2011年ものづくり白書 『主要製造業の課題と展望』 ⑳繊維産業炭素繊維など新素材に期待

1.現状

繊維産業、特に繊維製造業の従業者数は約35万人で製造業全体の約4・2%、付加価値額は約1・9兆円で製造業全体の約1・9%となっている。

さらに、一昨年秋口以降は生産レベルが急激に減少し、以降、低レベルで推移している。

また、福井(付加価値額約902億円、同地域の製造業全体の16・4%:以下同様)、石川(約896億円、3・3%)、岡山(約1251億円、11・6%)など産地性が強く、これらの地域では地域経済で大きな影響力を有している。

日本の繊維市場では、輸入品が年々増加していたが、2008年はリーマンショックの影響もあり、輸入額が減少している。

我が国の繊維製品の輸入においては、中国が最も大きな割合を占めており、衣類においては85%(金額ベース)を占める。

2.我が国繊維産業の強みと弱み

日本の繊維産業は、中国を始めとする海外からの輸入が多くを占め、国際競争が激化していることに加え、小売段階と製造段階の分断構造からもたらされる大量のロスの存在、国内人口減による市場の縮小、粗原料の逼迫、匠の技を持った産地の疲弊等により、極めて困難な状況に置かれている。

しかし、日本には、炭素繊維など高機能で国際競争力のある繊維素材や、東京を中心とした高感度で大規模なファッション消費市場があり、また、海外の高級ブランドにも高く評価をされている産地の匠の技、世界有数の技術力に支えられた新素材開発力、世界からも評価されているデザイナーの存在など強みも大きい。

構造改革を推進し、これらの強みを十分に発揮することが出来れば、日本の繊維産業は大きく飛躍をする可能性を秘めている。

3.世界市場の展望

人口減少に伴い国内市場は中長期的に縮小傾向にある一方で、アジア等新興国の経済発展(富裕層の増加)による世界市場の拡大が見込まれる中、特に中国内販の拡大が一つのキーワードとなってくるものと考えられる。

我が国の高度な技術等に裏付けられた高付加価値製品をいかにして、これらの市場に浸透させるかが課題となっている。

4.我が国産業の展望と課題

(1)今後の競争力強化に向けた対応

我が国繊維・ファション産業は、衣料などコストの低さを活かした新興国・途上国の低価格品と、ブランド品等欧米の高価格品に挟撃され、厳しい状況が続いている。

従来から問題視されている我が国の繊維・ファッション産業の高コスト構造や分業・流通の非効率性、ブランド力不足、海外展開の遅れといった弱点も引き続き存在している。

さらに、08年秋から始まった世界的な景気後退に伴う需要の急激な縮小を始めとして、消費者による環境問題や安全・安心問題に対するより一層の意識の高まりなど、繊維・ファッション産業を巡って新たな環境変化が起きている。

一方、我が国繊維・ファッション産業には、機能や品質等の技術面、デザイン等の感性面、川上(糸、素材)・川中(織染加工)・川下(アパレル・ファッション)が一貫して存在していること等の強みがあり、これらを活かすことによって、産業として再び大きく発展するポテンシャルを有している。

こうした状況を踏まえ、日本の繊維産業が、国際競争力を強化し、今後大きな飛躍を達成するためには、自らの強みをいかし、また、その弱点を克服していく必要がある。

繊維産業が今後進むべき方向と繊維政策の在り方について、07年5月にとりまとめられた「繊維産業の展望と課題
技術と感性で世界に飛躍するために―先端素材からファッションまで―」に基づいた取り組みが重要となる。

具体的には、繊維産業全体として取り組むべき課題と政府の役割として、

(1)構造改革の推進、(2)技術力の強化、(3)情報発信力・ブランド力の強化という3つの柱と、これらに共通する横断的な課題である(4)国際展開の推進、(5)人材の育成・確保という2つの基盤整備について示されており、これらに新たに「環境、安心・安全対策の推進」を加えた6つの視点を踏まえつつ、現下の経済状況の変化に対応した取り組みを進める必要がある。

(2)東アジア等グローバル戦略

日本の繊維企業は、これまでの中国(特に沿岸部)生産一辺倒から新たな生産拠点をアジアで模索し始めている。これは、一極集中リスク回避のためだけでなく、日本国内での低価格志向を踏まえ、人件費が高騰し始めている中国沿岸部の生産拠点を見直す必要が出てきたためである。

ASEANは、かねてより日系企業の進出も多く少量ながらも早くから生産拠点として認知されていたが、08年12月に発効した日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)により、今後協定の関税メリットを活かしたビジネスが活発になることが期待される。

また、今後の我が国繊維産業の一つの潮流と考えられる中国内販を拡大するため、アジア域内で発効している各種EPA(中・ASEAN
EPA等)を活用し、我が国繊維製品のASEANを中継点とする輸出ビジネスの構築も期待される。

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