

「磁気一徹」で、自社開発による高感度で高信頼性の磁気検出素子「可飽和コイル技術」を応用した磁気センサーやリニアエンコーダーなど磁気応用製品の開発・製造を手がけるマコメ研究所。カスタム・特注品を強みとし、過酷環境下で極めて高い精度と信頼性が要求されるモータースポーツや特殊な用途でも数十年にわたって継続採用されている実績があり、その技術力と製品品質は折り紙付き。近年はFA以外の領域にも積極的に挑戦しています。同社の2025年度の事業への取り組みについて、代表取締役社長の沖村 文彦 氏に聞きました。
カスタムや特殊用途の受注を支える信頼性
――2024年度を振り返っていかがでしたでしょうか。
2024年度は、全体としては厳しい一年でした。特に主力顧客の一つであるマテハンメーカー様からリニアエンコーダーの先行受注を受け大きく納入した反動で、後半は在庫調整に入り、受注が大きく落ち込んだのが響きました。
その一方で、磁気センサーのOEMが予想を上回る注文を頂き、また特殊船舶向け製品もメンテナンス需要が堅調で、厳しい状況を支えてくれました。またモータースポーツ関連でもレース車両向けに製品を提供しており、そちらも堅調でした。
船舶もモータースポーツ関連も完全な特注品で、極めて過酷な環境下で使われます。数こそ出ませんが、1台1台に求められる精度や耐久性など要求事項は非常に厳しいものばかり。そうした特殊な注文が数十年続いており、これもお客様から信頼いただいている証だと思います。
――まさにニッチ領域ですね
お客様の要望に徹底的に応えるカスタム対応力が当社の特長で、例えばケーブルの出し方を少し変えるといったような細かな要望に対しても、お客様と二人三脚で製品を創り上げていきます。
それと非常に重要視しているのが、万が一不具合が発生した際の対応です。安価な海外製品などでは、不具合が出ても原因は明かされず「代品を送って終わり」というケースも少なくありません。しかし当社では、不具合品を回収し、製造部門が徹底的に分解・調査し、原因を究明して詳細な報告書をお客様に提出します。たとえ軽微な製造上のミスによるものであっても、正直にありのままに報告します。お客様からは「そこまでやらなくても良いのに」と言われることもありますが、地道で誠実な対応こそが製品の品質に対する信頼の礎になっていると自負しています。それが「困ったことがあったらマコメに相談しよう」と言っていただけているのだと思います。
AMRが成長する中でもAGV向け磁気ガイドセンサー堅調
――主力製品の一つであるAGV向けの磁気ガイドセンサーはいかがでしたか?最近は現場の自動搬送のトレンドはAGVからAMRに移ってきているように思えますが。
正直なところ、AMRの台頭によって、当社のAGV向けの磁気誘導方式のガイドセンサーはガイドセンサーを搭載する磁気誘導方式AGVはかなり厳しい状況に置かれると予測していました。しかし蓋を開けてみると、いまだにカテゴリー別売上ではAGV向けガイドセンサーが一番大きな割合を占め、堅調に推移しています。
物流業界ではAMRの導入がトレンド化していますが、どんな環境でも導入可能と言う訳ではないと思います。またAMRが普及してきたとは言え、導入コストはAGVに比べ高く、システム構築なども障壁になると思います。一方、磁気誘導方式のAGVは悪環境に強く、広く普及している事から導入コストも低く抑えられるなど、優位性も備えています。
また安全性を最優先し、決まったライン上を走行させたいというニーズが根強い現場もあり、磁気誘導方式の堅牢性や確実性が再評価されています。
もちろん今後AMRがさらに普及していくことは間違いありませんが、全ての現場がAMRに置き換わるのではなく、コストや安全性、現場環境に応じてAGVとAMRが「使い分け」られていくと考えています。その中で、AGVに求められる役割、特に悪環境下での安定稼働というニーズは、決してなくならないと見ています。
ひずみ計を使った地震観測装置を産総研から受注 リニアエンコーダーの受注回復、地震観測装置の納入
――2025年度上期は好調なスタートを切ったようですね。
年度当初は前年並みを維持できれば良いと考えていましたが、蓋を開けてみると、上期は受注、売上、利益ともに前年を上回る状況で、想定以上に今のところ好調に推移しています。
その大きな要因の一つは、前年大きく落ち込んだリニアエンコーダーの受注回復が挙げられます。お客様の在庫調整が思いの外早く解消したためと思いますが、再びご注文を頂けた事に胸を撫で下ろしています。AGV向けガイドセンサーの受注も堅調であり、今期も当社主力カテゴリーが牽引役となります。また地殻活動総合観測装置の納入や特殊船舶向けセンサー及びメンテナンス業務も売上に貢献してくれました。
その大きな要因の一つが、産業技術総合研究所(産総研)から注文いただいている「地殻活動観測装置」です。地下深くに設置し、岩盤の微細な動きを電機信号に変えて捉える「ひずみ計」の一種で、地震を予知するための装置となります。これまで複数の企業で分担して製造していたものを、今年度からすべて当社で手掛けることになり、売上が大きく伸び、今後も増えていく見込みです。
高信頼性・高耐久性技術を活かして建設機械や重機分野へ参入
――2025年度に注力する取り組みは?
昨年度に悪環境下での回転角度検出に適したロータリーエンコーダー「MRE-5049」と回転ポテンショメーター「MRP-5026」を発売しました。現在はお客様からの反応も良い感触を得ています。また新製品としてこれらの廉価版、普及版を今春に発売し、提案活動を進めています。
また今年度は「建設機械」の分野に本格的に挑戦していこうと考えています。当社の製品は、創業以来「悪環境に強い」ことを特長としてきました。屋内のプレス機周辺のような、振動や油ミストが飛び交う過酷な環境で培ってきた高信頼性・高耐久性の技術は、屋外で稼働する建設機械の分野でこそ活かせるのではと考えています。
第一歩として、今月幕張で開催された「国際建設・測量展」に初出展しました。これまでもトンネルを掘削するシールドマシンや杭打ち機などで実績はありましたが、本格的にこの市場にアプローチするのは初めての試みです。バックホーのアームの角度検知や、シリンダーの伸縮長の計測、車体の傾斜検知などの他、私どもがこれまで想像もしなかった使い方やニーズがきっとあるはず。新規分野への挑戦を通じて、新たな顧客との出会いや新しい製品開発のヒントを見つけたいと大いに期待しています。
――その他に取り組みは?
長野県内にある公立大学と共同で、「極低温環境」で動作するセンサーの研究開発に着手しました。液体窒素のような極低温の中でも安定して動作するセンサーの実現を目指しており、これが実現すれば、例えば宇宙環境のような、これまで踏み込めなかった領域への応用も視野に入ってきます。今はまだ基礎研究の段階ですが、未来の市場に向けた重要な布石だと考えています。
特注のコイル巻線機が完成 新製品開発の追い風に
――新製品や設備投資の予定などは?
長年の夢であった「可飽和コイルの面実装(SMD)化」に向けた設備投資を進めています。これまで磁気センサーの心臓部である可飽和コイルは職人技による手作業での製造でしたが、これを自動化する特注の生産設備(特殊巻線機)の開発を進め、年内にも導入される予定です。これが実現すれば新製品開発の追い風となるのは間違いなく、この設備導入を足がかりとしてこれまで参入できなかった分野への展開も加速させていきたいと考えています。
また、お客様からの要望が強いCANopenやIO-Link、J1939といった通信規格に対応した製品開発も急ピッチで進めており、来年にはリリースできる見込みです。
会社の急成長より社員一人ひとりの働きがいの整備を推進
――今後の展望について
当社の強みは、大企業のように、数がまとまらなければ対応しないといったことはなく、たとえ1個、2個の注文であっても、お客様が本当に困っている課題に対して、技術者が一緒になって解決策を考え、形にしていく姿勢にあります。そのためにも、急激な成長や拡大を目指すというよりは、社員一人ひとりが自分のペースで、やりがいを感じながら仕事に取り組める環境が大切であると考えます。会社を発展させる事も重要ですが、今後もそのスタイルを変えることなく取り組んでいきたいと思います。
またモータースポーツや特殊船舶といったニッチな分野からの期待に応え続けるとともに、建設機械や極低温領域といった新たな領域へも果敢に挑戦していきます。お客様の「こんなことできないか?」という声に耳を傾け、センシング技術で社会の様々な課題を解決していきます。