【インダストリー4.0】山田太郎の製造業は高度な情報産業だ!(8)

■日本版インダストリー4.0の具体論

4月28日、拙著「日本版インダストリー4.0の教科書~IoT時代のモノ作り戦略~(日経BP社)」を上梓した。本のタイトルを“日本版”インダストリー4.0としたのには理由がある。ドイツのIndustry4.0をくまなく視察し、また、かつてヨーロッパに住んでいたこともあり、ドイツ人の気質を加味すれば、当然、製造業の次世代戦略はドイツと日本とでは違うものになるはずであるという思いからだ。

残念ながら日本で出版されているIndustry4.0関連の本を見ると、概念論ばかり、カイゼンの延長上、スマート工場がその中心といったものばかりだ。相変わらず、日本からのIndustry4.0視察団は工場現場を見て、ダメだしをしていると聞く。本稿ではたびたび触れてきたが、Industry4.0の本質はビジネスのプラットフォームを標準化していくという点に気付いてほしいと思っている。

拙著では日本版のIndustry4.0の具体論として、スペックマネジメント・スループットマネジメント・アセットマネジメントの3点を提案している。製造業の本質は製品のQCDをコントロールし、適切に市場投入することで、儲けることである。IoTの時代に入り、その手段も当然変わってきた。それぞれについて簡単に説明したいと思う。

まず、スペックマネジメントについてだ。顧客は見える製品そのものではなく、製品のスペック(機能・仕様)を買っている。だからこそ、売れるスペックの製品をタイミングよく市場に提供し、儲けることが重要だ。ところが、製造段階に入ってから、スペックのマネジメントをすることはできない。その前段階の設計や開発などのシミュレーション部分こそが、製品の付加価値をコントロールでき、スペックマネジメントをすべき重要な場面となる。

一つひとつの製品が「利益=回収-投資」で単純化された収益モデルで考えれば、どんなQCDの製品をどのくらいの価格・タイミングで投入し、市場から引き上げるかの判断をQCDそれぞれの依存・相反関係を調整しながら売れる製品を作っていくことこそが、スペックマネジメントの本質である。

続いて、スループットマネジメントについてだ。エリヤフ・ゴールドラッドが1980年代後半に書いた「ザ・ゴール」というあまりも有名な小説がある。しかし、2010年代の今でさえも、ボトルネックを探せないまま、自動化やロボット化に頼って一部の工程の稼働率を上げようとする経営者があまりにも多い。

「最新鋭ロボットを導入し、自動化率を高めることが工場の生産性を上げる」という考え方が必ずしも正しくないこと、現場の情報を可視化さえすれば生産性向上につながるという考え方に警鐘を鳴らした。まさに、Industry4.0やIoTについて多く見られる勘違いを指摘している。

全体のスループットを上げるためには、工程上のボトルネックを探し、(1)資源(材料)制約(2)資源(ヒト・機械)制約(3)オプション(仕様)制約の三つの制約を解いていくことにある。近年の需要変動、生産変動に対応できるシステムとして、REPAC(準備-実行-処理-解析-調整)型のモデルが考えられる。

最後に、アセットマネジメントの重要性だ。製品ライフサイクルが短くなり、少量多品種化している。単純に考えれば、1製品あたりの生産台数は減少傾向にあるということだ。その環境下で、設備や人などの固定費を注ぎ込みすぎると注ぎ込んだキャッシュを回収できなくなる可能性が高まる。以前に触れたが、まさにシャープの亀山工場がその典型だ。

経営の将来に対する不確定要素が増しているからこそ、個々のプロジェクトや製品ごとの損益分岐点を意識し、できるだけ固定費を小さくして、仕様のばらつきを可能な限りコントロールし、投資を早めに回収できる仕組み作りが求められている。これを行うことが、まさにアセットマネジメントだ。

最後になるが、この連載が紙面にのる頃には日本とドイツとの技術標準化面での連携が発表されているタイミングかと思う。発表される内容はおそらく、具体性に欠き、物足りないものとなる可能性が高い。この分野で出遅れた日本としては、いち早く推進体制や具体的検討内容を詰めていくべきだと考えている。いずれこの件についてもこの連載で触れたい。

(参議院議員)
山田太郎(やまだ・たろう)参議院議員

慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を生かしステーツマン(政治家)として活躍中。

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