若手技術者にとって最上位の概念は
若手技術者にとって、最重要の最上位の概念とは何でしょうか。育成に労力を注ぐ故、ついつい後回しにされてしまう、またはこれは常識であり、当然わかっているであろう、ということで見逃されてしまうのが実情のようです。今回の技術者育成研究所のコラムでは若手技術者に強く認識してもらいたい最重要の「最上位の概念」についてあらためて考えてみたいと思います。
■若手技術者にとっての仕事の最上位の概念は製造業の根幹
答えはとてもシンプルです。なぜならば若手技術者に理解してもらいたい最上位の概念は、製造業にとっての根幹だからです。
最上位の概念。それは「顧客に販売する製品の安全性」です。ここでいう顧客は自社よりも川下側にいる企業、または最終製品を販売する企業にとっては製品を購入する消費者(消費社)が該当します。さらに言うと、自社が商流でどこにいようとも、最終的に製品を購入する消費者の方々の安全性を常に考えられるか、ということが重要です。
製造業というものは最終製品が何らかの形で消費者に届けるという、頭の中で考えたものを具現化するというとても素晴らしい業種です。素晴らしい製品は何かという考えはいろいろあると思いますが、その製品を購入した人や会社に問題を引き起こす、ということは、製品存在価値の根底を崩す致命傷であることに疑いの余地はないでしょう。
■製造業における安全性に対する意識の希薄化
その一方で、製造業も状況が変わってきているようです。日本の製造業は多様化する顧客ニーズに応えるべく、常に海外の企業との闘いを強いられています。欧米のモデルを参考に第二次産業として戦後復興を支えた時代は色あせ、日本は世界から目標とされ、また目標とするものも海外に少なくなっています。それでも戦後復興での成功体験がある故、日本の製造業においては常に上位概念としてあるのが「効率化と生産性」という、いかに短時間で多くのものを作るのか、という考え。これは企業の生き残りに必須であることは周知の事実です。ただし製品の販売サイクルをあげるため開発期間が短縮された結果、じっくり物事を考えるという時間は減り、常に後ろから迫る炎から逃げるように日々の業務に邁進しているのが現状ではないかと思います。
その一方で、最も重要な「顧客への安全性」という根幹が揺らいでいるのではないか、という場面に多く遭遇することがあり危機感を感じています。
■若手技術者に顧客目線を考える猶予を
どのような産業であっても重要なのは顧客目線です。自社製品を購入したお客さまが満足してくれるのかはもちろんですが、何より「お客さまへの安全性に問題はないか」ということについて今一度考える、ということを若手技術者に徹底するようにしてください。
目の前の仕事をこなすだけになるのは若手技術者の不可避の状況だと思います。それでも、何より大切なのはお金を払って自社製品を購入するお客さまであり、そのお客さまに問題が生じないよう、安全性に意識を強く持つ、ということを日ごろから若手技術者に声掛けするように心がけ、また指導者層にあたる方々もその考えを実践するようにしていただければと思います。
■厳しい競争の続く製造業
高効率化や高生産性を実現するためにも、その基礎となる安全性に対する意識を若手技術者に植え付けることも、企業の競争力強化には極めて重要であると考えます。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社代表取締役社長、福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、並びに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。