混沌時代の販売情報力、黒川想介(100)

2014年2月26日

「爵禄百金を惜しみて、敵の情を知らざるは不仁の至りなり」と孫子の用間篇にある。スパイにかかる微々たる費用を出し惜しみ、スパイを使って敵の実情を知ろうとしないのは、国の民や兵に対して思いやりがないと孫子は言うのである。それほど敵の実情を知ることは大事なことであり、勝利への最短の道ということができる。

このフレーズを現代の販売員に当てはめて解釈すると、売り上げにあまり関係ないからといって、顧客に関する情報収集にわずかな時間も割かないで、顧客から提供される案件の処理に多大な時間を費やし、競合打破のための商品PRに飛び回ってばかりでは真の販売員とは言えないということになる。

特に現代は、業界も成熟し混沌とした時代に入っている。顧客情報やマーケット情報を的確にとらえなければ、これからの拡大路線に出遅れる。だから顧客の現場が微妙に変化していることを察知できなければ、現代の販売員の役目を果たしていないことになるし、報告を受けた企画や幹部がそれらの情報をどのように洞察するのかが勝利にかかわってくると孫子は言うのだ。

顧客やマーケットを知るということは口で言うほど簡単なことではない。しかしやらねば孫子の言う不仁の至り、つまり販売員としての役目を果たしてないことになる。知ると言ってもどんなことをどこまで知る必要があるのか。少なくとも現在、販売員が顧客に関して知っていることはほんの表面的に過ぎないということは確かである。だから、顧客の集合体であるマーケットについても大雑把な見解になってしまっている。成熟社会になればなるほど、あらゆることが多様化してくる、これまでも多様化してきた。

例えば、かつてオートメーションという大括りなマーケットでオートメパーツを売っていた。やがてオートメーションという市場は、オフィスオートメーションやファクトリーオートメーション、あるいはホームオートメーションなどに分化した。現代流に言い換えるとオフィスオートメは幅広く業務用としてのパーツとなり、ホームオートメは民生用としてのパーツとなり、ファクトリーオートメはFA用としての機器やパーツとなり、それぞれが各分野に合った商品として育ってきた。業務用市場は色々な業界に分化してきた。民生用市場も色々な業界に分化してきた。

両者と比べるとFA市場は意外と細分化の度は弱く、今でもFA業界として捉えられている。業務用市場や民生市場に比べれば、物づくりであるFA市場にはそれほど大きな変化がないということになる。

社会の成熟化が進むほどに世間は生活の質を上げようとするし、個人や法人の欲求はさらに多様化に向かうから、民生市場や業務市場はますます新たな市場に分化していく。そうなれば、物づくりのFAにも、今までの流れではない変化が具体的に出てきてもおかしくはない。

そういう観点に立って製造の現場が見えてこなければならない。

業務、民生の市場のように誰の目にもわかるような著しい変化がないから、現場に出向く販売員の情報収集の目が重要になってくる。

現在、販売員は自分の顧客に何が売れるか程度を知っているから、顧客のことはすべて知っていると思うのは間違いである。原点に戻って顧客の事業内容を具体的に把握するところから始めなければならない。販売員であるから、まず顧客の業態を営業の立場に立って分けて見ていく必要がある。業態に関して次回に詳しく考察する。
(次回は3月12日付掲載)