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【FAトップインタビュー】フジコン 代表取締役社長 大島右京「端子台メーカー」からの脱皮へ 変革に挑戦

50年以上にわたって端子台メーカーとして活躍してきたフジコン。ECを利用したチャネルや新規顧客の開拓、自社の保有技術を活用した新製品開発と新事業領域への展開など、「昔ながらの端子台メーカー」のイメージを脱却すべく意欲的な挑戦を続けています。現在の取り組みについて、代表取締役社長の大島右京氏に聞きました。

新規客の開拓へネット販売を強化

――最近はネット販売に力を入れているようですね

MonotaROやトラスコ中山のオレンジブック、アスクル等に加え、最近は海外に強いデジキー(DigiKey)でも製品の取り扱いを開始し、WEBでの販路を拡大しています。2024年4月にはネット通販の強化をはじめ、戦略的な販促活動やWEBマーケティングを実行する営業企画課を新設し、新規のお客様からの引き合いや売り上げが急激に伸びています。ある大手企業のデータセンター向けの大型案件がネット通販経由で入ってきて、これまでのネット通販の過去最高売上を記録したりもしています。今まででは考えられなかった規模の受注があり、ネット通販の可能性を再認識しています。

ーーネット販売を強化する狙いと効果は?

もともとネット販売は新規のお客様獲得を狙って始めました。まだ接点を持てていないお客様は幅広く存在し、そうした方々にアプローチするにはネット通販で網を広げておくことが有効だと考えました。

また、既存のお客様に対してもネット販売が有効であることが分かってきています。既存顧客といっても取引をしているのは設計や調達部門が中心で、お客様全体ではありません。スペックインやPOCにつなげるには新製品開発に携わる商品企画や開発部門などの前工程で製品を試してもらうことが重要であり、これまではそれがあまりできていませんでした。その理由は、彼らは試作に必要な部品は購買を通さずにネット通販ですぐに手にいれることが多かったのです。そこで、彼らのニーズを捉え、接点を持つにはネット通販でラインナップを拡充しておくことが有効であり、実際にネット通販をきっかけに開発の初期段階に入り、スペックインにつながったケースも出てきています。ネット通販で上流工程にアプローチし、量産の暁には既存の商流へ流していく。こうした好循環が生まれています。そのため販売店も、当社がネット通販に力を入れていくことに賛成し、歓迎されていることもあり、今後さらに強化していこうと思っています。

グローバルECを活用して海外へ販路開拓

――海外向けの販売も強化しているそうですね

デジキーとの取り組みは、本格的な海外展開の足がかりとして非常に期待しています。これまでも既存の商流で一定の売り上げはありましたが、特別な販促活動を行った結果ではなく、問い合わせに対応しただけで得た成果でした。本格的にマーケティングを行えば、さらに大きな成長が見込めると考えています。将来的には、ネット通販経由で量産につながれば大幅な売上増の可能性も十分にあると見ています。

自社技術を活かした新領域へのチャレンジ「端子台プラスアルファ」

――新線略となる「端子台プラスアルファ」とは具体的にどんな取り組みですか?

当社は創業以来、約60年にわたり端子台の専業メーカーとして歩んできました。しかし100年企業を目指す上で、端子台一本足ではリスクが高く、新たな事業の柱を育成する必要があると判断しました。そこで現在、「バスバー」と「放熱補助部品」、「基板端子」の3つ製品に対する取り組みを強化しています。

バスバーはお客様のカスタムニーズが非常に高く、電子部品メーカーや機器メーカーはお抱えの板金メーカーに製造を委託することが多かった製品です。しかし最近は中小規模の板金メーカーの廃業が急増していて、新たな調達先を必要としているという声が多く聞こえてきます。そこで当社でも、端子台で培った金属加工技術やニーズに合わせた製品開発力を活かし、バスバーの製造受託を受け入れています。

――放熱補助部品についてはいかがですか?

当社の取り扱い製品のなかで「トランジスタクリップ」という30年以上前から取り扱い、累計で4000万個以上の販売実績がある製品があります。この製品は、お客様からの要望でトランジスタを基板に固定する部品として開発したもので、これまでは固定用具として販売していました。それが、近年の電子機器の高密度化・小型化にともなう熱対策が重要視されるなかで、このトランジスタクリップの「押さえつける力」が放熱に有効であることが分かりました。そこで改めて、放熱補助部品として価値提案をはじめています。

実際に試験データを取得し、それをもとにお客様に提案をしたところ反応は上々でした。今後は「トランジスタクリップ」という名称にとらわれず、「電子部品用放熱クリップ」といった形でより用途が分かりやすくして提案を強化していく予定です。

――基板端子は?

基板端子は、元々はネジに圧着端子を固定して通電させる目的で開発しましたが、お客様にヒアリングすると、プリント基板同士を垂直や水平に固定する「固定用途」で使われているケースが少なくないことが分かりました。そこでスペーサーのような部品の代わりに、より低コストで基板同士を固定できる固定用具として新たな使い方の提案を行なっています。「固定金具」というカテゴリーは、まだデファクトスタンダードがないため、ここに新たな市場があると期待しています。

ーー既存技術や製品のリブランディングや新用途の開拓ですね

端子台は、突き詰めれば樹脂成形部品と金属加工部品の組み合わせです。当社はそれらを内製することで、長年にわたって樹脂成形と金属加工という要素技術を培ってきたという実績と信用がありますが、いままではそれを十分にアピールできていませんでいた。「端子台のことならフジコン」という昔からのイメージはありがたい反面、それ以外の可能性を狭めていた側面もあります。今後は、バスバーや放熱補助部品なども含め、「フジコンは端子台だけの会社ではない」ということをしっかりと訴求していく必要があります。そこで「フジコン通信」のような情報誌を作成して積極的に情報発信を始めています。

日本の製造業復活に向けて「5K」を推進

ーー人手不足や価格高騰など日本の製造業は苦しい状況にあります

いまの製造業は、残念ながら若者にとって人気のある業界とは言えません。この状況を変えないことには、日本の製造業の未来は危ういと危機感を抱いています。よく言われる「3K(きつい、汚い、危険)」というマイナスイメージを払拭し、新たな5つのK、「5K」を目指すべきだと考え、全社で取り組んでいます。

5Kの1つ目は「かっこいい」です。これは当社が応援しているコンゴの紳士服飾文化「サプール」にも通じますが、見た目だけでなく、立ち居振る舞いや仕事への姿勢を正すということです。

2つ目は「きれい」。整理整頓が行き届いた工場は、安全や品質の基本です。当社の工場を見学された方からは「ここまで整理整頓が行き届いた工場は見たことがない」とお褒めの言葉をいただくこともあります。

3つ目は「健康」。心身ともに健康でなければ、良い仕事はできません。健康経営を推進し、社員がいきいきと働ける環境を目指しています。

4つ目は「感謝」。お客様はもちろん、仕入れ先、そして社内の後工程もお客様であるという考え方に基づき、互いに感謝の気持ちを持って仕事に取り組んでいます。そうすれば良い循環が生まれ、結果として業績向上にもつながると信じています。

最後の5つ目は「希望」。端子台だけでなく、バスバー、放熱補助部品、基板端子といった新たな柱を成長させ、会社全体を発展させていく。社員一人ひとりが事業の成長を実感し、将来に希望を持てる会社でありたいと考えています。

この「5K」を実現できればもっと魅力的な会社になり、ひいては製造業全体のイメージアップにも貢献できるはずです。

ーー今後に向けて

足元では、中国市場の回復の遅れや日系メーカーのシェア低下など、厳しい状況が続いています。だからこそ「端子台プラスアルファ」や、ネット通販、海外展開といった新たなチャレンジに全力を尽くしていくことが重要なのです。また「5K」の実現を通じて、社員にとっても、お客様にとっても、そして社会にとっても魅力的な企業であり続けたいと考えています。

製造業は、決して古いだけの産業ではありません。常に変化し、新たな価値を生み出し続けるダイナミックな世界です。その面白さ、奥深さを、これからも発信し続けていきたいと思います。

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