ディーラーヘルプを考える 黒川想介 (32)

新時代の草創期 営業は顧客づくりの前面に

メーカーはディーラーヘルプをなぜやるのかと言えば、当然、メーカーの商品売り上げを上げてほしいからである。

一般的には販売店の立場は弱い。販売店はどのメーカーの商品を売ってもよく自由であるのだが、販売店同士の競争やユーザーが特定メーカーの商品を要望することが多いため、販売店の立場は弱いものとなる。メーカーが商品を握っているからだ。

では、メーカーは販売店に対して絶対的に強い立場にあるかと言えば、そうはならない。メーカー同士の競争があるからだ。国際間の争いごとでも同盟国の存在は大きな助けになるように、メーカーにとって特約契約をした販売店の存在は大きい。

日本にとって同盟国は実に頼もしいものであるが、全てが日本にとっての利になるとは限らない。相反することもある。だから同盟がうまくいくように互いが外交努力を常にしなければならない。互いの国が自国の利を第一に考えるのだから、外交はかなり難しい。「こちらが譲歩したのに」だけでは通らない。互いの利害が絡み合っているからだ。

メーカーと特約した販売店の関係も、この同盟と同じである。販売店契約を結んだからといって、全てうまくいくわけではない。「こちらが支援しているのに」だけでは通らない。

業界の成長期には、互いが単純に売上拡大という基本戦略であった。現状ではメーカーは売上拡大のための競合打破戦略が一般的となり、販売店は売上拡大のための顧客拡大戦略に戻っている。その違いが大きく作用する場合が出てくる。しかし同盟国ならぬ特約契約販売店である。互いが強くなり成長することは望むところである。

業界の草創期から成長期にかけて、互いの売り上げが年々拡大していたのは、顧客自体の規模が大きくなっていっただけでなく、顧客の軒数が増えていったからである。その時期に営業戦線の最前線に立って活動し、販売店の顧客を増やしたのはメーカー営業であることが多かった。まだ市場規模が小さかったし、商品が顧客をつくったからだ。

メーカー営業の各課・各営業所では、増えてゆく顧客のフォローを販売店に頼むために積極的に商品勉強会を実施した。市場が成長し、市場規模が大きくなってくると、メーカーの商品販売研修は学校形式で専門部門が担当した。その頃には販売店に顧客をフォローしてもらうだけでなく、顧客への売り込みや見込み客へのアタックのための商品研修が主となっていた。市場規模の膨大化とメーカー競合がやや激しくなり出したからである。

現在はその延長にあり、競合はますます激しくなっている。メーカー営業は前線の後方に位置し、販売店営業が前線の前面に立っている。もちろんメーカー営業でも戦略的に攻める顧客には前面に立って直販促を実施している。それでも今の売り上げの大きい旬の顧客がほとんどである。

しかし市場は複雑さを増し、どこから需要が発生するか分からない程に新しい製品が誕生してくるし、新しい顧客が増えている。ある意味では部品や機器業界の草創期のようなベンチャー時代であるかもしれない。

現在の市場をどのように捕らえるかによって戦略が決まってくる。競合が激しく大競争時代と捕らえれば、メーカーの基本戦略は競合打破してSOM(share of market)を上げることになる。しかし新しい時代の草創期として捕らえるなら、基本戦略は新しい顧客を増やして売り上げを上げることになる。

現状では未知の新しい見込み客や新しい需要に対する対応は販売店の営業まかせである。もし新しい時代の草創期として捕らえるなら、かつてメーカー営業がやってきたように顧客づくりの前面に立つ営業をやればいい。そうすれば新しいディーラーヘルプのやり方が浮かんでくるだろう。

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