企業リスクマネジメント第57話~ルールが通用しない脅威 グローバル時代の生き残り戦略

世界地図は自国流に表記されており、国際的に統一されていないことをご存じであろう。例えば日本で「東シナ海」と呼ぶ海域は、中国では「東海(East
China
Sea)」と呼ぶ。呼称は、あくまで自分目線でありその国が決めている。またCNNの報道でもEast
China
Seaと呼ばれており、第三者国から見ても中国の海のように映る。今、その海域にある尖閣諸島の領有権を巡って中国が強硬な姿勢を行使し、我が国にとっては最も油断できない緊張した海域となった。

そもそも、2008年に日中政府が東シナ海ガス田共同開発で合意した際に、両国の境界線については棚上げにしていたことに遡る。

問題は、この尖閣諸島付近で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し、日本は中国人船長を公務執行妨害の疑いで逮捕したことから始まった。日本政府は「国内法にのっとり粛々と適用していく」といった日本の姿勢を示し、中国はこれを、日本が尖閣諸島の領有権を主張しているという風に受け止めた。その結果、これでもかとばかりに報復措置を講じてきた。日中条約締結交渉の延期、中国企業による大規模訪日旅行の停止、中国招待の青年団訪中の受け入れ延期に続き、経済制裁として極めつけというべき日本向けレアアースの輸出禁止など、わずか2週間の間に次々とカードを切ってきた。一番の打撃となる「経済措置」を示唆し、国家主権や領土保全のために「屈服も妥協もしない」とトップ自ら強い対日批判を露わにしている。中国民衆の反日感情は高まる一方だ。中国メディアからは、円買いで円高を進める運動や、日本企業の輸出に対する圧力、日本製品不買運動などの可能性まで報じられている。

そして日中関係の悪化を懸念した日本は、日本企業の社員が北京で拘束されてしまったことを受け弱腰になり、ついに拘留していた中国人船長を処分保留のまま釈放してしまったのである。検察に対し、日中摩擦を回避するよう政治的圧力がかかったことは否めないし、苦渋の判断であったことは察するが、日本としては最悪な結末になってしまった。

この釈放により、日本の司法手続きは不法であって、国内法で処置するのはおかしかったということになり、日本領土でないことを認めたようになった。この結果、日本領海に中国の漁船が堂々と往来し漁場を荒らすかもしれないし、中国は益々、東シナ海の海洋権益を増すであろう。共同開発のガス田においても、共同開発条約を無視して独自で掘削活動を開始するかもしれない。何より、「日本は強硬姿勢で臨めば屈する」「圧力をかければ引っ込む」といった印象を与えてしまったことはまずかった。アメリカは、今回の騒動を「中国式外交だ」といい、韓国では「中国の無差別報復に日本は白旗を揚げた」と報道した。情けないと野党は批判するけれど、人質も取られ、経済打撃である依存率100%近いレアアースも止められ、どうすればよかったのか。拿捕する際に、日中問題に発展するリスクと対応戦略を描かなければならなかったと悔やんでも後の祭りである。

これは日本政府が外交に弱いのではなく、一般的に日本人自体が性善説で物事を見ていて、判断が甘いのだと思う。中国企業と売買取引契約書を交わしたある企業は、契約違反されても開き直られ、結局大損を食らった。こういった痛い目に遭った日系企業は数知れないと聞いた。日本を抜いてGDP世界第2位に躍り出た中国はその力を蓄え、国際ルールを無視して欲しいものを得る“力づく戦法"を進めてくるかもしれない。歴史的にも地理的にも摩擦が生じやすく、経済的に依存している日本にとっては大変難しい相手である。

中国はアジア圏のリーダーになろうとしている。そのような国と、どのようにして上手く付き合っていくか、真剣に考える時が来ている。
(シュピンドラー株式会社

代表取締役シュピンドラー千恵子)

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