アメリカからやってきたIoTは、企業の効率化の余地がまだまだ大きく残されていることを示していた。グローバル競争に勝つためには背に腹はかえられないということである。環境に技術コストを払う方向から、製品の品質・生産の効率を上げて企業力をつくる方向へと比重を変えた。

 

日本のモノつくりの特徴はボトムアップ型である。現場で改良・改善を積み重ねてきた過程で、人材のスキルや現場チームのモチベーションを向上させながら組織運営をするモノづくり文化をつくってきた。その強さ故に変化の時には他の方向へかじを切るのに途方もないエネルギーを要するのである。

IoTが現場に入るということになれば、従来とは違った情報技術を取り入れることになる。積み重ねてきた機械制御技術で付加価値をつくることとはひと味違うことになった。IoTに取り組めという指示に悩んだ末に取りあえず稼働データをとっている現場が散見されている。強い現場ほど従来技術にこだわってしまうからIoTの本来の目的である付加価値を生むという方向を見失う。

販売店営業は商品技術に関する知識には弱いが、幅広く現場情報を取るチャンスがある。IoTで悩んでいるように見える現場に、従来の改善以上の効果を生むヒントの情報を提供できる位置にいるのだ。

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