モジュールへの機械安全構築が必要-NPO法人 機械安全ソサエティ 原島圭介事務局長-

最近になり、産業革命を大きく4つに区分けし、18世紀末の産業革命を機械化による第1次産業革命とし、20世紀初めの機械の電力化による第2次産業革命、FA化による第3次産業革命、21世紀になり数年前よりネットワーク等を組み入れたスマートファクトリー化の第4次産業革命(Industry 4.0)とすることが、ドイツより提唱された。米国ではIndustrial Internetとして提唱している。詳細は後記する。

機械安全に関しては、第2次世界大戦後の1957年頃に欧州で始まった機械安全が1990年に機械指令として法制化された。5年後の1995年には、その法制化が完全実施された。その機械指令がグローバルスタンダード化され、各国もそれらを採用することになっていった(現在までの状態が前記の第3次産業革命に当たる)。

機械の進化も著しく、機械の運転では無人化の方向になっていった。機械の無人化での運転は工場の無人化につながっていくわけで、将来の機械安全はメンテナンス要員に対する安全が最大の対象となるであろう。この部分が第4次産業革命での機械安全になる。また、機械もモジュール化が進められ、そのモジュールに対する機械安全の構築が必要になってくる。

■システムとしての安全の考え方:入力、制御、出力

安全システムはハードによる対応から始まる。一般の制御系は通常のPLCで行い、安全は安全スイッチ、安全リレーユニットなどのハードの外部機器、配線によるものであった。初期投資は安価なものの機械システムのライフサイクルから見れば一概に安いとは言えない。

例えば、安全リレーの寿命は制御用リレーの約100万回の10分の1程度の10万回程度になっている。もしこれをプレス機械に採用した場合、1日に5000回働かせれば20日で10万回に達してしまう。休日を入れても約1カ月で寿命になってしまう計算である。そのあとはいつ壊れても仕方ないことになる。

機械やシステムに安全機器が多く組み込まれていた場合で安全リレーユニットが不良になった時、そのリレーを見つけ出すのに多くの時間を要するであろう。現実に1ラインに20個程度安全スイッチや安全リレーユニットが組み込まれた現場で、1つ壊れてもそれを探し出すのに多くの時間を要している。

■安全PLCによる対応

PLCを欧州の安全規格のEN954-1(機械の安全。制御システムの安全関連部品。一設計原則:これは当時の規格)に基づく安全として最も高い安全レベルのカテゴリ4の認証を取得できなければならない。

その構造条件は(1)冗長構造であること(2)ダイバシティ(異種構造)であること(3)データの自己点検を行うことが必要になっている。この3条件が、今後の半導体処理装置に関しての安全の基本構造になった。

しかし、1台の機械や装置であればこの安全PLCでよいが、生産ラインなどのシステムにおいては何台もの機械が接続され、その中の1台の機械に不具合が発生すれば接続される前後の機械への影響も出てくる。例えば製品が連続的に送られるシステムであれば、後方の機械にトラブルが出れば製品が送られてこないように前方の機械も止めなくてはならない。このようにシステムの場合、関連する前後の機械にもデータのコミュニケーションが必要になる。そこで要求されるのがネットワークのバスシステムである。

■安全システム:ネットワーク、無線LAN

当初は、汎用制御系のネットワークと安全系のネットワークを区別するべきであった。制御系と安全系のネットワークではコンセプトが異なるのである。

安全系のネットワークで最も重要なことは確定的での安全を保証しなければならない。安全が確認されなければ止まるシステムである。安全にとって、制御系に必要な信頼性と高速性は絶対的なものではない。

制御系のネットワークは作られる製品の生産性と品質を妨げないことにあり、信頼性と高速性が要求されている。究極的には止まらないシステムである。安全系で必要な確定の安全の保証はなくともよい。

将来の技術開発によってこれらが同一のもので処理されるようになるかもしれないが、現段階では区別して取り扱うのが最良のやり方であろう。なおここではネットワークをバスシステムとも言い換えて説明する。

■従来のバスシステム

当時、自動化技術の分野に大きな変革が起こった。

さまざまな装置から装置へのデータ転送の要求の特徴として、いくつかの異なったシステムが規格化され、フィールドバスシステムでは、異なった基準にも適合するよう最適化される必要があった。

基本的に大きな装置や機械ではネットワークの利点は増えて、接続可能なものも数多くなってきた。いくつかの異なるシステムが「規格」として確立された。

■安全バスシステム

汎用制御系のために設計されたバスシステムのいずれも、安全関連のネットワークの要求にどんな形であれ適合することができない。このことからフィールドバスシステムの現在の適用範囲を補う図4のような安全バスシステムの開発が行われた。ユーザーは安全関連のネットワークを利用して、一般に定着しているフィールドバスシステム(省配線で、総合的な診断および高度な柔軟性を持つ)から得るものと同等の仕様を使うことができるべきであった。

安全バスシステムはオープン・プロトコルにし、他メーカーの製造する種類の異なるフィールド機器の接続を可能にするべきであった。安全バスシステムは、また、安全システムの安全PLCのような安全関連制御装置をネットワークに接続できるようにするべきであった。

本質的に、安全PLCシステムのユーザーはわずかな変更点に注意するだけで使えるようにしたい。ユーザーはプログラミングのために1つの使い慣れたソフトウエアを利用し、それにより有効ソフトウエアのブロックを同じように利用し、そのアドレスにて分散する入出力と情報をやりとりすることができることがよい。

安全を確保する手段はデータ伝送だけでなく、バスシステム自身にも直接関連がある。安全なバスシステムの設計のためには、すべてを考慮に入れること、つまり異なる状況に対するさまざまな手段が必要だ。

一般にこれらはバスプロトコル、ネットワーク管理そして、一般的に冗長に設計されるさまざまなバスのハードウエア構成にも関連する。いわゆる、自己点検機能付ダイバシティ(異機種)冗長化構造である。この安全の考え方は欧州だけでなく米国のANSIのロボット規格R15.06-199でも引き継がれている。

■第4次産業革命と今後の安全計装システムの方向性について

英国で起こった産業革命(18世紀後半)により手軽工業から機械工業に変革した。蒸気機関等による工場の機械化になった。この時期は機械に無知な小さな子供から働ける年寄りまで機械に従事した。そのために多くの労働災害が出た(現在ではこの時代を第1次産業革命とした)。

その後、機械・装置の動力に電力を使用し、大量生産した生産ラインを第2次産業革命(20世紀初め)、機械・装置に電子機器、例えば、自動制御にPLCやIT等を使用した生産工程を、自動化した生産ラインを第3次産業革命(1970年代)と呼ぶことにしたとしている。しかしながら、この第2次産業革命頃までは労働災害もまだ多く、第3次産業革命頃になり機械に対する安全の考えが出来上がってきた。1995年以降、欧州では機械安全が確立した。その安全が世界に拡散していった。

第4次産業革命のコンセプト。それは、「進化した工場」、ドイツの検討グループの言葉によれば、「スマート工場(Smart Factory)」の実現とのこと。

第4次産業革命について出された図などがあり、インターネットで検索できる。

第4次産業革命になって、工場がスマートファクトリー化することで、仕事の形態が変わってくることは間違いなく、工場での作業がなくなる方向になり、安全な環境での仕事になる。

しかし、機械はいつか必ず壊れるわけで、その時の保守および修理、交換、設置などは保守要員が行うわけで、安全計装システムは必ず必要で、安全対応の対象部分が少ないことで、前記にも書いた高度の安全が組み込まれているであろう。

場合によりスマートファクトリーは複数箇所ある。点在するスマートファクトリーを平面的にネットワークで結合することである。そのことにより全体を一元管理することができるようになる。同時に複数箇所にてのバックアップも行える。巨大災害などで管理する場所が不能になっても、災害が及ばない場所で一元管理を停止させることなく運営できることになる。

ここで必要になる安全は機械安全ではなく、ネットワーク上のセキュリティの安全である。世界中にいるインターネットへのハッカーが問題になる。それらのハッカーによって、スマートファクトリー内の安全が脅かされては困る。どのように外部のネットワーク(オープンネットワーク)と、スマートファクトリー内のネットワークを切り分けていくことがこれからの大きな課題と言えよう。

日本では、日本の安全は進んでいると思っている人が多いが、しかし決して安全は進んでいない。その主な理由は法制化にある。良く有識者は法制化しても同じであると言うが、それは間違っている。その理由は英国の災害のデータと比較すればよい。1桁異なるはずである。それだけでなく、災害の条件も異なるからだ。

法制化すれば必ず安全の方向に進んでいく。一部の守らない者がいるが、それらは法的に処罰できるからだ。誰でも投獄されたくはないであろう。

また、欧州への輸出を考えた場合、必ず安全が必要になってくる。日本向けは安全を適当にし、輸出に対しては安全を完全にした場合、ダブルスタンダードになる。これは設計とか在庫とかメンテナンス方法などで経費も上がってくるものである。もし、災害が発生すれば莫大な損失が出る。

しかしながら、欧州の安全規格は必ず日本にやってくる。欧州の安全規格は法律であり、日本も同等の法律にすれば多分欧州を超える安全の国になると考える。

機械安全ソサエティ(JASMAS)では安全規格が欧州と同等の法制化になることのサポートを行う所存である。

〈参考文献〉
1) ドイツの「第4次産業革命」つながる工場が社会問題解決:日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2302G_T20C14A1000000/
(日経テクノロジーオンライン 高野敦氏)

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